第4話 片鱗
その一件の後は前以上に彼の家に居ることが多くなった。
私自身どこか不安だった。でも信じたい。そんな感情だったように思う。
普段の彼は言葉数も少なく優しかった。
一緒に居て落ち着くような気がしていた。
何より私自身久々の恋愛で楽しかったのかもしれない。誰かと仕事後に共有する時間。1人ではないという感覚が嬉しかったのだ。
その日も仕事終わりに彼の家に向かった。
「ただいまー!」
「おかえり!ご飯できてるよ!」
すると彼が食事の用意と冷えたビールを出してくれた。私の方が仕事が遅いのでそんな毎日がありがたかった。
食事を済ませ2人で晩酌し、布団に入る。
すっと手が伸びてきて身体を引き寄せられた。
そのとき
「あき…」と呟いた。
「ん??」
身体が冷えていくのを感じた。
さっきまで暖かかった布団が急に冷たくなっていく。
......私の名前じゃない。........
布団から飛び起き、腕を掴んで座らせる。
「今なんて言った?」
無表情で詰め寄った。
体が震える。
「...元カノと間違えた。」
ぽそっと下を向いて答える。
頭に血がのぼってくる。
腕を振り払って荷物をまとめる。
自然と涙が出てきていた。
「ねぇ!」と肩を強く掴まれた。
「触らないで!」
泣きながら手を振り払った。怒りと呆れで頭がゴチャゴチャで泣きながら
「信じてたのに!」
と答えた。
すると、その言葉を聞いてまた彼の顔色が変わる。
「は?信じてたって?なんの理由も聞こうとしないで出て行こうとしてるのに?そもそもそんな簡単に出て行けるなら好きじゃないじゃん?どうせ俺なんて遊びでしょ?最初から好きじゃないんでしょ!」とまくしたて始めたのだ、、、
なにを言ってるんだこの人は、、、とまた唖然としてしまう。頭がついていかない、、、
「さわはずっと引きずってた元カノにそっくりなんだよ。性格が。見た目はさわのが可愛いし全然違うんだけど。だから間違えただけで。
本当に好きなんだ!大切にしたいって思ってるんだよ!」
と今度は泣き出したのだ、、、。
えっ。。。と頭が真っ白になる、、、。
なんなんだ、、、これは、、、
そんな時にたたみかけてくる。
「さわは可愛いし、モテそうだから飲みに行くのも不安だったし本当に好きになるのが怖いんだよ。好きになって傷ついたりするのはもう嫌なんだよ!」と叫び、泣き続けている。
それを見ていると、言いたい事も何処かへ消えて頭が真っ白になってしまう。
「わかったから、とりあえず落ち着こう!」
絞り出した言葉はそれだけだった。
この後泣き崩れる彼をなだめる。
1時間程経って落ち着いてきたときにはもう自分がなにを言いたかったのかもなにを怒っていたのかも解らなくなっていた。
頭に霧がかかっていく。頭が回らない。
考えならいけない事がたくさんあるはずなのに考えようとするとモヤがかかる、、、。
「わかったよ、、、。」
何も解っていないのに、そう口に出していた、、、。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます