斉琳寺佳桜美っていう同級生
「ねーこのちーん」
「ん?」
俺は佳桜美のことを普通に佳桜美と呼んでいる。で、佳桜美は俺のことをこのちんと呼ぶ。そんな呼び方をするのは同級生で、いや俺の全知り合いで斉琳寺佳桜美ただ一人である。
「明日デートしよ~?」
「ぐは! 断る!!」
思わずこけてしまったが、すぐさま断る!
「えぇ~。一人じゃさみしいよぉー」
「友達いっぱいいんだろーがっ」
「このちんと一緒に行きたいからこのちんを誘ってるんじゃんかぁ」
「じゃあほかの友達と一緒に行きたいまじないをかけてやる! あなたはだんだんほかの友達と出かけたくなる~」
「はぅ~。私はこのちんとデートしたいですぅ~」
効果
「だいたいなんだそのデートって表現は! そんなにデートしたいならほかの友達とデートしろしろっ」
「じゃあほかの友達みーんなとけんかしたらこのちん私とデートしてくれる!?」
見開く佳桜美の目。
「なぜそうなる!?」
「ほかの友達ほかの友達って、私はこのちんと一緒にデートしたいの! このちんと一緒にデートするためならほかの友達全員とけんかする! みんな私のこと嫌いになっていいよー!!」
「わあたわあたわあったー!! 行きます行かせていただきます行きますゆえにみんなと仲良し佳桜美ちゃんのままでいててくださーい!」
「わーい! やっぱりこのちん優しい~」
はぁ。いつもこんな調子で負けてしまうのだ。だから言ったろう? 今日の平和タイムが終了だと。おまけに明日も平和は訪れそうにないようだ。
「それじゃこのちん、また後でねっ」
「おう、よいお年を」
「まーたーあーとーでーっ!」
朝っぱらからあんなにぷんぷんして一日体力もつんだろうか? か弱き乙女さんよ。
俺は三年一組で、佳桜美は三年二組だ。これでもし同じクラスだったら先生が入ってくる直前までこのちん襲撃を受けていたことだろう。
てことで俺は自分の教室に入り、後ろから二番目、窓側から三番目の席に座る。
「よっ、こーのちん」
「やめろぉっ」
この前に座ってるうっせぇやつは
俺より少し身長が高くて髪がかなり短いバレー部だ。小学校からの仲だ。
……ん? 俺の部活? まぁまぁ、そんな話は今しなくてもいいじゃないか。
「今日も聞こえてたぜー? 毎日毎日お熱いこって!」
「うっせ!」
平和な日常は程遠いぜっ。
「なーなー。彼女持つってどんな気分よ?」
「
「いやいやうそつくならもっとおもしろいうそつけって」
「信じろよぉ!」
ほんと平和な日常は程遠いなウッウッ。
「あれで彼女じゃないとかお前どうかしてんじゃね?」
「超ひでぇ言い方である」
過去を振り返ってみても、こういった状況で俺に味方してくれるやつがいないというのがまた悲しい。
「なんだよ、んじゃほんとに斉琳寺のこと嫌いなのか?」
「……それはー……」
くっ。わかっている。わかっているさ。この時俺はこういう返ししかできないことを。そしてこういう返しをしたらうっせぇやつからどういう反応が待っているかもっ。
「だろぉー?! じゃ彼女決定でなんの問題もねーな! おめっとさん!」
「おいぃぃぃ!!」
……いや、まぁ、そりゃーさ? 見た目は別に悪くないしさ? あいつだってまじめにしてるときはちゃんとまじめにやってるし、その時の表情も、べ、別に悪くないさ? それに少なくとも嫌われてはないし、ん、んまぁ、女子からショルダータックルorフライングヘッドバットくらって嫌な男子なんていう例外に当てはまらない俺だし? さすがにミサイルキックやトペ・コンヒーロやムーンサルトプレスなら考えるかもしれないが。
「もし斉琳寺にほかの彼氏ができたらどうするよー?」
妙なまゆ毛の曲げ方をしながら俺の顔をのぞき込んでくる大起。
「どうするもなにも、喜ぶしかねーだろ」
喜ぶっていう単語を使いながらもふてぶてしい返事をしている俺。
「ほんとかねぇー? このちーんがかれしーんになるんだぞー? それ毎日見るんだぞー?」
それだと彼氏の名前が『彼氏』になりそうだがっていうツッコミは置いといて、
「てかあいつがほかのやつに飛びついてるとこ見たことねーし、そんなことはないっしょー」
口ではこんなこと言いながらも、まったく不安がないといったらそんなこともないような。
「甘いな。甘いぜ弧雪っ。失ってから気づいても
そのキャラは何キャラなのかよくわからなかったが、言っていることは間違いではない。
「でもさぁあの佳桜美だぞー? 俺以外にかれしーんしてるとこなんて想像つかねぇつかねぇっ」
「そうさ。想像つかねぇだろうなぁ。しかしその想像つかなかったことが現実に起きたとき、鏡で自分の顔を見てみな。想像もつかねぇ地獄が待ってるぜぇフッフッフー……」
「は、はは。まっさかぁー?」
謎キャラを続けていた大起だったが、想像もつかない地獄、か……。
「ま、お前が斉琳寺に告白すれば間違いなくカップル誕生するだろうけどよ。だったらとっととくっついちまえこのちーん」
「やめろぉぉぉっ!」
けらけら笑いながら前を向いた大起であった。
(……俺があの佳桜美の彼氏、ねぇ……)
…………別にー、さ? あいつがどうしてもーっつーんならさ? お願いしますお代官様ぁ~って頼み込んでくるんならさ? 受けてやらないこともないけどさ? さささのさっ?
(付き合う、か……)
全然想像できないが、それは佳桜美にとっていい未来なんだろうか。
実は斉琳寺家っていうのは代々優れた人たちばかりの家系らしい。
どこかの社長だったり、なんかの大会で優勝してたり、たとえ目立った成績とかがなかったとしても地域に多大な貢献をしてやっぱり表彰されて~なんて人もいたり。
おじさん、ああ佳桜美の父さんからいろいろ斉琳寺家の歴史や親戚のことを教えてくれたことがあったのさ。
ほかの親戚はこんなに活躍しててもこの家族は目立った実績はまだないんだーはははーっておじさん言ってたけど、佳桜美の兄ちゃんである
さすがに兄ちゃん姉ちゃんの彼女彼氏事情なんて聞いたことないけど、何にしたって相手は俺みたいな平凡キャラじゃーないだろうな。
俺なんて目立った能力っつったら、佳桜美の突進を急襲されてもへっちゃらなくらいなんじゃないか? テストも毎回佳桜美に完敗だしな。てかわかってて毎回点数聞いてくるだろあいつウッウッ。
運動だってそりゃ佳桜美よりかはできるけど、男子の中では平凡だ。スポーツテストの数値としては平均を少し上回っているが、スポーツ自体はこれといった経験がないしな。
(……って、まぁ、さ)
そんなことがちらつきつつも、単純に付き合うっていうことへのイメージがわかないってなとこもあるんだろうけどさ。
さすがにあそこまで仲良くべたべたしてきてくれたら、そりゃ俺も佳桜美にまったく気がないわけでもないけど…………。
(……んあー。もういいや、とりあえず授業受けるか……)
まぁ授業の前に朝の会だけどさ!?
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