特効薬このちん
あのバトルから日曜日を挟んで月曜日。
「よぉこのちーん」
「うっせ」
俺は大起からのうっせぇこのちん襲撃を受けつつ座る。
「このちんがねぇとなんか物足りねーよなー」
「うっせ」
さーて一時間目は国語ーっと。今日は便覧使わないよな。
「どうださみしいか?」
「うっせ」
教科書おっけーノートおっけー筆箱おっけー消しゴムおっけー。朝の会があるからまだ机の上には出さないけどな。
「かぜかなんかか?」
「さあな」
「なんだ弧雪も知らないんじゃだれも知らねーよなー」
「いや休むんだったら先生知ってるだろ」
「それもそっか!」
まだ朝の会は始まってないんだ。もしかしたら食パンくわえてぎりぎりセーフかもしれないしな。
「ごめんなさいね心配かけちゃって。佳桜美は今日も朝から寝てばかりなのよ」
「そっか」
あっちからもこっちからも佳桜美どうしたって聞かれまくったから俺は今斉琳寺家の門扉でおばさんとしゃべってるだけなんだからな! べっ、別に佳桜美が心配で来たとかじゃないんだからねっ!
にしても深緑色で立派な門扉である。俺ん家よりも明らかに広い家である。
「でも弧雪くんが来てくれたのなら、きっと佳桜美も元気になると思うわ。よかったらあがって佳桜美の様子を見てあげてくれるかしら」
「寝てるのにじゃまとかじゃないのか?」
「そんなことはないわ。佳桜美にとったらいちばんの特効薬じゃないかしら」
まぁおばさんがこうやってうふふと笑ってるんだ。想像したほどひどくはないんだろう。
「じゃー……おじゃましまーす」
「どうぞ。後でレモネードを持っていくわね」
「あざす」
俺は斉琳寺家に入った。これだけ長い仲なのでそこまで珍しいことでもないが、それでも佳桜美の方から俺ん家にやってくる方が圧倒的なのが現状である。
俺は佳桜美の部屋に入るときって毎回緊張するんだが、佳桜美は俺の部屋に入るときは緊張し…………てなさそうだよなうんうん。
「佳桜美ー、入るぞー」
一応ノックくらいはな。うん。
(応答なし。突撃ー! GO! GO! GO!)
俺は静かに扉を開けた。丸いドアノブがかっちょいい。
佳桜美の部屋の中は実は俺の部屋とそんなに変わらない。あぁもちろん棚がでかいとか勉強机が大きいとかはあるが、例えばレースふりふりとか壁一面にポスターとかぬいぐるみ満載とか機織り機設置とかはない。
ベッドも俺のよりちょこっと大きいかな? ピンクい花柄の布団だが、こんなにピンクアピールしてる部分もこの部屋全体の中ではこれだけだろう。なおさすがにこれは俺とおそろいではない。
小さな照明が置かれたサイドテーブルには、やはり水にレモンの輪切りが入った透明のポットとタオルや体温計などが置かれていた。水銀じゃなく電子的なやつ。バナナも発見。
そしてベッドのすぐそばにまでやってきた。佳桜美はあっち向いていたがすやすや寝ているようだ。パジャマもピンクい佳桜美さん。
(とりあえず病院行きではないか)
そういうことならばさっさとあの最後のセリフの部分の記憶を消し去っていただきたいものだ。ぜひともだ。
(起こすのもなんかなぁー。でもおばさんは特効薬とか言ってたしー。うーむどうしたものか)
お、寝返りを打ってゆっくりこっちを向いた。すやすや佳桜美ちゃん。
(んー)
でもおじさんが言うように、一度寝たらなかなか起きないんだよなー。俺ん家でちょっと寝るときはさすがにちょっとで起きてくれていることがほとんどだが、ここは佳桜美にとって自分の部屋だから、ぐっすり寝るのは当然である。
(んーんー)
ま、どうせ起きないんだ。学生カバンはベッド下に置き、右手を佳桜美の左ほっぺに添えて、このちん襲撃カウンター
初めてなくせに、なんでこんなにもすんなり唇をくっつけることができるんだろうな。
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