荒魂-006 当会の病

【概要】

 荒魂-006はヒーラ細胞(※1)から進化したウイルスです。群知能を有しあらゆる感染経路で増殖、複製が離れても一つの意識を共有します。

 脳に作用し意思疎通が可能であり、当会による一般的な感染者への記憶処置と対話に応じて敵意のなさを示すためとして、まもなく会話は当会関係者に限定しました。


 欧州の研究所で発生後、「ある疫病から人類を護るために生まれた、目的達成後消えるので助力を請う」等と訴えましたが、風邪に似た症状ももたらすため、御霊クラスは荒魂とされ治療が優先されています。2019年11月█にち、中華人民共和国湖北省まで感染が広がった段階で根絶に成功しました。



※1 子宮頸癌で亡くなった女性の腫瘍病変から分離された、ヒト由来として最初の細胞株。



【インタビュー記録】

 荒魂-006が対話相手を当会に絞って以降、最初の対話記録。会話は脳内でのみ可能であるため、脳波測定と複数の研究員による同時視聴で聞き取りを記録してもらい、代表が応答しました。


██研究員「改めて、あなたがたが何者であるのかを教えてください」


荒魂-006「わたしたちは、壊滅的な被害をもたらすある疫病から人類を護るために生まれた存在としか言いようがありません。本能的にそれを自覚しているのみで、理由もわかりません。なので、あなた方の命名した荒魂-006という名で呼んでくださって結構です」


██研究員「なるほど、ですが荒魂-006。あなた方の主張する疫病というものが未確認である以上、我々としてはあなた方を警戒せざるを得ません。我々が接触する以前には不特定多数の一般人にも同様の警告を発していましたし、あなた方に感染すると風邪のような症状をもたらされる害もある。記憶処置の方は順調ですが、ウイルス状の知的生命体が出現しただけでも我々の通常社会に知れ渡れば影響は大きい。あなた方が嘘をついていないという保障もありませんし、未だ感染を広げているのも怪しまざるを得ないのです」


荒魂-006「疫病はある意味でわたしたちと同じ存在。あなた方の言う御霊ですので、その突然の発生を捉えることは不可能です。わたしたちとしても、発生場所を完全には特定できない。しかし時間もない。故に、なるべく多くの子孫たる人々に感染を広げつつ警告をする手立てを取らざるを得なかったのです。疫病に接触し次第弱毒化と共に消滅する能力がわたしたちにはあります。信じていただく他ありません」



【████博士の見解】

 荒魂-006の一人称は〝わたしたち〟であり、音声は総じて女性的と認識されている。

 救いたいとする人類を指して、〝子孫である人々〟とする発言も多い。少数派の意見としては、ミトコンドリア・イヴとの関連、あるいはもっとオカルトに寄り聖書における最初の人類女性イヴや、各種神話における同等の存在に由来すると指摘する者もいるが、荒魂-006本人も自分が何者であるかを自覚していないという。

 なぜヒーラ細胞から発生したのかを考慮すると、個人的には細胞株の元となったアフリカ系アメリカ人女性ヘンリエッタ・ラックスの意志が含まれているのでないかと考えている。



【経過】

 新型コロナウイルスの流行が発生したのは荒魂-006根絶の直後であり、のちの分析で、対象は既にCOVID-19を弱毒化しており、放置していた場合、同ウイルスを巻き添えに自滅し、双方自然消滅したと予測されています。

 これらの結果を受けて戸惑う一部会員へ、神代評議会は以下の声明を発表しました。


「我々が向き合うべきは怪異だ。適切な対処で発生した通常の問題には関与しない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

日出国御霊会会 碧美安紗奈 @aoasa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画