第6話 通学中の幼馴染との会話
そしてくるみと一緒に通学路を歩く。俺の家から出たばかりに比べると、外はだいぶあったかな陽気に包まれていた。
くるみは俺の隣で大きなあくびを洩らしつつ目を擦る。
「ふぁ~……。うぅ、まだ眠いよぉ……」
「夜遅くまでイラスト描いてたんだろ? まぁ頑張るのは良いことだけど、若い内から生活リズム崩して身体壊したら元も子もないぞ」
「うっ、ぜ、善処しまぁす……。そ、それにしてもとぅくんって、案外年上もす、好きだったんだね……。ま、まさか朝ご飯食べてる時にそういうの聞けるとは思わなくてび、びっくりしちゃったなぁ」
「……言っとくけどべつに深い意味なんてないからな? ただ限界範囲が少しだけ広いっていう意味で言ったんだからな?」
「わ、わかってるよとぉくん……! 私、そこまで鈍くないし思い込みも激しくないよ?」
「知ってる」
鈴の音を転がすような甘い声でそう話すくるみは、わたわたと手を左右に振って俺を見上げながら自信なさげな笑みを見せた。
朝食中、俺の言葉に勘違いしてしまってぷるぷる震えながら泣きそうな表情になったくるみ。なんとか弁明してことなきを得た。
小さい頃から一緒に育った幼馴染がまさか自分の父親になる可能性があると危惧して震えていたのだろう。
……うん、ない。それだけは絶対にないから安心しろよくるみ。
本当はくるみのことが大が付くほど好きだけど、男性不信なくるみにそれを伝えるのは関係が崩れそうで怖い。なのでそのあとすぐに、俺のストライクゾーンは十歳年上が限界だから安心しろ、ということをくるみに伝えた……のだが、何故かくるみは複雑そうな表情を浮かべていた。
くるみはその引っ込み思案な性格になってからは、人の感情の機微や仕草、一挙一動などによく注意を払うようになった。
なので、きっと俺の言葉の意味合いもそのままに汲み取ってくれているに違いない。……そう信じたい。
(……まぁ幼馴染とはいえ、そういう部分は興味ないだろうし知りたくはないよな。プロポーズなんて言葉も軽々しく言っちゃったし……。反省反省)
歩道側のくるみの隣を歩きながら、俺は深く反省する。俺はどうもくるみの側にいると、舞い上がって余計なことを言ってしまうらしい。
……うん、プロポーズされたとかもし逆に俺の立場だとしてもびっくりする。というかしばらく
好きな子がいきなり親になるとかどんな運命のいたずらだよ……。考えるだけで腹が痛い……。
「はぁ……死のうかな」
「ど、どうしたのとぅくん!? わ、私またなにかした!?」
「いんや、なんでもねぇよ。ただの自己嫌悪だし、くるみはなんにも―――」
「―――うぁー、もしかしてとぅくんに知ってるって言われて私のこと隅々まで知られてるんだぁって心がぽかぽかして他の人に見せられない気持ち悪い顔晒してたのばれちゃったからそんなこと言うのかな。ごめんなさいごめんなさい生まれてきてごめんなさい女の癖にラノベとかギャルゲ主人公みたい朝起こして貰ってごめんなさい背がちっちゃい癖に胸が大きくてごめんなさい所詮私なんてゲームとかイラストくらいしかとりえのない将来性皆無な女なんだぁ……!」
「く、くるみ? いきなりしゃがみ込んでブツブツ何言ってんだ?」
「あっ、ななななあんでもなぁいよとぅくん死なないで!?」
急に膝を抱えてしゃがんだり立ち上がったりと忙しないくるみだけど、大好きな幼馴染から死なないでと言われたらそれに応えないわけにはいかない。
俺、復活。
高校へ続く通学路の歩みを再開しながら俺は口を開いた。
「ははっ、くるみを残して俺が死ぬわけないだろ? だいたい俺以外に誰が朝起こしてやったり放課後一緒にゲームとか漫画読んだりするんだ? くるみはひとりだと寂しくてえんえん泣いちゃうだろ?」
「むぅ……とぅくん。私子供じゃないし、ましてやウサギでもないんだからね」
「……ふふっ」
「あっ、わ、笑った!? ひ、ひどいよとぅくん! 背はちっちゃいけど、中身はちゃんと大人だもん!」
「はいはい、そうですねー」
「その返事は絶対に分かって貰えてないやつぅ……」
俺はそう言いながらくるみの頭をぽんぽんと撫でる。さらさらの髪の感触が俺の手に伝わるが、くるみの表情を覗くと、頬を染めながらもなんとも複雑そうな顔になっていた。
大丈夫大丈夫、わかってるから。そもそも俺が笑ったのはウサギのコスプレをしたもこもこなくるみの姿を想像したからだ。うん、カワイイし超似合う。
性格もウサギそのものだし近くにいるだけでも癒されるぞ。
「……くるみ、大丈夫だからな」
「? とぅくん、なんのことぉ?」
「なにがあっても、絶対に俺が守ってやるから」
「―――、~~~っ!!」
今の本当の素の自分を隠して高校生活を送っているくるみを想い、俺はそう伝える。もう二度と好きな人の苦しんでいる顔なんて見たくはないから。
一瞬だけきょとんとしたくるみだったが、その後ばっと反対方向へと顔を背けた。彼女のその両手はくるみの頬に添えられてある。
そして一言。
「とぅくんマジ王子様ぁ……!」
「? ん、くるみなに言ったんだ?」
「わ、私も、ががが頑張りまぁすって!?」
蚊の鳴くような細い声で何かを呟いたくるみ。残念ながらその言葉は聞き取れなかったけど、その後すぐにとあたふたしながらそう話した。
偉いぞくるみ、高校で毎日緊張しながらも頑張ってるからな。俺も何かあったときは全力で支えてやる覚悟でいるから、安心しろよ。
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