中学三年生たちのお昼ごはん

「夏休みが近づいてきたね。家庭部は大会とかあるのかい?」

 食べながら泳蔵がそんなことを聞いてきた。かみかみごっくん。

「あるぜ。筆記と実技だ。家庭部はあんまり点数とかが出る大会がねーから、この大会で出る点数は実力を示す数少ない資料になるんだぞ」

「なるほどな。二人は同じ高校に行くのかい?」

「高校かー。佳桜美はどうするつもりだーってめちゃくちゃ食いっぷりがいいなおい」

「ふぇ?」

 勢いよく佳桜美のお口に吸い込まれていくそば。この食いっぷりのどこにか弱い要素があるんだろうか。手は細いけど。

 かみかみごっくんを待つ。

「んっ。私はもちろんこのちんと一緒ー」

「はは、やっぱりそうなんだね」

 俺も本日の小鉢、ほうれんそうとひじきの白和えをもごもご。

「じゃあ俺と一緒というのを仮定として」

「仮定じゃなくて前提っ!」

 ずいっと来た佳桜美。

「へいへいじゃぁ前提っていう仮定として、佳桜美はどこか行きたいとこはないのか? やっぱ家庭系なとこか?」

「私ねー」

 お、そこでうーんとか悩むことないのか。

「……私ね?」

 葉っぱの形をしたはし置きにはしをゆっくり置いた佳桜美。

「……一人暮らししたいなって思ってるの」

「へぇ、すごいなぁ」

「お、まじか」

 やんわりほほえんでいる佳桜美。

「私が行ってみたいなって思っている高校は、いろんなことができるみたいなの。最近新しい棟を建てたらしくて、これからさらにいろんなことができるようにしていきます、っていうところなんだって。授業も自由に組み合わせて選べるんだよ」

 ここでもやはりさすが斉琳寺家と言うほかない。俺まったく高校のことなんてノータッチだったからな。

「一人暮らしするっていってもここからすごく遠いわけでもないから、たぶんお父さんとお母さんも許してくれる……はず」

「はずって、じゃあまだ言ってないのか?」

「うん、でも資料を取り寄せたことは知ってるけどね。家庭部もあるんだよ」

 さっきの図書館といい、こういうまじめなときの佳桜美って、なんでこんなにかっこよく見えるんだろう。

「やっぱり高校でも家庭部入るつもりなのか?」

「まだ決めてないけど、ほかによさそうな部活がなかったら、続けるかなぁ」

「なるほどな」

 俺がほかの部活……サッカー野球テニスバスケバレー……やべぇ、エクストリームアイロニングの方が似合うと思ってしまう自分がどこかむなしい。

「どうしたのこのちん?」

「あいや、エクストリゲフゴホなんでもない。そっか、さすが佳桜美だな。もうそんなとこまで考えてるなんてな」

「で、でもね!」

 またちょっとずいっと来た。

「やっぱり私はこのちんと一緒がいいの!」

 あれだけ語っといてそういうこと言いますかこの佳桜美さんは。

「まぁこのちんの入れるところなら、わたくしの実力であればどこでも入れますことよおーっほっほっほ!」

 あんだけ語っときながらんなこと言ってくんのかこのこのちん魔は。

(そして事実だから悲しい!!)

「ははっ、仲がいいねー。僕は隣町の高校かな。バスケ強いからね」

「あーそういえばそうだったな」

 俺はあまり詳しくないが、バスケに関係する横断幕みたいなのがたまに掲げられてるくらいだからな。バスケ部なになに大会出場~みたいなやつ。

 ちなみに泳蔵も特に頭悪いとかは聞いたことがないので、たぶんこの様子なら大丈夫そうなんだろう。

「二人ともそういうこと考えてんのに、俺なーんも考えてなかったぜ」

「じゃあ私も一緒に考えてあげるー! ね、一緒の高校行こう? お願いこのちんっ」

 お決まりのポーズともいえるぐーにした手ふたつが気合の入れ具合を物語っているが、うるうるしつつもそんなドストレートにお願いされて断れるわけなんてなく……。

「……か、考えておいてやるっ」

「やったぁ~! このちんと一緒の高校だぁ~!」

「くぉらー! 考えるっつっただけっスからあー!」

「んも~てれちゃってー素直に私と一緒の高校に行きたいって言えばいいんだよぉ~?」

「あー本日の小鉢うめーなー」

「いいんだよぉ~?」

「やっぱここのカレーうどん最強やわー」

「こーのちーん」

「炊き込みご飯うま。ここに来たらこれは外せんな」

 俺たちは楽しく昼ごはんを食べた。


「ごっちゃーん」

「ありがとよ!」

「ありがとうね! また来てね!」

「ごちそうさまでしたぁ~!」

「それじゃあな」

 輪谷家族に見送られながら俺たちは定食屋輪谷を出た。


「あ~おなかいっぱ~い! 幸せ~」

 両腕広げてさぞ幸せそうだ。

「俺が言うのもあれだけどさ。女子にしては食べすぎじゃね?」

「よく言われるよそれー。私からしたらみんなの少なさの方が不思議ー」

 家庭部ってこともあって調理実習することも結構あるので、佳桜美がよく食べるのは当然知っているわけだが、いつそのすばらしい食いっぷりを見ても不思議である。なにが不思議か。それはもちろん。

「の割には身長低いな」

「このちんのあほー!」

「ぐぇ」

 胸にかおみぱんちをもらってしまった。全然か弱くないやんけ……。

「ふんっ! どうせ私はちっちゃいですよーだ」

「まったくもってそのとおりだなぐぇ」

 ダブルかおみぱんちをもらってしまった。

「このちんはやっぱり大きい女の人がいいんだー」

「いいってなにがだよ。俺は別に見た目が大きくても小さくても気にしない派だぞ」

「ほんとにー?」

「本当だ。ただ単に俺は佳桜美が小さいという事実をぐぇっ」

 トリプルかおみぱんちをもらってしまった。まさか習い事って空手とかじゃねーだろうな? まさかのムエタイ論再浮上?

「ほらほらたくさん食べたんだからこれからどうすんだよ。散歩でもするか?」

「ふんっ!」

「じゃ解散?」

「やだっ!」

「だろ? じゃ公園にでも行くか」

「ふんっ!」

 さっきの図書館のときに読んでたライトノベルで主人公の男にこんな感じの妹がいたような気がする。身長はもう少し高そゲフゴホ。

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