第4話「5日前の失神事件、覚えていますよね?」
START BY クモリ [冷静沈着な老人] -当日の朝-
あのニュースが流れてから5日経った。
喫茶店[蟻家]は今日は休日、ギンホの学校も休みだ。
「......」
マゼンダのジャケットを着たギンホはカウンターに座ってため息をついていた。
「......また悪夢でも見たのか?」
「クモリ、今日用事があるんだろ?」
「......」
特に珍しいことでもなかった。ギンホは小さいころから予言じみた言葉をよく言っていた。本人は嫌な予感がすると解釈しているらしいが、これもヒューメリアンの能力なのだろうか。
「今日は遅くなる。そのために店を休みにした。お前の誕生日会までには戻ってくる」
「無理しなくていい。私もリンとの約束で出かけるけど、誕生日会に間に合うかもわからない」
ギンホは諦めたような口調だった。また彼女の言う嫌な予感がしたんだろう。
「それじゃあ、行ってくる」
「まて、ギンホ」
席を立とうとしたギンホを呼び止める。
「誕生日会は必ずするぞ。たとえ明日になってもな」
「......それが出来るならな」
ギンホは裏口へと向かった。
俺は自室で一通の封筒を取り出した。
中に入っていたのは、13番のコインロッカーの鍵と、一台のUSBメモリ......今はファイルのひとつもない。一度中身のファイルを閲覧すると消去される仕組みになっていた。
俺は中身のファイルの一文を思い出す。
"指定の日に駅前のコインロッカーへ向かえ"
今日が指定の日だ。差出人は何をさせるのだろうか。無論、差出人も切羽詰まった状況なんだろう。20年前に足を洗った老人に依頼を求めるぐらいだからな。
......そろそろ指定した時刻だろう。俺は裏口から[蟻家]を出た。
NEXT TO シロト [白帽子の大学生] -自室のニュース-
まだ眠いな......今日は一日中部屋に籠るか。
歯を磨きながら、そんなことを考えている。引っ越してからまだ入学までまだ日はあるし、たまにはそんな日があってもいいよな。
ここは俺が借りているアパートの一室。親は寮にしろとうるさく言ってくるが、大学の寮には一人部屋がなかった。俺は独り暮らしがしたくてこの街に来たんだ。アルバイトをする条件でここに住むことになった。
引っ越しが終わったとたんにハノスケ先輩からパーティーの招待状が来るし、その翌日はバイトを探して......昨日ようやく一段落したところだ。
「それにしても......本当に戻って来てくれて嬉しかったぜ」
クローゼットに置かれた彼女を見て囁く。愛する俺の白帽子は5日前、Kタワーの前で落としちまった。それが翌日交番に届けられ、手にすることができたことを思い出すと今でも涙が溢れそうになる。
それにしても、あれはなんだったんだ?
下痢でコンビニに駆け込んだ後を思い出す。なんとかトイレでの戦いを制し、コンビニから出た時、街道の人々が倒れていた。
翌日のニュースによると、突然空が光り、外にいた人は突然失神したらしい。幸いにも昏睡状態であり、一時間すると目覚めたようだが、バイクによる事故も多発したこともあってKタワー周辺はパニックだったらしい。
その中で一人失神しなかった人物がいるらしい。その人物は白い帽子を持っていたようだが......まさかあの時ぶつかった女の子じゃないよな?
ピンポーン
なんだ? こんな時間に客人だなんて......
ガチャ
「すみません、こんな時間に。警察本部の刑事ですが......」
玄関にいた大柄な男が警察手帳を見せた。
「もしかして、殺人事件っすか?」
「いや、そうじゃないんですが......ちょっと署まで来てもらいますか?」
「え? なんですか?」
「......ニュース、ご覧になりませんでしたか?」
「今日はまだ見てないっすけど......」
俺が答えると、刑事は鼻で笑った。
「5日前の失神事件、覚えていますよね? というか今日の朝、あなたハッキリおっしゃっていたじゃないですか。政府に反抗するテロ活動の一環だって......」
NEXT TO マイコ [真実に囚われたレポーター] -手紙を追ってアパートへ-
「ああっ!! 待って!!」
アパートの前を去っていくパトカーに向かって思わず叫んでしまう。
間に合わなかった......容疑者であるシロトという男は警察に連行されて行った。
息を整えていると、カメ君が歩いて近づいてきた。
「マイコさーん、会えましたかあ?」
「ごめんなさい......間に合わなかったわ」
「大丈夫ですよお、どうせ今日は非番ですし」
そう、これは仕事ではない。カメ君にはわがままに付き合ってもらっているだけだ。
事の発端は、昨日届いた手紙だった。
指し宛人不明のその手紙の内容は一言だった。
"明日、Kタワー大量失神事件の犯人が公開される。それはフェイクニュースだ"
その翌日、朝のニュースで警察にビデオメッセージが送られていることが報道された。画面は18歳ぐらいの男の静止画で、音声は加工されていた。
"5日前の騒動は楽しんでもらえたかな。あれは我々[サンゾク]の宣誓布告と言っても差し支えない。あの兵器は使いようによってはこの都市の機能を止めることができる。恨むならこの都市を恨むがいい"
呆れるぐらい幼稚な手だった。第一、顔写真を公開している癖に声を加工する理由が考えられない。まるで無理やりでっち上げているかのようだった。
だが、この件に関して疑問を持った者は、私の所属しているテレビ局の人間の中ではカメ君しかいなかった。まるで相手にしないかのように......
「これからどうしますかあ? マイコさーん」
のんきなカメ君の声を聞いて我に帰る。連れていかれたとなればもうこのアパートには用がない。
「そうね......面会は少なくとも四日後になるわ......仕方ない、サンゾクについて調べてみるわ。カメくんは悪いけど連絡を待ってくれる?」
すべてを話さなくちゃ......事実を証明して、面識のない男の無実を......
TO BE CONTINUED
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