VSバッグクロージャー!

 やってきたのは図書館だ。この辺の地域ではそこそこの大きさを誇り、駅からも割と近いので利用者は結構いるみたいだー……ってまぁほかの図書館の利用状況をリサーチしたわけじゃないんだがっ。

 建物もなんかかっこいいっていうか、外観は赤茶色な外壁だったり図書館の字がかっちょよかったり立派な柱が建っていたりするが、中は割と普通かな? エレベーターも付いてる。三階建て。

 俺らはこれが徒歩圏内にあるってことでたまーによその人にうらやましがられることもある。電車に乗ったらもっと大きい図書館のあるとこにも行ける。

 それに今は七月。暑くなってきたこの時期に涼みに来る人もいるってわけだ。


 佳桜美が読む本を探しにるんるん見て回るのを後ろからついていってるだけだが……おいおい休みの日にまで家庭部のこと考えてんのかこいつは?

「俺ラノベ取ってくっからそこのソファーで集合な」

「うん。一人で帰らないでね?」

「そこに人質がいるんだが」

 俺が指差すのは佳桜美のポシェット。改めて両手で持って体をひねりながらにやにやする佳桜美。


「……うわ~ガッツリ手芸本……」

 なかなかの大きさでミシンやら手編みやら羊毛フェルトやらを手元の写真を見せながら紹介していってるバリバリの手芸本であった。

 ポシェットと麦わら帽子は左隣に置かれてるので、紙袋も置いておくことにした。

「このちんは?」

「さてっと……」

 対して俺は『家庭部エースのバッグクロージャー食パンくくる青いアレ!』、キャッチフレーズは『完封勝利のエース(※ただし家庭的な)と呼ばれし男の四代目!』である。

「あ、これおもしろいよねーっ」

「な! 佳桜……美、これ知ってんのか?」

 つい声を大きめに驚いてしまったが、俺はこれはタイトルと表紙で選んできただけだ。

「うんうん、いーよぉっ。私ははっとんから借りて読んだよ」

 はっとんとは波田内はたない 絵梨えりのことだ。同級生で俺とは違うクラス。同じ家庭部。髪は肩くらい。

「ふーん」

「じゃあこれからも図書館一緒に通おうっか~」

「ちょっ」

 なんか右肩寄せてきたんスけど。右腕も当たってる。

「別に通わなくっても借りりゃいーじゃん」

「え~」

 ぶーぶーしてる佳桜美。座ってるせいかいつもより近い。

「てかいくら端っこのソファーだからってここ図書館なんだろ? ほら読むぞ」

「はぁ~い」

 一瞬だけ佳桜美が成績優秀者なのか疑ってしまった。


(……いや、うん。図書館だから本を読むのは間違いない。静かにするのも正解だ。だが……)

 なんで早々にガッツリ手芸本を置いて俺のラノベ一緒に読むことになってんだよぉ!

(顔ちけぇ)

 肩も腕ももはやくっつけてんのが当たり前ってくらいずっとくっつけっぱなしだし。

「近くね?」

 ぼそっとつぶやいてみた。

「大丈夫だよ。このちんが読みやすいところで読んでていいよ」

 トーンが普通だったのは図書館のせいなのかそれともガチで気を遣ってくれてんのか。

「持つの疲れたら言ってね。代わるからね」

 だからまじめな佳桜美は反則だっつーの。

(さて気を取り直して続きを読むとしますか……)

 佳桜美の温かさ感じまくりの中で。


「そろそろ行くか?」

 きりのいいところでふとでっかい壁掛け時計を見たら、十一時五十分だった。

「うん」

 本を取ってくるときはばらばらだったが、返すときには一緒にそれぞれの場所へ返しに回った。

 佳桜美様の命令により、借りるんじゃなくまたここへ一緒に読みに来るということになってしまった。



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