第5話「君だったらどうする?」

START BY リン [リボンを着けた高校生] -休日のK市-




"5日前のKタワー失神事件。その犯人の真相とは?"


 電車の中に設置されているテレビのニュース番組に気を取られて、降りるべき駅を見過ごしてしまいそうだった。

 私は人の波と共にホームに降り立ち、休息スペースへと足を早めた。


「ごめんね、あたしが寝坊しちゃったせいで遅れちゃって......うん、それじゃあ待ち合わせ場所にね!」

そう伝えてスマホの電話の電源を切る。

 今日は親友のギンホちゃんの誕生日だ。夜の誕生日会に遅れないためにも、早くみんなと合流して準備を終わらせないと......


 休息スペースからホームへと移り、外に出ようとした時、見覚えのある立ち姿が歩いていた。

「クモリさ......」

呼び止めようとしたけど、止めておくことにした。あたし自身急いでいる以上に、喫茶店[蟻家]の店主であるクモリさんがあんなに険しい顔をしていることに恐怖感を感じたからだ。




NEXT TO クモリ [冷静沈着な老店主] -駅前のコインロッカーへ向かえ-




 指定した時間の五分前にコインロッカーにたどり着いた。この距離を歩くのも久しぶりなもんだから、てっきり息切れすると思っていたが......案外体は覚えてくれているもんだ。

 今駅前のコインロッカーの前にいるのはスマホをつついている青年だけか。俺は無視して指定の番号を見つける。

 13......これだな。俺は封筒に入っていた鍵を取り出して、差し込んだ。


 中には何もなかった。


「別のところに移したんですよ。最近のガキ共は金庫破りとかするので」

スマホをつついてきた青年が口を開いた。彼はスマホを見たまま話を続けた。

「ところで、ちょっと教えてくれませんかね? 鳴くのなら......」

「眠らしてしまえ、ホトトギス」

青年は笑みを浮かべてスマホをしまい、こちらに顔を向けた。右耳から右の頬にかけて傷痕が印象に残る。

「初めまして"CLOUDYクラウディ"、俺がパートナーのSCARスカーです」

CLOUDY......それが俺のコードネームだ。


「俺はSCRAの命令に従えとしか命令されていない。どうすればいいんだ?」

「まあまあ、急がなくても大丈夫ですよ。まずはちょっとしたテストさせていただきますよ」

「もしも俺の腕が鈍っていたらどうするんだ?」

「鈍っているはずないですよ。三日前の射撃場では百発百中でしたよね?」

三日前の店の休日、ファイルの内容に従い、俺は街外れの射撃場でクレー射撃を行った。それもテストの一環だっただろう。

「今日のテストは試すというより、勘を取り戻してもらうのが目的ですね。前日にしてもよかったんですが、当日の方が都合がいいんですよね?」

「それは現役時代の話だ。と言っても、今もそっちの方が都合はいい」

要するに、ウォーミングアップと言っても差し支えないだろう。

「それならよかったです。それでは、早く済ましてしまいましょうか」

「......ああ」


 歩き始めるSCRAの後に、俺は続いた。




NEXT TO ギンホ [銀髪のヒューメイリアン] -待ち合わせの場所に-




 どうして来てしまったんだろうか。


 待ち合わせのKタワーで待っているが、帰った方がいいんじゃないかと思っている。

 どうしてこんなところを待ち合わせ場所に選んだのか、理解に苦しむ。ここは5日前、空に現れた光によって人々が失神した場所だった。

 セタカのおかげで広まることはなかったものの、危うく正体が公開されるところだった。今でもこの辺りにいるだけで嫌な予感が止まらない......


「ギィーンーホォーちゃーん?」


 ......

「よく来てくれたねえ! 誕生日おめでとう!! 僕は妹の誕生日を心から祝うよ!」

「......なんでKタワーから出てくるんですか、ライタさん」

「だって、5日前に後ろから話しかけたら凄く驚いていたじゃないか」

「ナチュラルに建物から出ただけでも驚きますよ」

「取材に来ていただけさ」

「もう帰っていいですか?」

「ちょっと待ってくれ。実は君に今朝のニュースについて教えてもらいたくて......」


 気味悪いライタの笑顔が、一瞬で凍りついた。


 嫌な予感を感じて後ろを振り向くと、黒い服装の男が二人、こちらに近づいてくる......

「......なあギンホちゃん、君だったらどうする?」

「決まっていますよ......!!」




 私は嫌な予感から離れるために駆け出した。


 ある程度走ってから後ろを振り替える。追いかけて来ているのは一人だ。顔は見えないが......若い男性か? なんでこんなこと考えているんだろう。


 前に目線を向けると、人混みが見えた。その中に紛れ込むと前が見えない......


 ッ!?


 突然、足元が消滅した。

 そんなはずがない。私が踏み外したんだ。この都会で、しかもこんな低いところで足を踏み外したとしたら、ひとつしかない。

 人混みはとっくに抜けていた。みんな避けているんだろう。




 





TO BE CONTINUED

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