第5話 モヤ

その後、彼は私に対してどんどん束縛をするようになって行った。


心配だから、短いスカートを履くな

心配だから、胸元が広い服を着るな

心配だから、透ける服を着るな


服装をいちいち注意するようになったのだ。

私もそのくらいの束縛ならと軽く考えていた。

それで心配しなくなるならいいかなと、、、

だかそれはどんどんエスカレートしていき、心配だからなどでは無かった事が解っていくのだ。





その頃にはほとんどを彼の家で過ごすようになっていた。

私の仕事は夜は遅い。

時間も不規則だ。土日も仕事の事が多かった。

彼は決まった時間に帰宅し決まった休みがあった。




その日は仕事が長引き、いつもより遅くなり彼の家に行った。


ガチャッとドアを開けると、不機嫌そうな彼が居た。


「ごめんね!遅くなっちゃって!」

謝りながら部屋に入る。


こちらを見ようともせず、テレビを見続ける彼


「ねぇ!」

もう一度声をかける。


「...........。」

こちらを向うともしない。


諦めてお風呂に入ろうと立ち上がった瞬間に


「…じゃないからね。」

声をかけられた。


「…ん?」

よく聞こえなくて、聞き返した。






次は大きめの声で

「美容師なんて仕事じゃないからね!」

と言われた。


は…?

なにを言ってるんだこの人は…

またも唖然としているとまくしたてられる。


「そもそも美容師って水仕事って言われてたんだよ。

水商売って事。

キャバクラとか風俗とかと一緒なんだよ!」


え、、、??

言ってる意味が1ミリも解らない。


「なにそれ?意味がわからない!」

大きな声で答えた。


「俺は水商売は仕事とは認めてない。社会だってそうだ!みんな認めてないよ!仕事っていうのは組織に属して組織の為にひとつの歯車として働いくことだ!

時間いくらで働いてるんだよ!さわは時給いくら?

残業代もないよね?計算してみなよ!さわの時給!

600円いかないよね?東京の最低時給知ってる?

600円いかないんじゃ仕事じゃないよ!

バイトにもならない!

そんな仕事、仕事じゃないんだよ!わかる?

美容師なんてやめた方がいんだよ。」


そこまでしか覚えていない、、、

それから自分が言った言葉の意味を3時間以上ベラベラまくしたて続けていた。

最初のうちは「そんな事ない!違う!」と反論していたが、その反論をすればするほどまくしたてられ続けるので、3時間経った頃には諦めていた、、、。

ただただ涙が溢れていた。







何時間か経った。

外は少し明るくなっていた、、、。

カーテンから朝日がうっすらと漏れる。



ぼっーと外を見つめる私を見て、彼は頭を撫ではじめた。

「ちょっと言い過ぎちゃったよね?

でも心配なんだよ。こんな遅くまで帰ってこれなくて体壊れちゃうよ。さわは他の仕事の方がいいよ。

これから先、子供産んだ後も今の仕事続けられる?

こんな帰り遅いのに。土日も仕事で。

さわは他の仕事しなよ!俺も一緒に探すから!ね?そうしよう?これからの為にさ!」


泣きすぎて頭がガンガンする。目が腫れて開かない。

眠いのもあってなのかクラクラする。


また真っ白のモヤがかかる。

考えるのがめんどくさい。

もういいや、、、何かがポキっと折れた気がした。


「わかった。考えてみる。」

そう答えベットに横たわった。


   

次の日

私は初めてウソをついて仕事を休んだ。

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