そう、『俺たち』は……

 いつもあんな感じでこのちん襲撃を受けているが、さすがに毎休み時間ごとに毎このちん襲撃を受けるわけではない。もちろん移動教室とかの関係により廊下で会ったらこのちん襲撃を受けるんだが。

 ただ突進してくる強このちん襲撃は決まって朝の一発だけだ。それ以外の弱このちん襲撃はこのちん言いながら笑顔で手を振ってくれたり次の授業のことやテスト結果のこととかの話がちらっとあったりするだけだ。

 もし一日十強このちん襲撃を受けていたら、俺の背中は三万悲鳴以上あげていることになるだろう。そして佳桜美ならまじでそれを冗談抜きでやりかねんと想像できてしまうところがまた怖い。


 午前の授業が終わり、給食を食べ、掃除をし、午後の授業もこなし、部活タイム。

 給食や昼休みに弱このちん襲撃を受けつつも部活タイムなのである。

 比較的平和な方なんじゃないかと思った諸君。まことに残念ながら、この部活タイムこそが最も平和じゃない時間なのであった……。


「……あいつ起立礼さようならちゃんとやってんのか?」

「50m走のスタートダッシュとかめちゃくちゃ速いんじゃねぇ?」

 俺と大起は、いっちゃん廊下側の席のやつが教室の扉を開けた瞬間に見えたこれまった満開笑顔で廊下からこっち見ながら手を振る佳桜美を自分たちの席から眺めた。

「じゃーなー、明日のデートの感想、よろしくぅー!」

「うっせ!!」

 学生カバンを持ちながら立った大起は佳桜美のいる出口へと向かっていった。

 佳桜美の近くまで行って軽く手を上げたらそれに佳桜美も応えて手を振っていたが、一瞬で視線は俺に戻ってきた。なんで両手をぐーにしてファイティングポーズ取ってんだあいつ。

 視線っていうことでもちろん俺が佳桜美の存在を確認したことも知られている。ということで俺は佳桜美がいる出口とは反対になる前側の出口へ向かう…………と見せかけて後ろの出口から出る。廊下に出てみると、佳桜美は前の扉周辺から教室内をきょろきょろ眺めていた。ぷぷー。では俺様は部室へ

「こーのーちぃーん!」

 なんてうまく脱出できるわけもなく。

「このちんひどい!」

 予想どおりのほっぺたふくらみっぷりである。

「おやおや俺は普通に後ろの出口から出ただけっスけどね?」

 俺たちは部室に向かって歩き出した。そう、『俺たち』は……。

「そんなに私をおちょくってー! このちんひどい!」

 そんだけ毎日やってたらほっぺたのシェイプアップ効果とかありそうだな。

「明日遊んでやるのになにがひどいのかさっぱり?」

「むぅー!」

 むしろ感謝してもらいたいものだな!

「そういや明日何するんだよ」

 佳桜美にとって俺と二人の状況ならなんでもかんでもデートに換算されるので、一応具体的な目的があるのか聞いておく。

「消しゴムとノートを買いにいくのー」

「おい。そんな近所の文房具屋一発で終了しそうなイベントに俺いんのか?」

「いる! このちんと一緒にいたい!」

 ん~……セリフとしてはぐっとくるものがあるにはある。

「一体俺のどこがそんなにいいんだか」

「優しい! すてき! かっこいい! 頼れる! 楽しい! かわいい! きれい! うれしい!」

「なんか一部怪しいのが入っていたが、まぁ悪く思われてないことに関してはよしとしよう」

「このちんも私のこと嫌いにならないでね!」

「へいへい……」

 さすがにないだろうなー。だって俺、好きか嫌いかなら間違いなく好きって言えるしな、佳桜美のこと。言えるってだけで言わないけどな。言わないけどな!!

(…………いや……)

 これ言ったら、佳桜美はほかの彼氏作ることもなくなるんだろうか。

(佳桜美に彼氏、ねぇ……)

 こうしていつも俺を見上げてぷんすかしてる佳桜美のことを、同じような角度で見つめる別の男子、か。

(ったく、大起の言葉に惑わされすぎだっ)

「ん? なあにこのちん」

 こうやって普通にしてりゃいいのに。訂正。別に今のままでも構いません。

「前見て歩け」

「えー。このちんが私のことを見つめてくれてるのによそ見できないよぉ~」

「すっ」

「あ~もっと私の顔見ていいよぉー?」

 俺は前を向いて姿勢よく歩いた。

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