帰還
神和住を斃した俺とマリンは、みんなが待つウォールガイヤの大地へと戻ってきた。
「よくやった、童」
「ルーノール?! アンタ生きてたのか!!」
傷だらけのルーノールが千頭の肩を借りて俺たちを出迎えてくれた。
その横で千頭がドヤ顔を披露する。
「隕石の下で生き埋めにされたのを神に助けてもらった後、ちょうどルーノールがやられかけてるのが目に映ってね。ギリギリ『道具収納』の中へ避難させたのさ」
「やれやれ、毎度のことだけど陰でコソコソ動き回るよなあ」
「それが僕だからね」
ごもっとも。
俺はなんだか妙な安心感を覚えてしまい、フッと笑ってしまう。
「ショウマー! マリンお姉ちゃーん!」
遠くからミカがディックと一緒にこっちへ走り込んできてマリンに抱き付いた。マリンも強くミカを抱き締める。
「二人とも無事で良かったよぅ!」
「ミカちゃんこそ、生きてて嬉しい……ミカちゃんからも『お姉ちゃん』って言葉が聞けなくなったら私……」
マリンの目尻に涙が浮かぶ。
だよな。マリンにとってミカも妹みたいな存在だ。これ以上、家族を失いたくはないよな。
そんな気持ちを察してか、ミカは『私は死なないよ。お姉ちゃんとはずぅーっと一緒だもん』と言って、顔をマリンの胸にぐりぐりと押し当てた。
「俺の嫁連中もツエーが、お前の嫁も強いな」
ディックが軽く握った拳を俺の前に出す。
「ああ、俺の自慢の彼女だよ」
その拳に、コンッと俺の拳を合わせた。
「……ところでマリンお姉ちゃん、その卑猥な恰好は?」
「あ……えと、これは『道具収納』を使う力も無いから替えの服取り出せなくて、ショウマ君に……」
先ほどの戦闘で服を台無しにされたマリンには、緊急処置として俺が前に使っていた黒いポンチョを羽織らせていた。
「裸ポンチョとは……ショウマも業が深いね」
ミカが悟りを開いたかのようにウンウン頷いた。
「べ、別にそんなんじゃないって! 他に着せれる服が無かっただけだ!」
『さーて、どーだかねー』と訝しむ素振りを見せるミカに、俺は全力で否定し続ける。
まったく、すぐ人を揶揄うミカには困ったもんだ。ディックも便乗してくるし、マリンも恥ずかしそうに顔を朱くしてしまう。でも、こんなひと時が何よりも愛しく、ずっと続いてほしいと願わずにはいられない。
*
その後、神和住から解放された幾千の輪廻の輪を、神ジジイが元の次元に還していった。
「これで停滞した世界も再び循環を始めるだろう。お前の故郷も含めてな、マリン」
「良かった……」
神のお墨付きを得て、マリンはホッと胸を撫で下ろした。
家族も友人も、そして顔見知りさえいなくなってしまった世界でも、マリンは生き残った人たちのことを気にかけていたんだな。
「ハァ、これでやっと休めるんだね」
「私もクタクタデース」
「二人もお疲れだったな」
満身創痍なアイリスとエマに、俺は労いの言葉をかける。
「アイリスも小さくなっちゃったな」
「イエス! 13? 14歳くらいにもどっちゃいまマーシタ!」
「ず、ずいぶん嬉しそうに言うんだな?」
「胸が小さくなって動きやすくなったのデース!」
「お、おう、なるほど……」
でも、それ結局また大きなるよな。なんて思ったことは言わないでおこう。
「とにかく、セラフィーネの歳がさらに下がらなかったのは不幸中の幸いだったな。エマも変わってないみたいだし良かっ――」
「変わっとるわああ!!」
「ぐほおお!!!」
エマからボディブローを浴びせられた。
「い、いやだって背丈変わってな――」
「まだ言うかああああ!!!」
「げふうう!!!」
追加でボディブローが入り、俺は腹を抱えて座り込んだ。
「いたたっ。手加減しろよっ。素のステータスはエマの方が上なんだからさ」
「ふふっ、楽しそうですね」
一悶着起こしていると、フィオレンツァがやってきた。
「仲がよろしいのは結構ですが、最後の異世界転生者に備えてしっかり身体を休めた方が良いですよ」
「言われなくても俺も疲れてるし、さっさと寝るつもりだよ。……次の相手は、超技術を持ってたアルーラの世界を滅ぼしたヤツだしな……」
「……渡辺さん、その者についてですが、実は――」
バキンッ。
フィオレンツァが何かを語ろうとした時、夜空から割れる音がした。
まさか、最後の異世界転生者を誘い込んだ?!
「神ジジイ! 何やってる! まだみんな体力を回復できてないんだぞ!!」
「わかっておる! これはワシではない!」
「えっ」
「先の戦闘、派手にやり過ぎたようだ。力の発生源を捉えて≪終焉≫がここへやって来る!」
バキイィイッ!!
完全に空間が破られた音。それは、この世界に在らざる者の来訪を報せていた。
俺たちは直ちに『異世界転生』を発動して戦闘態勢を取ろうとするが、ヤツのスピードは遥かに速かった。
スタッ、と俺たちの前に着地した。
全裸の少女……いやアレがついているから少年か。
一瞬性別を誤ってしまうほど綺麗な日本人顔で、黒髪も肩にかかるくらいのストレート。
その少年が片方の手の中に刀を創り出し、冷えた紺色の瞳を髪の隙間から覗かせた。
それを、認識した瞬間。
俺の首は、宙を舞っていた。
「え?」
事態を脳内で処理できないままクルクルと視界が回り、辺りの様子が目に映る。
殺されていた、全員が。
ディックは体を縦に真っ直ぐ切断され、ミカは上半身と下半身を分割され、マリンは心臓の位置に穴を穿たれていた。
「ショウ、マ……く……」
……嘘だ。
こんな呆気なく……っ、嘘だああああああ!!!!
「――あれっ?!」
気づけば、俺の首は元の位置に戻っていた。
慌てて周囲を確認すれば、マリンたちも無事だった。
ひょっとしてディックが『運命破却者』を使って復活させてくれたのか?
ディックに目をやると、首を横に振られた。
「ちげーぞ渡辺。俺は即死で何もできなかった」
「ディックじゃない?……なら何でみんな生き返ってるんだ?」
「残念ながらみんなじゃない。死んだままの人もいる」
同じく死んだはずの千頭から声があがった。見やれば、そばに分割された死体がいくつもあった。
これは……あの異世界転生者の仕業なのか?
「これがヤツの戦い方よ」
何もわからないままでいると、神ジジイが手掛かりをくれた。
「相手を殺してそのままのときもあれば、殺した相手を何度も復活させるときもある。目的はわからぬがヤツはどの世界でもそうしてきた。しかし――うっ!!」
神ジジイが話している間に、俺たちは再び攻撃を仕掛けられたらしかった。今度こそと警戒していたはずなのに、避けられず胴体を横に真っ二つにされた。
だが、それも一瞬で元に戻る。
「……何度も繰り返されて生き残る人数は減り、最終的には」
「全人類が全滅する……か」
今の攻撃でさらに死体が増えていた。
「けど、2回目で攻撃の正体がハッキリした! ディック!」
「ああ! やるぜ!!」
他のみんなは既に神和住との戦闘で出し切ってしまってる。余力が残ってる俺たちで何とかするしかない!
少年が刀を構える。
来る。
俺とディックは『クロノスへの祈り』を発動させた。
ヤツの攻撃はつまり、メチャクチャ速いんだ。
光速。秒速約30万km。
比喩表現とかではなく、光の速度そのもの。
人の身で光速度まで加速するには、無限大のエネルギー必要なはずだがどうやって? 一時的に自分の質量を0にしている? 何で衝撃波が発生しない?
輪廻の輪の知識から様々な疑問がもたらされるが、考えてる余裕はない。
『クロノスへの祈り』によって、時間の進みを1万分の1にする。
1秒が2時間46分になる世界だ。
これで敵の速度は相対的に秒速30kmとなったが、相手が光速で動いてるのは変わらないため視覚で捉えるのは不可能だ。
だから、ジェニーお得意の能力『直感』で。
ガィンッ!!
俺は白銀の剣で、敵の一太刀を受け止めた。予想通り、攻撃自体に重さは全くない速さだけだ。
「今だ!」
俺が叫べば、ディックが反対方向から敵を挟み撃ちにするように白銀の剣を振るった。
敵はこれに反応して、もう一方の手に刀を創り出して防いでくる。
「流石にやりやがる! けど、これでガラ空きだ!!」
両腕の動きを封じたところでディックが片手にもう一本剣を創り出し、それを敵の心臓へ突き立てた。
敵は脱力して刀を落とし両腕を下げると、仰向けに倒れていった。
「……たお……した?…………やった……やったああああああ!!! 最後の異世界転生者をやっつけたんだ!!」
ミカが大の字になって跳び上がれば、歓声がドッと味方たちから沸き上がった。
「へっ、最後はあっさりだったな。スピードこそ凄まじかったが、パワーは神和住の方が圧倒的に上だったぜ。なぁ、渡辺……渡辺?」
俺は呆然と敵の顔を見下ろしながら立ち尽くしていた。
……何でだ? 何で全然終わったように思えない?
コイツはこうして心臓の鼓動を止めているのに、両目を閉じているのに。
それだけじゃない、俺は――コイツを知っている気がする。
パチッと敵が両目を開けた。
「「 ――ッ!! 」」
俺とディックは慌てて後退した。
「ま、まだ生きてやがった?! 待て待て明らかに死んでただろ!!」
「はい、彼は死んでいました」
横でディックが冷や汗を流していると、後ろからフィオレンツァの流暢な声が聞こえてきた。
「死んでも蘇る。それが彼が彼の神から与えられた能力≪
「お、おい! それじゃあどうやっても斃せないんじゃねーか!! 何でそんな大事なこと今まで黙ってたんだ!!」
ディックの主張に俺も同意だ。
「相手が不死身であると知れれば、全体の士気に影響する可能性があった。そういうことでしょう?」
「うむ」
千頭の予想は合っていたようで神ジジイが首を縦に振る。
「だが、お前たちならきっとヤツを、≪終焉≫を乗り越えられるはずだ。これまで幾度も絶望を前にして勝利を収めてきたお前たちなら」
「簡単に言ってくれるぜ。なぁ、渡辺どうや――渡辺?!」
俺は、≪終焉≫に突撃していた。
不死身の話も驚きだが、それ以上にコイツに対する自分の気持ちが奇妙だった。
どうして俺はコイツを知っているんだ。
どうして俺はコイツを、“可哀そう”だと思ってしまうんだ。
知りたい。
この感情が何によってもたらされてるのかを。
そんな俺の胸の内を察しているのか、それとも当たったところで不死身だからと高を括っているのか、≪終焉≫は一切抵抗せず俺の突き出した拳を受け入れ、それが胸に当たった。
俺の意思と、≪終焉≫の意思を繋げる…………え?……コイツ……意思が……。
「ショウマ君避けて!!」
マリンの叫びが耳に入った時には、俺はヤツの刀によって右肩から反対の脇腹までバックリと裂かれていた。
「くっ! 渡辺君!」
地面にできた『道具収納』の穴に俺は落ちた。多分、千頭だ。
紫の空間を通って別の穴を出れば、俺はマリンの前に転がり出た。
彼女の前で大量の血を流し、吐血混じりの咳をする。
マリンが急いで俺の傷を塞ごうとするが、疲れ切って創造の力が出せない。
「みんな! 手を貸して!」
マリンの呼び声にミカ、ジェニー、メシュが応じ駆けつけてくれた。
みんなが一心に回復の光をかけてくれる中で、俺は密かにショックを受けていた。
≪終焉≫には意思が無かった。心を覗き込んでも、その中は深淵の闇だけが広がっていて、空虚なものだった。
ヤツは意思も無しに、ひたすら世界を滅ぼし回っている。
そんな話があり得るのか。
「ねぇ、あれ何ー?」
ジェニーが夜空を指差す。
みんながそちらに視線を向けるのに釣られて、俺も目を向けた。
「っ――」
上空に、太陽系を丸々一つ飲み込めてしまえるほどの巨大な両開き扉が浮かんでいた。
扉の額縁の数ヶ所から、一つ一つが木星サイズの鎖が連なって垂れ下がりウォールガイヤを囲っている。扉の装飾には翼を生やした人間――天使らしき存在が無数に描かれ、全員剣か槍で貫かれている。特に目立つのは中央の円。天使の死体が輪を成すように並んでいた。
そして、その輪を真っ二つに割くように、ゴゴゴと重低音を奏でながら扉が開き出す。
「な、何だあれは?!」
神ジジイも知らないらしかった。
『我が落陽は始まりなり、終わりなり』
これまで一言も発してこなかった≪終焉≫が、初めて口を開いた。想像よりも澄み切った声だ。
ふわりと、終焉は空へ浮かんでいき、虚ろな表情のまま俺たちを見下ろす。
≪終焉≫の後ろでは開いた扉の中から、黒い靄が溢れ出てきていた。靄は両手に似た形をしており、そのサイズは太陽さえも鷲掴みにできるくらいある。それがウォールガイヤを挟むように配置される。
『円環の蛇に連なりし偽りの宝玉。我、終焉を携え、夢枕より解放せん』
両手がウォールガイヤへと動き出した。
その所作はまるで、読み終えた本を閉じるかのよう。
『≪異世界転生終焉門≫――あまねく、光あれ』
「これはっ!! メシュ、乾坤一擲だ! ワシが時間を稼ぐ、『異世界転生』で渡辺たちを!!」
「っ、ああ! 任せよ!!」
メシュが天使の翼で俺やマリンたちを覆った。
その翼の隙間から、神ジジイが空に飛び立ち両腕を広げるのが見える。
神ジジイのヤツ、何を?
「お前が、概念すらも超越し終わりそのものにまで進化したというなら、ワシはこの世界を生み出した創造神だ!! なめるなよ!!」
神ジジイの両手から白銀の閃光が視界いっぱいに広がった。
創造の光。
ビックバンだ。
神ジジイは宇宙誕生の力で黒い手に抗おうとしているのか。
効果はあった。
黒い手の進行が遅くなる。
「うおおおおおお!!!!!」
神ジジイの叫びとともに光は濃さを増し、視界が真っ白に塗り潰されていく。
その最中、終焉の紺色の瞳が俺を捉えていた。
「……君も、ニセモノ……」
あ……そうか……お前は……そうだったのか……。
直後、視界も意識も真っ黒になった。
どれほどの時間が経ったんだろう。
意識がまだ微睡んでる中、俺は目を開けた。
「うわっ!」
体が地面と接してなくて宙を回る。
足元が覚束ないまま辺りに目をやると、周りは白い空間で満たされていた。
「ど、どこだ。ここ……っ! マリン! ミカ! ジェニーたちも!」
空間の中でマリン、ミカ、ジェニー、メシュ、千頭、ディック、セラフィーネ、エマ、アイリスが同じ様にして浮いているのを見つけた。彼女たちもちょうど目を覚ましたところだった。
「目覚めたか。【神の恩寵】……神から与えられる
メシュ以外が動揺していると俺たちの前に神ジジイが現れた。
「ちょ、ちょっと待って! みんなはどこに行ったの?! ウォールガイヤは?!」
「お前たち以外、この世から消滅した」
ミカが訊けば、神ジジイは重く発した。
「そん……な……」
俺は全身から力が抜ける想いだった。
守れなかったんだ。
フウランも市川もデューイも……みんな……死んでしまった。
「そして……ワシもな……」
「「 っ?!! 」」
神ジジイの全身が徐々に透明になり出した。
「神ジジイ、まさかお前……」
「ああ。ワシも……ここまで……だ」
話すのも辛いのか、言葉が途切れ途切れになる。
「ここまでって、神様のアンタがいなくなったら世界は!!」
「案ずる、な。神様なんぞいなく……とも、お前たちはお前たち自身の足で……立派に歩いて往ける……」
神ジジイが震える手で指先を円を描いた。
すると、空間に赤い穴ができる。
「地球へ通ずる……道。終……焉は、地球に向か、った……止めるのだ」
「勝手に話を進めるな! ディック、『運命破却者』で結果を変えるんだ!」
「さっきからやろうとしてる。だがあの攻撃のせいか時間がそれより前に巻き戻せねーんだ……」
「っ! だったら!」
俺は『飛行』で神ジジイのそばに寄ると、創造の光を何度も何度も浴びせた。
「……我が子らよ……最期に、謝らせてくれ…………神々の咎に、お前たちを巻き込んで、お前たちの人生を歪めてしまって……すまなかった」
「謝るくらいなら消えるんじゃ――!!」
神ジジイの目は遠くを見ていた。
俺はこの顔を知っている。死を悟った人の顔だ。自分が歩んできた道程を振り返っているんだ。
オルガも、最期はこんな顔をしていた……。
あの時の俺はそれを受け入れられなくて、最後の最後までオルガが聴きたがっていた言葉を送ってやれなかった。
あんな後悔はもうごめんだ。だから。
「……アンタは悪くない、他の神様がやったことなんだから。……むしろ、感謝してる。アンタがいなかったら、俺たちは何も知らないまま世界を壊されてた」
「……そう、か…………渡辺よ、お前は言っていたな。意思は関わった者の魂の中に生き続けると……それは神も例外では……ないのかね?……」
「ああ、もちろん」
「それを聞いて……安心した……」
「っ!」
神ジジイの体が崩れて光の粒になり始めた。
ダメだ。
消える前に、これだけは言わなきゃ。
138億年間、ずっと世界を見守り続けてくれた神様に。
「神様! 俺たちを生んでくれて、ありがとう!」
「――――」
俺たちの神様が、世界から消えた。
最期、ちゃんと声は届いただろうか。
届いていたとして、喜んで逝けただろうか。
気になるけど、確かめようはない。
それに、今はやらなきゃいけないことがある。
俺は赤い穴の前に移動した。
「渡辺君、輪廻の輪の情報によれば、この出力だと地球へ転移できるのは一人までみたいだよ。どうやら神様もそれくらいの力しか残ってなかったんだね」
「終焉を追えるのはたった一人だけ……!!」
白い空間がチカチカと明滅し始めた。
「ここの空間も長くはもたねーみたいだな。そろそろ何も無い宇宙空間に放り出されそうだ」
ディックが落ち着いた口調でさらっと大問題を口にした。
「待った! それじゃあ残ったヤツ全員ヤバいんじゃないのか?!」
「危険だろうね。空気も無いほぼ絶対零度の空間に取り残されるんだから。でも、それを承知の上で言わせてもらうよ。僕はここに残る。そして、終焉は君が、渡辺君が追うんだ」
「千頭?! お前、何言ってるんだ!」
「俺も賛成だ」
「ディック、お前まで!!」
「落ち着けよ渡辺、多分俺と千頭以外のヤツも全員そう思ってる。何で?は、無しにしろよ。ここまで俺たちがやってこれたのは、間違いなくお前のおかげなんだからな」
「っ……ディック……」
「ショウマ君……」
マリンが俺の前にやってくる。
そっと手を握って優しく語り掛けてくれる。
「私たちのことは心配しないで。みんな強いんだから」
「……うん……」
「それにほら、夢の国にデートしに行くって約束したでしょ? 私だって楽しみにしてるんだもん。ここで死ぬつもりは無いよ」
「……そう、だな」
そうだ我慢しろ、渡辺 勝麻。
ここまで来るのに多くの犠牲を払ってきたんだ。俺のわがままで立ち止まるわけにはいかない。
「……行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい」
彼女の微笑みを最後に焼き付けて、俺はみんなに背を向けた。
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