VSグライダー!

 食後の軽い運動ということで、方向的には俺の家に向かいつつも途中にある公園へやってきた。この辺の団地の中ではやや大きい方の公園になるかな。遊具も結構ある。

「こーのちーん! わーい!」

 で。もう機嫌直しながら滑り台滑ってくるこれこそ佳桜美クオリティ。俺は滑り台の正面にあるブランコで紙袋とポシェット持ちながらゆらゆら揺れている。そういやブランコで酔うってやつがいたな。佳桜美は酔わなさそうだ。

 滑ってる間こっち見ながらこのちーん言ったかと思ったら、もっかい登って

「こーのちーん!」

 滑りながらのこのちん。

(……あれのどこが楽しいんだ?)

 いや、滑り台のおもしろさを否定しているわけじゃないんだ。長いローラーのやつとかテンション爆上げだろうし。ただあんだけ同じ笑顔であんだけ同じ腕の角度であんだけ同じトーンで繰り返

「こーのちーん!」

 すってことはそんだけ楽しいってことだろ? ですよねぇ? 俺楽しくないのにあんなに笑顔作れる自信なんてないし。

 まぁそりゃさあ、俺だって佳桜美と

「こーのちーん!」

 一緒にいてて暇ってことはないし、佳桜美からあれやりたいこれしてあれしよとか誘われたら、別にそのままついてくけどさー。

 自分で言うのもあれだが、佳桜美って俺とこん

「こーのちーん!」

 なに一緒にいてるのに、ちっとも飽きてるような様子がないというか、昔っからずーっと変わらず俺にくっついては楽しんでそうなんだよなー。

 俺も俺で確かに佳桜美と楽しんではいるんだろ

「こーのちーん!」

 うけど、佳桜美はこう、ほんと表情全面に出すほど心底楽しんでるって感じだし。

 実際ほかの友達と遊んでるときはどんな感じなんだろうな。そういやそういうのってほかのやつらから聞いたことな

「こーのちーん!」

 いな。今度家庭部のやつらにでも聞いてみるかな。

(家庭部か……フッ……)

 ってか家庭部っつったら今日もあんな手芸の本引っ張ってくるというのが佳桜美らしいっちゃ佳桜美らしいというか

「こーのちーん!」

「ほんと飽きねぇなぁそれぇ!!」


「このちん鉄棒得意ー?」

「得意ってほどでもないが、グライダーが流行ったときに乗っかったな」

 なんか小学生のときって、妙な流行が発生することあるよな?

 そのうちのひとつで、鉄棒で両手をそろえつつ両足は開け気味で棒に滑らせ半回転、その勢いのまま鉄棒から離れ、体を反らしながら着地。なおグライダーっていうのが本当の技の名前なのかは知らないしだれが言い出したのかも知らない。これもまた小学生クオリティ。

 俺は紙袋とポシェットを佳桜美に渡して、最も高い鉄棒~っつってもめちゃくちゃ高いわけでもないが、なところに飛びながら手を掛ける。

「おおかっこいい!」

「まだつかんだだけじゃねー……かっ」

「おお~!」

 勢いをつけて棒をおなかの辺りに持ってきて、脚を広げて棒に乗せてーっと

「すごいすごい!」

「ちょい離れろ」

(これやるの何年ぶりだ?)

 まぁでも鉄棒の前通るたびにやってたようなもんだし……なっ。

「きゃーこのちんすてきー!」

「うおのわ! な、なにやってんだごらぁ!」

 久々に天地がひっくり返る景色が流れた後に着地に成功するとなんと抱きついてきたぞこのこのちん魔!

(見られてないな!? 見られてないよな!?)

 幸い今この時には周りにはだれもおらず、遠くに見えるほかに遊んでるやつらはこっちを向いてないのばっかりだ。

「このちん運動してるとこ間近で見られることないもーん」

「んぁー……そうか?」

「そうだよぅ!」

 球技大会も別だしなぁ。

「部で重い物運んだり重い物運んだり、それから重い物運んだりしてるの俺なんだけどな」

「そんなんじゃなくて、こう、びしっとかっこいいの!」

「ミシンさばき」

「そんなの私もできるー!」

 ………………ま。たまにはくっつかれるのも、悪い気は、しない……かな。


 木を縦に切ったのを寝かせたような形のベンチ(ただし材質は木じゃない)に並んで座る俺たち。

「なんだかんだで今日はガッツリ佳桜美とはしゃいでんな」

「うん。今日もこのちんと一緒~」

 ……さて。俺はこの時の佳桜美の表情を見逃さなかった。

 これっだけ佳桜美と一緒にいてりゃ佳桜美の表情の変化を発見するのもおちゃのこさいさいさ。

「今はー、二時か。どうする佳桜美、俺ん家行くか?」

「え? いいの?」

 解散って言うと思ったそこの諸君。残念だったなグッフッフ。

「ああ。買い物もランチもしたんだ。図書館や公園まで来たんだから、外でやることはもう満足だろ? 残りの時間は俺ん家で過ごそうぜ」

 俺は佳桜美の提案に乗っかることがほとんどだが、佳桜美だって

「うんっ、そうするぅっ」

 俺の提案に乗っかってくれることがほとんどだ。


 ポシェットは左肩から提げ紙袋も右手で持ちながら、左手は佳桜美とつないでる。

 佳桜美にこにこ。

「やっぱりこのちんと一緒にいるときが最高だよぉ~」

「俺は寝てるときが最高だけどな」

「えぇ~、絶対寝てるときよりこのちんと一緒の方が上だよー」

「いーや、寝てるときの方が上だ」

「そんなぁ! このちんは今日私と一緒にいるより寝てたかったの!?」

「佳桜美と一緒にいたかったから寝ずに佳桜美と一緒にいるんでしょーが」

 ふぅ。まぁ今回はこのくらいで勘弁しといてやろう。

 佳桜美は黙って、そしてちょっとはにかみながらつないでる手の力を少しだけ強めてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る