ACT.5

 二人とも70年代の東映『ヤクザ映画』に出て来るその筋のままという服装である。


 一人は角刈りで背が高く、黒っぽい背広にサングラスにド派手な柄のネクタイ。

 もう一人はスタジアムジャンパーにパンチパーマ、ペイズリー柄の悪趣味なシャツ。

 記号みたいな連中だ。


 本条千草は、明らかに困った、というより嫌悪の念を表情に浮かべている。


『あの人のところにはもう帰らない。と、何度も言った筈ですが』


 彼女は二人に向けて、少し震えながらも、きっぱりした口調で答えた。


『そうはいってもね・・・・親分オヤジは、今日こそ姐さんを連れて帰って来いと、きついお達しなんすよ。』サングラスが口元にやな微笑みを浮かべながら言う。


 どうやらサングラスの男は、兄貴分、パンチパーマは弟分らしい。


『おい』


 俺はこういう時のため、かけていた眼鏡を外し、出来る限り凄みを効かせて前に出た。


『話なら俺が聞こうじゃないか』


『何だ?テメェ?』


 スタジャンにパンチパーマのチンピラが、肩を怒らせながら前に出て、俺をねめつけた。


 俺は認可証ライセンスとバッジを取り出し、奴らの前に突き出す。


刑事デカか?』


 今度は兄貴分が言う。

 

 俺は笑いながら首を振り、

『いや、探偵だよ。』


『何だ。だったらすっこんでいて貰おう』


『そう言う訳にはゆかないね。俺は依頼を受けて、彼女をのところまで連れて行かなきゃならないんだ。それで喰ってる』


『怪我ぁしたかねぇだろ?ああ?』


 チンピラがナイフを俺の鼻先に突き出した。

 彼女に後ろへ下がっているように言うと、俺は口に咥えたシナモンスティックを揺らしながら笑う。


『そうだな。怪我なんかしたくない。だが、のは好きだといったら?』


『野郎!』

 チンピラのナイフが、俺の鼻先をかすめる。


 俺は一瞬早くそれをかわすと、奴の人中に縦拳をお見舞いした。


 ナイフを放り出し、チンピラが情けない声をあげて、鼻と口から血を吹き出して膝をつく。


『てめぇ!』

 続けて兄貴分が懐に手を突っこみ、ワルサーPPKを抜いた。


 だが、やっぱり俺の方が早かった。


 奴が抜きかけた時、既に俺のM1917《あいぼう》の銃口は、奴の鼻先にねじつけられていた。


『手を放して銃を地面に落とせ。この距離ならお前さんの顔に見事な穴が開くぞ。探偵はちゃんと銃を持っていいと法律に書いてあるんだ。』


 サングラスは唾を一つ飲み込んで、拳銃を手から離す。


『あんたらの親分オヤジとやらに言っといてくれ、こっちの要件が済んだら彼女は好きにしていい。それまでは絶対に手を出させん。いいな?』


 俺の言葉に、サングラスは小声で『ちっ』といい、チンピラを助け起こすと、そのまま足早に去って行った。


『あの、私・・・・』


 俺はM1917を懐にしまいながら、片手で彼女を制し、


『身の上話は仕事の内に入っちゃいない。俺はあんたを依頼人の所に連れて行くだけだ』

 

 そう答え、シナモンスティックを噛んだ。


『さあ、行こうか』


 俺が言うと、彼女は、

『このまま直接その人の所へ?』

 という。

『そうだけど、何か?』


『実はその前に寄ってゆきたいところがあるんです。いいですか?』


 真剣な眼差しを俺に向ける。


 こんな目をされちゃ、承知するしかなかろう。

 

 

 


 


 






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