4-9.タクヤの長い夜

 終わった。

 目の前のキウイの残骸を見つめて、俺は思った。


 そうだ。これが本来の俺なんだ。勇者どころか、ただの凡人だ。

「我が君!」「タクヤさん!」「「ご主人様!」」「若様……」「旦那……」

 いくつもの声が取りまいてるが、心は死んだように動かない。

 命より大事な子供たちが連れ去られ、命そのものだった力の源が失われた。

 俺は、全くの抜け殻だ。残りかすだ。クソだ。

 レバーを押して、トイレに流してくれ。


 ……ああ、こっちには水洗トイレなんてなかったんだな。じゃ、アイテムボックスの中の水で……


 届かない。そこに納めた、数々の品。どうでもいいガラクタから、大切な思い出の品まで。

 こっちに来て最初に作った、アリエルの御美脚初期バージョン。

 ミリアムに贈ろうとした、へたくそなカットのダイヤ。それでカットし直した指輪。

 旅の間、みんなと過ごした、あの小屋。

 ミリアムが寝かされていた天幕にあった、彼女の私物。

 その私物の中にあった、子犬の小物。俺がプレゼントしたものだ。持っていてくれたんだ。

 ……それら全部、消えた。


『キウイ』

 念話に返事はない。ただの残骸のようだ。


 ザッハの時と同じだ。死んだ。キウイは死んだんだ。

 その、キウイの亡骸を抱えて、俺は泣いた。はた目も気にせず。それでも……

 それでも、自分の涙がかからないように抱え込んでるのは、何なのだろう。もう、動かないのに。涙が染みこんだら故障する? 電源がないのに。画面はないし、キーボードのキーも、いくつも外れて無くなっている。


「終わりだよ。ゲームオーバーなんだよ。だから、家に帰らせてくれよ……」

 布団を被って一晩泣いて、クレカ持って秋葉原に行けばいいだけだ。パソコンなんて、所詮消耗品なんだよ。

 ……元の世界ならばね。


 気が付くと、周囲には人だかりができていたらしい。そうだよな、突然、銀色の巨人が現れて消えたのだから。で、後に残されたのは、勇者でも何でもない、ただの凡人だ。

 あれこれと声をかけてくれるが、答える気力がない。


 ……あの時、ペイジントンであの子の亡骸を目にして、心が折れたと思った。

 とんでもない。

 使える力があるのに使わなかった悔やみと、その力が消え失せた時の絶望なんて、比べ物にならない。しかも、一番大切な存在が奪われたのに、何もできないのだ。


 死にたい。いっそ、殺してくれればよかったのに。ああ、こうやって俺が苦しむことが、楽しくて仕方ないんだよな、あいつは。オフフェウスは。


 どれくらい、そうしていたのか。ふいに、頭の中で声が響いた。


『力を貸そう』

 誰だ?


 見回すが、周囲の者に、俺に声をかけたそぶりは見られない。


『魔神はやりすぎた』

 また声が。

 ……て事は、あんたも神か?

『そんなところか。ともかく、青魔核を持つ者が苦しむのは不本意だ』

 創造神?

『そう呼びたければ、それでいい』

 随分フランクだな。神々の頂点なんだろうに。

『時間がない。手短に行くぞ』

 忙しい奴だな。


 目の前に銀色の手が現れた。何かを掴んでる。

『とりあえず、これがあれば何とかなるか?』


 銀の手は掴んでる物を床に置くと消滅した。

 そこに残ったのは、閉じたアイテムボックスの中にあるはずの、キウイのバッテリーだ。

 俺は無我夢中で拾い上げ、キウイの残骸にセットした。電源を入れると、ランプが点る。やがてキウイの声がスピーカーから響いた。

「音声UI、キウイで起動しました。声紋認証をお願いします」

 ああ。この声が再び聞けるなんて。


「月は無慈悲な夜の女王」

「声紋確認、マスター・タクヤ」

 目を閉じると、キウイの画面が脳裏に移った。表示パネルは砕かれたが、メモリ上の画面を俺に見せるのは問題ないのか。

 電源の表示は百パーセント。

 復旧したようだな。


 ……持って八時間だけど。

 キウイの時計は十九時を指していた。午前三時がタイムリミットだ。現在の対価は三十パーセント。さして高くはないが、戦場まで転移したら、心もとない。

 そこへ、また声が。


『では、もう一つだ。次の夜明けまで、その魔法具の対価は繰り延べする』

 なんだそりゃ。どれだけ魔力を使っても、対価がゼロ?

『そうではない。日が昇れば、その分が一度に押し寄せる』

 夜明けのボーナス一括払いかよ。つまり、短期決戦だな。その間に魔王オルフェウスをぶっ殺し、エレとロンを助け出す。


 マオ? そんな奴は知らん。


『では、勇者よ。期待してるぞ』

 おい、なんだその投げっぱなしは!

 しかし、声は消えた。

 ……突っ込んでる場合じゃないな。時間がない。


 アイテムボックスを開き、キウイを氷の入ったテーブルの上に置く。そして閉じる。

 遠隔視で周囲の状況を見てみる。会館内部には不安が広がってた。幸い、外には伝わっていない。よし。


『余興はここまでだ。どうだみんな。魔王をぶっ殺したいか?』

 遠話V2拡声器で俺の声が響く。ギルド会館へ、屋外へ。

 おお! とのときの声。

『諸君』

 俺は思いのたけをぶつける。ドスを効かせた声で、怒りを込めて。


『諸君。俺は魔王が嫌いだ』

『侵略する魔王が嫌いだ』

『略奪する魔王が嫌いだ』

『女子供をさらい、引き裂いて貪り食う魔王が大嫌いだ』

『涙で命乞いする者を、我が子だけはと願う者を、あざ笑うように殺す魔王には、反吐が出る』

『魔王を殺せ。魔王の配下を殺せ。人を襲い、食いあさる魔物を殺せ』

『今夜、俺たちは地獄を見る。果てしなくどす黒い暗黒の中で、血で血を洗う戦いを繰り広げる地獄を』

『戦え。生き残れ。そして、朝日を見ろ』

『魔王とその軍勢の消え去った、新しい朝を迎えるのだ!』


 もう、教祖とでも尊師とでも呼んで。


『そのために諸君らが求めるものは何か? 戦いか? それとも逃亡か?』

「戦いを!」

「「戦いを!」」

「「「戦いを!」」」

「「「「戦いを!」」」」

 会館を、その外を冒険者たちの声が埋め尽くす。


『よろしい、ならば戦いだ! 武器を持て! 俺と共に来い! ここに入れ!』

 会館の中と外に、いくつものアイテムボックスのゲートを開いた。冒険者たちがパーティーごとに、雪崩を打って駆け込んで行く。


 そして、眼前にひざまずく巨体。

「流石です、我が君」

 グイン、なんか恍惚としてない?


 あまり褒めないで。某漫画のパクリなんだから。剽窃で訴えられちゃうから。


 そのまま、仲間たちは別なアイテムボックスへ。

 俺は足元に転移ゲートを開き、連続転移に入った。キウイの対価はピクリとも増えない。


「げ。またあいつかよ」

 月明かりの下、海上を移動中に見つけてしまった。あとで対処を考えないと。


 でもまずは、冒険者たちが先だ。


********


 戦場は既に漆黒の闇に包まれていた。

 遠隔視V2で見ると、皇帝を失った討伐軍は、そこここで固まり、防衛線を敷いていた。

 きっと、無難な戦法なのだろう。が、軍事に素人の俺が見ても、勢いに欠ける。包囲殲滅を待つばかりだ。

 思った通り、小型魔獣の群れに悩まされているようだ。そして、この闇に。


 俺はアイテムボックスからヒュドラの魔核を取り出した。そして、保護フィールドを強めた細長いゲート四枚を、逆ピラミッドの辺に沿った形で並べ、その中に魔核を置いた。四枚の爪に掴まれた形で、魔核が宙に浮く。

 そのまま、戦場となった地域の上空に飛ばし、高度百キロあたりで魔核に仕組んだ術式を起動した。


 その瞬間、夜空に人工の太陽が出現し、下界を照らした。さらにその上にゲートを出し、光が上空へ逃げないよう反射させる。その明るさは昼間に匹敵し、手をかざすと温かみすら感じられた。

 マオが疑問に思いながらもかけてくれた、光玉の術式だ。ただし、桁違いの強さの。


 視覚に頼る人間の弱点は、夜の闇だ。それが無くなれば、夜陰に乗じた魔物たちの跳梁跋扈はできなくなる。

 ただ、どうやらレイリー散乱が起こるには高度が足りないらしい。昼間のような青空にはならず、空は真っ暗なままだ。


 冒険者たちのいるアイテムボックスの一つを開く。思わぬ眩さに目を瞬かせながら、冒険者たちが出て来た。その彼らに、遠話V2で指示を出す。

『前方に布陣している騎士団が魔物に囲まれている。魔物を撃退して、その後は騎士団と共闘してくれ』

「おうさ!」

 リーダー格らしい戦士が答えてくれた。よし、次だ。


 冒険者の半数を騎士団の救援に向かわせ、残りはまだ会敵していない魔物の群れの包囲に当てた。大型の魔物や魔族は避けるように命る。そいつらの相手をするのは、また別の味方だ。

 うちの仲間たちは冒険者たちの戦いに参加させた。南の大陸での旅を活かしてもらおう。

 ……でも、こっそりエリクサーを一本ずつ渡してるのはナイショね。

 アイテムボックスの中にはアリエルとグインの二人が残った。

 俺は彼らに命じた。

「もう少し待っててくれ。準備が整ったら、魔王を倒しに行くから」

「御意」「はい、ご主人様」

 そう、この二人こそが、こっちの切り札だ。遠話で俺が立てた作戦を話す。

 しかし、魔族には魔族。

 俺は帝都に転移した。


********


 夜のモフィエル神殿は静かだった。

 いや、昼間でも静謐な雰囲気なんだが。まださほど遅い時間ではないけど、神殿の庭に人影は全くない。足音を立てるのも気が引けるので、自然と足取りも慎重になる。

 ……うーむ、なんか忍び込んで悪事でも働くみたいな気分。

 しかし、目的の人物の居所は、キウイの魔法感知がはっきり示していた。神殿の廊下を進む。


 よし、この部屋だ。

 前回見かけた時は、イチャラブとしか見えないほどベタベタだったが、今夜のエルリックは落ち着いて目の前に腰かけた幼女と話している。昔話に華を咲かせているように見えた。

 そんな平和な時間を邪魔して悪いが、魔王がこの戦争に勝ったりしたら、この生活もおしまいだ。


「エルリック」

 声をかけると、彼はゆっくりとこちらを向いた。

「そろそろ、お見えになると思ってました」

 冷静な声だ。

「なんだ、気づいてたか」


 彼は微笑んで答えた。

「私も一応、魔族ですからね。魔王の動きは感じられます」

 ちらりと背後の幼女に目を向ける。

「今、お婆様にお別れと感謝の気持ちを伝えておりました」

「お別れって……」


 かぶりを降るエルリック。

「巫女様にも、またお婆様の魂にも、そろそろ安息が必要です。もう、僕は大丈夫です。いつでも戦えますよ」

 穏やかな顔だが、魔族の証の金色の瞳には決意の色が見えた。

「良いだろう、一緒に来てくれ」

「はい」

 悲し気に見送る幼女を後に、俺たちはオレゴリアス公国へと転移した。


 まさに、魔王側の魔族が正規軍を蹂躙しようとしていたところだった。魔族変化して躍りかかるエルリック。

「頑張れ!」

 激励の言葉をかけた。しかし、キウイが感知した魔族は何十体もいる。彼一人では手に余る。


 俺はアイテムボックスから青い宝石箱を取り出した。その中の盟約の指輪を取り出し、指にはめる。転移の術式が働き、俺は古竜の洞窟に降り立った。


『じっちゃん。お願いだ、助けてほしい』

『ほう。今度はどうした?』

 鷹揚に答える古竜だが、次の言葉で豹変した。


『エレとロンが魔王にさらわれた』

 両眼がくわっと見開かれ、牙を剥いた口からは耳をつんざく咆哮がとどろき、洞窟を揺るがした。

『なんたる冒涜! 青魔核の者に手をかけるとは、創造神様に対する裏切り! 魔神め、血迷ったか!』

 怒気を押さえつけた目で俺を見て、古竜は宣言した。

『古の盟約に基づき、我ら竜の一族は、ヒト族と共に戦おうぞ!』

 言い終えると、古竜は翼を広げ、天井の大穴から飛び立った。


 俺は竜の里に転移。すぐに古竜も飛来する。彼からの念話で、老いも若きも血気盛んだ。


「エルマー!」

 その若い竜の一頭に、声をかける。こちらを見て、飛んできた。

「俺を乗せてくれ。一緒にエレを助けよう」

 エルマーは頷き、背中をこちらに向けてくれた。俺はアイテムボックスから竜の背に合わせて作った鞍を取り出した。


「お、こりゃあジンゴローか?」

 いつの間にか、バージョンアップしてる。ロープだった索具は立派な革帯で、鞍自体も竜のサイズにフィットしていた。


 ――そうか、ガジョーエンで高所恐怖症を克服したからだな。もう一度、乗る気になったのかも。


 よし。この戦いに勝ったら、好きなだけ乗せてやろう。


 俺はエルマーの背に鞍を乗せて、跨った。

『では戦場へ。竜たちには、魔族や特に大物の魔物を頼みたい』

『承知!』

 古竜は答えると飛び立った。そしてエルマーも、他の竜も次々に。

 俺は、正面の夜空にオレゴリアス公国への転移ゲートを開いた。翼を開いた古竜が楽にくぐれるサイズだ。

『こんな巨大な……対価は大丈夫か?』

『夜明けまでは対価なしにしてもらった』

 古竜は牙を剥いた。破顔する竜なんて(以下略


「行こう! 戦場へ!」

 俺の掛け声に、竜たちは次々にゲートをくぐって行った。最後は俺とエルマーだ。


 人工太陽に照らされた戦場では、人と魔物との死闘が繰り広げられていた。冒険者たちが小型魔獣の群れを引き剥がしたため、騎士たちも自由に動けるようになったようだ。反撃に出て、大型魔獣をあちこちで取り巻いている。

 しかし、魔族には歯が立たない。遠巻きに牽制し、ひたすら攻撃をかわすしかないようだ。


 そこへ、突然頭上に竜の一群が現れ、牙を剥き咆哮したのだ。恐怖と絶望がのしかかるのも無理はない。

 だが、それは誤解だ。俺はエルマーの上から遠話V2で呼びかけた。

『この竜たちは味方だ。古の竜との盟約が復活し、魔王の軍勢と戦ってくれる』

 戦場に声が響き渡るのを待って、続けた。

『戦士よ、ふるい立て! 竜は我らとともにあり!』

 あちこちから、歓声が上がる。武器を掲げる騎士たち、ミスリル剣を、杖を突き上げる冒険者たち。

 戦意が回復した。次だ。

 俺は転移ゲートを開き、くぐった。


********


 そこは夜の海原からそそり立った、険しい岩礁の間だ。

 エルマーにホバリングさせ、俺はアイテムボックスの中にいるアリエルに声をかけた。

『君にお願いがある』


 水平にゲートを開き、メイド服のアリエルを出してやる。

「何でしょう、ご主人様」

「人魚族の手を借りたいんだ。魔物退治を呼びかけて欲しい」

 彼女の前に遠話V2の音声パネルを出す。

「ここからですか?」

「ああ。真下の人魚族の居留地につながってる」

 うなずくと、アリエルは呼びかけた。


『……〇〇の娘、元・人魚族の姫である***が問う。魔物退治に身を躍らせる勇敢な戦士は有りや』

 いつかと同じ問いかけだ。

「急いで装備を整えてもらいたいんだ」

 それでも多少は時間が掛かるはずだ。一刻後に迎えに来る、と伝えてもらう。


 で、徴用証のことをアリエルに持ちかけたんだが。

「人魚族にヒト族の貨幣は意味がありません。そもそも、地上に上がることすら無理ですから」

 ……ですよね。かわりに、また魔物が暴れたらボランティアしよう。


 それから、俺はアリエルに訊ねた。

「ここからずっと東の海域にも、もう一つ部族がいるんだけど」

「はい。従兄たちのようなものです」

 ……なるほど。手勢が多ければ、それに越したことはない。


「じゃあ、そっちも頼む」

 アイテムボックスに戻ってもらって、瞬間転移。おっと、エルマーがふらついている。転移で酔ったか。ゲートの足場を出して、一休みさせてやろう。

 再び、アリエルの口上。海の底から返事があった。

 よし。一刻後にこっちも迎えに来よう

 キウイの時計は二十一時。あと六時間。


********


 遠話をかける。相手はキャプテン・エロ……じゃない、ネロだ。

『やあ、海賊王。景気はどうだ?』

『おう、勇者の兄ちゃんか。ぼちぼちだ』

 大阪商人かよ。なんて突っ込んでる暇はない。


『今どこにいる? 手が借りたいんだ』

 場所を教えてもらった。

 なるほど、エルベランから岬を挟んだ反対側の洞窟ね。商船を襲うには理想的な位置だし、サイズ的にエルマーも入れるな。

 早速、瞬間転移。時は金なり、だ。


 ミスター海賊王は、竜に乗って現れた俺に目を丸くしつつも、話を聞いてくれた。

「島ほどもあるウミガメかよ……伝説のアスピドケロンだな、そりゃ」

 そんな名前なんだ。

「でかすぎる。参ったな」

 海の王者も、難色を示すか。


「まともに戦う必要はないんだよ。戦線離脱させてくれればね。あんたの部下たちは弓矢が得意だから、この戦術で頼む」

 簡単な説明で納得してくれた。ついでに、初回で撃ってきた矢を回収したのを引き渡した。これもあって、武器も装備も充分らしい。さすがは海賊。

 彼と部下の彼女らに、人数分の徴用証を渡す。


「オレゴリアス公国の南岸にでも行って、これを見せれば帝国が何とかしてくれるはずだよ」

 ネロは微妙に渋い顔だ。

「帝国の世話になるのはなぁ……」

「世話じゃないさ。正当な報酬だよ」

 なんとか納得してもらった。

「じゃあ、フル装備で全員乗ってくれ。俺がその海域まで運ぶから」

 海賊船ごとアイテムボックスに格納し、そのまま人魚族の二つの戦士団のところを回って彼らも格納。そして、魔王の軍勢第三波を乗せて洋上を進む、アスピドケロンの上に出る。


『では、作戦通りに頼む』

 マーマン軍団を海中へ、海賊船を海上に出す。アスピドケロンに付き従う海中の魔物をマーマンが牽制し、海賊船に手が出せないようにする。そして海賊船は、空飛ぶ魔物の攻撃をかわしながら、洋上から火矢を放ち、アスピドケロンの甲羅の上にある樹木に火を放つ。

 伝説の通りなら、背中を焼かれるのを嫌がるアスピドケロンは、海に潜ってしまうはずだ。


 あ、沈み始めたぞ。乗っていた陸や空の魔物がおぼれていく。ガルーダ、巻き込んでごめんよ。文句は魔王に言ってくれ。


 ……しかし、きっとこれで沈んだ魔核から、また大物の魔物が出てくるんだろうなぁ。それを退治して、人魚族に対しては、この件をチャラにするんだよな。うむ。我ながら酷いマッチポンプだ。


 時計は二十四時。いかん、長居しすぎた。


 次が、最後だ。

 俺は一番手助けして欲しい……しかし一番会うのが辛い人のいるところに向かった。


 ……ミリアムの迷宮へと。

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