戦闘開始!!
次の日。土曜日。
約束……いや命令どおり俺は朝から出撃の準備を整え、インターホンを待った。
デート……いや買い物への付き添いには、佳桜美が朝九時に俺ん
ともかく佳桜美の小さな手を握る感覚が左手にある状態では、素直にその時間を受け入れることしかできなかった。
「気をつけて行ってくるのよ」
「へいへい」
今日は母さんが家にいる。父さんは朝から出かけたな。なんか友達とバックギャモンするとか言って気合入ってたな。
(お、来たかっ)
インターホンが鳴
「こーのちぃーん!」
っていや叫びすぎだろ! インターホン鳴らしてんのに初手このちん襲撃の方がよく聞こえてんじゃねぇか!
「いってらっしゃい」
「いってきまー」
家ん中でもほほえまれる始末である。
「おはようこのちーん!」
「おはー。やっぱりムエタイ使いの道場破りなのか?」
「へ?」
今日の佳桜美は水色の長そでブラウスに薄いピンクの長いスカートだ。靴は白い運動靴だな。そしてバリバリの麦わら帽子。あと小型の赤いポシェット装備だ。細いひもで止め具などが銀色の物だが、昔おばさんが使ってた物だって聞いたな。マチが付いてて見た目よりも収納容量があるんだぞ。
俺は半そで青いシャツにジーパン。ベージュ色のひも靴。家の鍵と財布と学生手帳は佳桜美に預けた。これ結構いつもの流れ。
「いきなり文房具屋行っていいんだな?」
「うん。九時から開いてるもん」
実に元気そうですね佳桜美さん。
「デートッ、デートッ、こーのちんと~デ・エ・トッ」
佳桜美以外だれも歌ったところを聴いたことがないしこの先も佳桜美以外だれからも聴くことがないであろう謎のこのちんソングが流れ出した。すんげー笑顔で。
「じゃ文房具屋に着いた瞬間解散で」
「このちんはこんなか弱い乙女を一人置いて去っていくの!?」
「か弱い乙女は背後からタックルかまさねぇと思いますよぉ?」
「それはか弱い乙女への偏見ですわ! か弱い乙女だって殿方に飛びついちゃうものですことよ!」
謎キャラを演じることが流行っているのかこの学年はって思おうとしたけど俺も当てはまらないこともないことに気づいてしまい心の中でひざをついた。
「か弱いんだから無理しなくていいんじゃないっスかね?」
「か弱いんだからその時その時一生懸命生きているのですわよ!」
よくわからない主張だったが、佳桜美がそれを言うとほんのわずかながら説得力がある気がした。
「んじゃそんなか弱いさんはか弱くないさんな俺と今日いつまでいたいんだよ」
「五時ですわ!」
実にガッツリである。
「昼ごはんどうすんだ」
「デートでランチですわあたっ、なによぅ」
お嬢様キャラに酔いしれてる節があったのででこぴんをお見舞いしてやった。
「うどんか? 立ち食いそばか? それとも立ち食いうどんか?」
「なんでみっつのうちふたつが立って食べてるのぅ。しかもうどんかそばしかないじゃん!」
「嫌いか?」
「好き」
わかっちゃいるけど、その二文字をぶつけられると……くぅっ。
「クリームソーダは?」
「好き」
「モンブランは?」
「好き」
「ガレットブレッサンヌは?」
「好き」
「このちんは?」
すいませんふざけました。
(あれ、しかし……?)
返事がない。ちょっと視線落とし気味でやや上目遣いをちらちらさせているだけだ。
「……このちんはー……私の~……」
(……のー?)
と続きの言葉を待っていたが、首を横に振られてまた沈黙の時間がやってきた。
(……さすがにー、流れ変えるか)
「どんな消しゴムとノートをお望みなんだ?」
「あ、えと、よく消えるのと、いつも使ってるノートに新しい機能が加わったノートあるって聞いたから、それっ」
俺ノートとかそこまでこだわったことねーなぁ。よその地区の運動会へ出たときに手に入れた賞品のノート十冊セットがまだ余ってるぞ。佳桜美レベルともなるとノートひとつで勉強効率が変わるんだろうか。
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