第7話「それを含めてテストというわけか」

START BY セタカ [ヒューメイリアンを知る刑事] -警察署内で雑誌を見る男-




"新発売!! 「びっくり変装メガネ」 2000円!! クロザワホビー"


 ......なんでこんな中途半端な値段なんだろう。おもちゃのくせに。

 警察署の自分のデスクで雑誌を読んでいたが、つい目的とは関係ないページを見てしまうのはよくあることだ。

 さすがにあの子はこんな物送られて喜ぶ年ではないだろう。もっとも、今まで喜んでもらえたことなんてないけど......


「よお!! セタカ!!」

......ッ!! オオガラだ!! こんな雑誌見られたらまたからかわれる!! ひとまず引き出しに入れよう!!

「......どうしたんだ? そんなに慌てて」

「......」

......何かおかしい。僕はよく黙ることが多いほうで、いつもならそれにオオガラが突っかかるところなのに......第一、高圧的な話し方が先ほどは気さくな感じに聞こえた。


 顔を上げて見ると、青春モノよろしく爽やかな汗をかいているオオガラの顔があった。

「......」

「ん? どうした? そんな引くような目で見て......」

「いや、珍しく機嫌がいいなって思って......」

「そうか? まあ俺の生き甲斐が今日は輝いているからな! 今まで溜め込んだものを一気に吐き出したって感じだ!」

「......」

ドヤ顔でサムズアップしないでください。あの子なら確実にそう言うだろう。


 まあ確かに、今日はオオガラに取って好都合であることは確かだ。彼は上から特別な指令を受けたのだ。無論、彼と関係者以外指令の内容は知らされていない。


 だから、先ほど彼が何をしているのかも僕はわからない。その必要性だけはよくわかるつもりだ。




NEXT TO クモリ/CLOUDY [冷静沈着な老人] -ウォーミングアップ-




 SCRAの後を追い、俺はデパートの屋上に来ていた。

 若いころは遊園地のような子供の遊び場になっていた所も見たことがあったが、今回はいくつかの換気扇が回っているだけの殺風景な場所だった。


「ちょっと待っててくださいね、CLOUDY」

そう言いながらSCRAは階段室の屋根によじ登った。そして何かを投げつけた。

「なるほど、曇りひとつない晴れの日にか」

俺は傘を手に取り、一緒に落ちてきた二つの箱を拾った。傘は持ち運ぶには少し重い。

「晴れだからと思って甘くみたら駄目ですよ。天気は気まぐれですからね」

飛び降りたSCRAは人差し指を立てて言った。

「しかし、高い所から降りるのはやはりスリルがありますねえ。特にこんなところでは言葉をつけ忘れるだけでとんでもない勘違いをされる。小説で表現するなら語り手の表現力が試されるところですね」

......SCRAがそう言いながら笑った。決して屋上から地上に飛び降りたわけではない。

「これは現実だ。早くテストの内容を教えてくれ」

「......ただのジョークなのに、なにムキになってんだろうこの人......おっと失敬、テストの標的ターゲットはあそこから出てきます」


 SCRAの指はKタワーを指していた。

「あそこ付近のどこから標的が現れるのか、その標的がなんなのかは言えません」

「それを含めてテストというわけか」

俺は傘の生地を取り外した。


 現れたのは、スナイパーライフル。専用のサイレンサーまでついている。


 それをセッティングしてKタワーに向ける。あとは弾丸を選択するだけだ。

 このライフルは俺の愛用していた物。そして、側にある二つの箱も見覚えがある。

 ひとつは悪魔が描かれた赤い箱......紛れもない実弾だ。もうひとつは羊が描かれた青い箱......こちらは小さい針がある。その正体は素人が見てもパッケージからわかる。


 今回使うのは赤い箱だな......いや......




NEXT TO ??? -Kタワーから見ている者-




 あいつが標的か。笑っちまうぜ、ただのじいさんじゃねえか。

 ......なんて言ってたらあっさり殺られるんだろうなあ、漫画なら。そんなことを思いながら俺はスコープを覗いている。


 ここはKタワーの屋上。俺はクロザワグループに雇われた、言わば殺し屋だ。理由はわからないが、とにかくあの二人を殺れということらしい。

 しかし武器の所持に厳しいN国で、しかも大都市のK市で仕事ができるなんて夢にも思わなかったぜ。支給されたスナイパーライフルには最新型のサイレンサーも付いているし、まったくクロザワグループ様々だぜ!


 人ってもんは制限されるとストレスが貯まる。例を上げるならば......そうだな、取り調べ役の刑事だ。

 手っ取り早く尋問したいのに、誘導尋問になるぞと他人の注意が鬱陶しい。それが何らかの理由で黙ってくれたら、そいつはガンガン攻めこみ、今までの鬱憤うっぷんを晴らす。

 そうすると刑事は部活帰りのような清々しさを感じる。まあ、これはあくまでも俺が考えた例だがな。

 そんな事を考えるほど、俺に取ってこの国は窮屈だった。その鬱憤を今ここで晴らしてやるぜ!!




パコン......!!


 !?

 思わずスコープから目を離しちまった!! なんだったんだ!? さっきの音......ん?


 地上から小さい何かが飛び上がった。これは......ペットボトルの蓋? さっきの音でこの高さまで上がったのか?


 その蓋の表面がこちらに向いた......その表面に小さな穴が空いた......そこから針が出てきた......ペットボトルの蓋がこっちに向かってくる......

 え? こっち?




「ぐうっ!!?」


 蓋を貫通した針は......俺の......額に......いや......だ......情けない......断末魔で......あ......ね......む..............................




TO BE CONTINUED

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る