第5話 幼馴染は眠りたい
くるみの部屋の扉を開けると、ベッドの布団が大きく膨らんでいた。俺は足音を立てないように静かに寝ているくるみの元へと近づくと、その顔を覗く。
目元にうっすらとクマが出来ながらもぐっすりと寝ている。
「にゅへへ、とぅくーん……」
「はぁ、ぐっすり寝てんなぁ……。さてはまた夜更かししたな?」
唇の端から涎を垂れさせながらぐーすぴーと幸せそうに寝顔を見せるくるみ。また息を吐きながらその隣に視線を向けると、昨日くるみにぎゅっと抱かれていたペンギンのぬいぐるみが頭の部分だけこんにちはしていた。
……羨ましいぞこの野郎こっち見んな。
因みに俺が言う夜更かし、というのはきっとイラストを描いていたのだろうと推察。なにせくるみは、よく美少女や風景の絵を描いて『クルミタン酸』というユーザーネームでSNSに投稿しているフォロワー数万人の人気絵師だからだ。
俺もたまに玲子おばさんが帰ってくるまで作業しているくるみを見たことがあるが、そのタブレットに向かう真剣な表情と手の動き、それに比例するイラストの出来栄えには思わず感嘆してしまうほどだ。
おそらくだが、昨日の時点ではイラスト投稿の通知は来ていなかったので今日の夕方辺りに投稿するのだろう。
そんな事を思いながらも、俺はくるみを起こす為に身体を揺さぶる。
「おーいくるみ、朝だぞ。起きろ」
「むにゃむにゃ……あ、とぅくんおはよぅ……あと十分…………」
「おはよう。仕方ない、じゃああと五分な。俺はその間くるみの寝顔をスマホで撮ってる」
「ひっ……! おっ、起きるから撮っちゃダメぇ……!」
寝起きの蕩けるような笑みを俺に見せるのだが、その後無防備な寝顔を晒している表情を撮られたくないのか、布団で顔を覆い隠すくるみ。布団越しからでもぷるぷると震えているのが分かる。
前から写真写りが悪いとかで恥ずかしがり屋だからな……。
「ウソだよウソ。くるみの嫌がることを俺がするわけないだろ?」
「……ほ、ほんと?」
「ほんとほんと。くるみを起こす為に言っただけだ」
「むぅ……もぅ、とぅくんのいじわる」
未だ眠そうにしながらもむくりと起き上がったくるみ。ふぁあ、と小さな口を開けながら上に腕を伸ばした。
その際に、水玉ピンクのパジャマの上からでもわかる、その無防備な大きな胸がたゆんと揺れる。
「……ん、とぅくんどうしたの? 顔赤いよ?」
「いや大丈夫。なんでもない」
くるみがきょとんとした表情で俺の表情を覗きこもうとするが、なんとかその視線から逃れる。……良かった。くるみが視線に
俺は窓の光を遮るカーテンを開けつつ、話し掛けた。
「ほら、早く制服に着替えて一緒に朝食食べよう。また夜更かししたんだろ? 玲子おばさんからくるみのこと頼まれてるんだから、寝坊で学校遅刻したなんて目も当てられないぞ」
「うっ……、ご、ごめんとぅくん……。……マ、ママはもうお仕事に出掛けた?」
「あぁ。元気に出掛けてったよ」
そっか、と言いつつベッドの上から降りるくるみ。普段はその艶やかな紫髪をツーサイドアップテールに纏めているくるみだが、現在は髪を下ろしておりそれがまた違った印象を与える。
俺は何度もその姿を見ているのでもう慣れたが、異性として意識し始めた頃はもう何度もドキドキしていた。
これから制服に着替えるのだろう、とてとてと制服を仕舞っているクローゼットへと足を向けるのを確認すると俺はくるみに声を掛けた。
「じゃあ俺は下で待ってるから、早く着替えてこいよ」
「う、うん。いつもありがとね、とぅくん。まってて」
「……ん」
そうしてくるみの部屋を出た俺はリビングへと向かったのだった。
テレビの朝のニュース番組を見ながら待ってること数十分、制服に着替えて身支度を整えたくるみは、髪型をいつものツーサイドアップテールに纏めながら階段を下りてきた。
二階にも洗面所があるのでそこで整えてきたのだろう。
「お、おまたせとぅくん……! ご、ごめんね。朝ご飯食べよ……?」
「あぁ、気にすんな。それじゃあ食べようか」
俺とくるみは朝食の置かれているテーブルへと席に着くと、手を合わせながら『いただきます』と言い朝食を食べ始める。
……うん、美味い。このふわふわなスクランブルエッグ、牛乳とマヨネーズを使っているからかクリーミーな濃厚さがあらびき
俺も何度かレシピを玲子おばさんから教えて貰って作ったりしたけど、このようには美味しくならない。圧倒的に玲子おばさんが作った方が絶品なのだ。
「これが、経験の差か……」
「ん? とぅくん急にどうしたの?」
「いんや、なんでもない」
玲子おばさん本人に聞かれたら「とぅくん? 喧嘩売ってるなら安く買い叩いてあげるけど……?」と最大級の圧を吹っかけてきそうなことを口にするが、俺はこれ以上余計なことは話さないようにしようと黙々とご飯を口に運ぶ。
……遠回しでも女性に年齢的な話題はアウトですねはい。
そんな俺を見てくるみは不思議そうにこてんと首を傾げていたが、唐突に思いついたようにおずおずと口を開いた。
「そっ、そういえばとぅくん、ママ何か言ってた? 今日は夜遅くなるかもとか、夕ご飯作っててとか……?」
「プロポーズされた」
「…………ふぇっ?」
ぴしり、と石化したかのように目の光が急速に失われていくくるみ。手に持った箸をぽろっと落としながら泣きそうな声を洩らした。
―――安心しろくるみ、俺はくるみしか見てないから。
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