第6話「洗いざらい吐いたらどうなんだ!?」

START BY クロザワ [クロザワグループ代表] -Kタワーの一室-




「......逃がしたっていうわけね」

クロザワグループの親会社とも言える"クロザワ不動産"。その新事務所であるKタワーの最上階で、私はスマホを握っている。


『いや、そういう訳じゃないんですよね。ただあいつ、妙にすばしっこくてですね、掴んでもウナギみたいにスルスルって抜けちゃって走っていって......』

「追いかけているの?」

『いえ、見失いました』

「それをなんて言うの?」

『......逃がし......ました』

電話の相手の顔を思い浮かべると思わず笑みを隠せない。電話越しだから隠しても意味ないけど。

『だ、大丈夫ですよ! 本命ならあいつが追いかけて行きましたし!』

「そう、それじゃあやっぱり逃がしたわね」

『え......でもあいつが見失うなんて......』

「あの子は別よ。人間一人が何の知恵もなしに捕獲できる訳がないじゃない」

そう、本命であるあの子......ヒューメイリアンの女の子は人間ではない。普通の人間が無理やり捕らえようとしても逃げるだろう。もっとも、頭を使えばその限りではない。

「今は仲間と合流してちょうだい。居場所を掴めたらこちらから連絡するから」

『了解しました』


 電話が切れる。私はスマホを机の上に置いた。

 まだ時間が少しある。少し考え事でもしようかしら。そんなことを考えながら周りを見渡す。不動産の方は社員に特別休暇を与えているため、ここにいるのは私ひとり。

 ......やっぱり本社にしては狭いかしら。




「それにしてもちっちゃいですね。ここが本社とは......てっきり僕は持ちビルを持っているのかと思いましたよ」

数十分前、取材でここを訪れたライタというジャーナリストがそうコメントした。

「あまり広いと状況把握などがしにくいんですよ。ですが、規模は小さいですけど提供する物件は格安で上等な物ばかりですよ」

「ほう......それがK市という田舎街を大都市へと発展させたクロザワ不動産の秘訣......というわけですか」

そう言いながらライタは窓に映る街並みを見た。

「それは知事のお気に入りになるわけだ......いや、味方に着けたと言うべきなんですかね。まったく関係ない事件をでっちあげることもできるわけだ」

「......」

「おっと、つい口を滑らしてしまった。そろそろ帰らせてもらいますね。取材のご協力ありがとうございました」


 あのジャーナリストは何かを知っている......そんな表情をしていた。




 そこまで深刻にならなくていいじゃない。

 我に帰り、自分のほっぺを叩く。そして、机の引き出しを開けた。




NEXT TO ギンホ [銀髪のヒューメリアン] -下水道に落ちた人間でないもの-




 ッ......

 マンホールに落ちた先にあったのは床だ。僅かな光で見えるコンクリートに横から聞こえる水の音......ここは下水道のようだ。

「......ぁぁぁぁああああ!!」

上から悲鳴が聞こえた。私はすぐに立ち上がり、上から落ちてくる男をかわす。


グギリィ


「ギャッ!!」

男は尻から落下し、悲鳴を上げた。さっきの音が聞こえたということは......

「......折れました? 腰の骨」

「いでえ......いで......なんでお前は折れていないんだよ!?」

「さあ?」

「さあ? じゃねえよ!! ......ッでえ......頼む......助けてくれよお......立てないんだよお......」

この高さ位で情けないと一瞬思ったが、なんだか哀れに見えてきた。

「どうして私を追いかけたんです? 答えてくれたら助けてあげてもいいですよ」

「いや、それはできねえ......それだけはできねえ......喋っちまったら......俺......」

「じゃ、バイバイ」

「ちょ、ちょっと待ってく」




 立ち去ろとした時、何かが飛んできた。私の頬を霞め、一直線に後ろに飛んでいく。


バンッ!!


「うげっ!!」

後ろを振り替えると、男が倒れていた。前を見ると、何人かの人影が近づいてくる。その先頭には二人の男女がいた。


「や......やったぜ......命中した......始めて命中した......!」

震えながらパチンコを下ろす男性。

「倒れている奴を撃ってなに喜んでいるんだいヘタレ!」

それを叱咤する女性がこちらに近づいてくる。

 その手に握っているのは警棒......それを私の顎につき出した。


「あんた......そいつの仲間なんだろうね。アタイたちの通路を懲りもせず荒らしにきた理由、洗いざらい吐いてもらおうか!」




NEXT TO シロト [白帽子の大学生] -警察署内の尋問-





ドンッ!!


「洗いざらい吐いたらどうなんだ!? ああ!?」


 なんッッッだよこの誘導尋問ッ!!?

 尋問室の中で俺はこの悪徳刑事......オオガラに朝から怒鳴られ続けている。悪徳とか勝手に決めつけるなとか天国の婆ちゃんに叱られそうだが、いくらなんでもこれはひでぇ!!

 第一、オオガラの側にいる刑事どころか、別室で監視している奴まで黙りなんてあんまりだぜ!! 普通止めるだろ!? というかこの状況が事件だろ!?

 そもそも、なんでこうなったっけ? ああもう俺は大声で怒鳴られるのが大っ嫌いなんだよ!! 今時ドラマでもねえよこんな状況!!


「さっきからだんまりかあ!? 黙秘権なんてクソ最低な手段使うなよ、ああっ!?」

だから......さっきから言っているだろ......


「俺はサンゾクとかトーゾクとか知らねえ!! 俺は何もしてねえええええ!!!」




TO BE CONTINUED

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