第3話「ところでその帽子はどうしたんだ?」
START BY ??? -都会の喫茶店-
まもなく、"喫茶店[蟻家]"は閉店時間に差し掛かろうとしていた。
「ごめんね、待った?」
眼鏡をかけた女性が店内に入る。
「......」
「遅いぞ、"メカネ"」
店のカウンター席に座っていた男性二人に、女性は手を振りながら彼らの隣に座った。
「お客さんたち、次がラストオーダーですよ」
店主である俺はカウンター席に座る三人に向かって言った。
「おう、それじゃあブラックのレギュラーで」
「夜更かしするつもりなの? あ、あたしはココアで」
「僕は......レモンティーで......」
それぞれの注文の品を入れ、三人の刑事にお出しする。
「はあ......早く出世しないかなあ......」
「また言ってる......”オオガラ”くんって、本当に出世好きよねえ」
ため息をつく大男......オオガラに眼鏡をかけた女性が呆れた声で語る。
「あのなあ”メカネ”、人間は目標がないと生きていけねえ生き物だ。俺にとっての出世は刑事時代の目標、即ち生きがいだ。ただ街をブラブラと徘徊しているお前とは違うんだよ」
「あら、あたしにとっては目先の目標に囚われているようにしか見えないわ。やっぱり人生は楽しまなきゃ。楽しいことを残さず拾い上げること、それがあたしの生きがいよ」
そう言いながらメカネは隣の背の高い男に話しかけた。
「”セタカ”くん、あなたの生きがいはなんなの?」
「......」
「へっ、俺は知っているぜ。恋してんだろ、セタカ」
セタカは顔を赤めながらそっぽを向いた。
「やめなさいよオオガラくん。セタカくんもちゃんと立派な生きがいを持っているってわかったでしょ?」
「へいへい、わかったよ......」
「......」
「ふう......ごちそうさんっと。セタカ、勘定は頼んだぜ」
コーヒーを飲み終えたオオガラはセタカの前に小銭を置いた。メカネも同じようにした。
「毎日ごめんね、セタカくん」
「いえ......僕も都合がいいので......」
「おいメカネ、早く帰ろうぜ」
二人が帰った後、セタカは一息ついて俺を見た。
「あの......ギンホちゃん......何か変わった様子はありませんでしたか?」
ギンホは俺の義理の娘だ。彼女は政府が管理しているヒューメイリアンという特別な存在らしい。訳があって俺が預かっており、彼は監視役というわけだ。
「特に変わりはない」
「そうですか......あの......」
セタカはバックから一通の封筒封筒を取り出した。
「これ......上から渡せと言われました。極秘情報ということなので、気をつけてください」
「......わかった」
俺はその封筒を受け取った。それと共にセタカはさらにバックに手を伸ばし、スマホを取り出した。
「あとこれ......つい先ほど流れたニュースなのですが......」
NEXT TO ギンホ [銀髪のヒュータリアン] -予感-
私は父親代わりの老人”クモリ”の営む喫茶店[蟻家]に帰ってきた。
店内では私の監視役......セタカがクモリにスマホを見せている。
「帰ってきたか、ギンホ」
「......」
二人はきっと、あのニュースを聞いていたのだろう。隠しても無駄だ。
「私はあの現場にいた。周りの人が倒れていく中で私だけが立っていた」
「......お前もその原因は察しているのか?」
「ああ、私がヒューメイリアンだったために、あの光に体制があるとすれば納得できる。もしかしたらそれを建物の中の誰かに目撃されたかもしれない」
「ところでその帽子はどうしたんだ? ニュースでも伝えられていたが......」
クモリの指摘を受けて気づく。あの時ぶつかった男が落とした白い帽子を、ここまで持ってきてしまったようだ。
「こんな落とし物を拾っていなかったら、私は騒ぎに巻き込まれなかったかも知れないのに......」
「いや、きっと大丈夫ですよ」
そう言ったのはセタカだった。
「少なくとも、メディアでは白い帽子を手に取っていた人物としか報道されていません。きっと姿がよく見えない位置だったんでしょう。その帽子は後で僕が交番に届けますので、ギンホさんは安心してください」
セタカは白い帽子を受けとると、喫茶店[蟻家]を立ち去った。
だけど、嫌な予感はまだ消えなかった。あのニュースがきっかけで、大事件が起きる......下手をすれば、隠さなければならないこと全てが明かされてしまうかも知れない。そんな予感が......今日や明日訪れるわけではない。
なぜここで私は誕生日のことを考えているんだろうか?
NEXT TO クロザワ [クロザワグループ代表] -騒動の幕開け-
もうすぐ始まるから。
K市の道路をご機嫌に運転する。なぜ私がここまでご機嫌なのか? 決まっているじゃない、もうすぐ始まるから。
この都市を巻き込んだ大騒動......それは私の一生の大バクチ。そして、勝利を掴み取った後の約束された幸せ......
その日が5日後にやって来ると思うと......笑みが止まらない。
TO BE CONTINUED
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます