第4話 幼馴染の母は彼女と瓜二つ
「身支度良し、弁当良し。はぁ……さむっ。腹減ったぁ……」
次の日の朝。俺はくるみの自宅の扉の前まで行くとチャイムを押す。
昨日のコーヒーゼリーのタッパーの回収と合わせて、家が隣同士ということもあり、幼馴染であるくるみと一緒に高校へ登校する為だ。
早朝特有の肌を刺すような寒さに思わず身震いする。
俺はそのまま寒さを誤魔化す言葉を洩らしながら、制服のポケットに手を突っ込んだ。
―――結局、昨日は仕事で遅い
なお昨日の戦績は俺の全戦全敗。俺は手先は器用な方だと自覚しているが、どうも何故か激しい操作を行なう対戦ゲーム系は苦手なのだ。
どちらかというと、動物や魔物などを育てる育成ゲームやほのぼのシミュレーションゲームの方が得意なくらい。
「まぁ、くるみが俺を見て勝ち誇りながら顔がドヤらせるのは、見ててほっこりするんだけどな」
昨日のくるみの表情を思い浮かべると、思わず笑みが零れた。
なにしろ凄いぞ、強いぞ、敵わないなぁなどの言葉をくるみに投げかけると、恥ずかしそうに顔を赤らめながらも「ふ、ふふん……っ! も、もっと褒めても良いんだからねとぅくん……っ!」と口角を上げながら嬉しそうにするのだ。
このようなくるみの表情を見れるのは嬉しいし、彼女の様々な表情を見るのは小さい頃からの俺の密かな趣味になっている。
思わずそんな姿を思い出しながらによによしていると玄関のドアが開いた。そこにいたのはスーツを身に付けた一人の大人の女性。
「おはようとぅくん。毎日くるみを起こしに来てくれてありがとねぇ」
「おはようございます玲子おば……」
「―――じゃないでしょ?」
「玲子さん」
「それでよし。さ、上がって上がって~!」
お邪魔しまーす、と声を出しながら俺はくるみの家に上がる。途中にすごい圧を感じたが、この掛け合い自体いつものことなので気にしてない。
きっとそれは彼女も同じだろう。
俺に気さくに話しかけてくれる女性の名は
容姿は童顔で胸が大きな可愛いくるみと瓜二つ。違いがあるとしたら長い紫髪を一本のポニーテールにしていることと身長がくるみよりも数センチ分高いことくらいだろう。
休日にくるみと一緒に買い物に行くと、親子ではなく姉妹に間違われるほどらしい。
くるみと同様に俺のことをとぅくんと呼ぶ辺り、その親しさが伺えるだろう。……いずれ、くるみも大人になったら、このような母性溢れる女性になるのだろうか。
そう考えながらリビングへと行くと、玲子さんは昨日のタッパーを食器棚から取り出す。
テーブルを見ると、スクランブルエッグやウインナー、焼き鮭、サラダ、味噌汁、ご飯と言った朝食が二人分並んでいた。どれも食欲を搔き立たせる美味しそうな朝食だ。
実は昨日帰宅してから、くるみからメールが来ていた。その内容は『明日、ママがとぅくんにも朝食作るって言ってたからお腹すかしてきて』というもの。
まさに夜が遅い玲子おばさんのくるみ経由での、"夕飯のお誘い"ならぬ、"朝食のお誘い"である。
なのでこれはくるみと俺の分の朝食だ。玲子おばさんはきっともう手早く朝食を済ませたのだろう。
タッパーをテーブルの上に置くと、玲子おばさんは明るい口調で話し出す。
「とぅくん昨日はありがとね~、私が帰ってくるまでくるみの面倒を見てくれて」
「いえ、気にしないで下さい。俺もくるみと一緒にいると楽しいので。……あっ、昨日の夕飯のおかずの味付けはどうでした?」
「もう文句なしの百点満点の味付けだったわ!! 仕事で疲れた体にあの酢豚の優しい酸味はたまらなかった……っ! ……もういっそ私と結婚する?」
「からかわないでくださいよ。確かに玲子さんがお綺麗なのは小さい頃から知ってますが……」
「ふふ、結婚
「わぷっ……!」
うりうりー♪ と満面の笑みを浮かべながら俺の頬を両手で挟み込んでこねくり回す玲子おばさん。
うぅっ、昔からの行動なので今更抵抗感はないのだが、これはこれで恥ずかしい……! 早くくるみを起こしに行きたい……!
因みに玲子おばさんは弁護士故、仕事の帰りが遅くなりやすい。なので彼女が帰宅するまでの間、俺がくるみの世話をお願いされているというわけなのだった。
夕食に関しては、くるみに玲子おばさんからのメールがきたら材料と台所を使わせて貰い作るようにしている。俺自身料理するのは好きなので、特に不満はない。
むしろ誰かの為に料理を作るのは充実感を感じているくらいだ。
なので昨日は夕飯のおかずとして酢豚を作り、くるみと一緒に夕食を食べた(玲子さんの分は冷蔵庫にラップして入れた)。
「よぅしとぅくん成分摂取かんりょ~! それじゃあ私はもう出るからあとはくるみのことお願いねー!」
「あぁはい……いってらっしゃい」
「行ってきま~すっ! 二人も気を付けて行ってね~!」
満足そうに俺の顔から両手を離すと、背を伸ばして頭をポンポンとしたあとかばんを持って走り去って行く。がちゃり、とドアの閉まる音が聞こえると、一つ息を吐いた。
「……よし、まずはくるみを起こしに行くか!」
俺はそう口に出すと、階段をのぼるのだった。
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