僕らの距離

 心臓

 明確な言葉

 憎い


 ◆◆◆


 僕らの喧嘩はそこまでひどくないというか、もう歳も歳なのか落ち着いてる方だと周りから言われる。

 言い争う、というのも昔より減ったし。仲直りのタイミングも特に明確な言葉を言わず自然である。

 頑固でごめんを言わないわけではない。悪かったら本当にごめんと言うし。


 先日もちょっと李仁にあたっちゃって、仕事のストレスで。そしたら彼は黙ってしまって。あーやりすぎたかな、と。僕の横から離れて台所で料理をし始めた。黙々と何かをすれば彼はスッキリするようだ。

 少し時間経って僕は飲み物を取りに台所へ行く。何個か料理ができていて、今週の作り置きを用意してくれたようだ。

 喧嘩して発散するのではなくて彼は料理をして発散。僕も仕事のストレスは何か違う方法で発散しないとな、でも李仁につい甘えてなのか当たってしまう僕はまだまだ子供だ。


「りんご食べる?」

 と聞かれたから僕は頷くとずっとリンゴを出して皮を剥き始める。すぐできちゃうところが憎いよね。こりゃモテるわけだ。


「いたっ!」

 珍しく李仁が包丁で怪我をした。血も出てる。


「李仁ぉ、指、心臓よりも上に」

「んんんっーこんなこと滅多にないのに」

 器用な李仁、確かに珍しい。


「ごめんね、僕のためにリンゴを剥いてくれたのに」

「ううん、私がミナくんに食べさせたかったの」

 ……僕は李仁の人差し指を口に入れた。鉄の味。


「ミナくん……」

「李仁……」

 次に唇、李仁とキスをする。さっき本当に当たってしまったことが申し訳ない。


「あああ、結構今回深いかも」

「救急箱持ってくる!」

 指から血がボトボト……。止血をして絆創膏を貼った。


 そしてリンゴは僕がむいて切った。そのリンゴを李仁に食べさせる。

「美味しい」

「本当?」

「ミナくん、ストレスやわらいだかしら?」

「う、うん……」

「イライラしたらリンゴの皮を剥く、好きなお菓子作りをする。無心になれる趣味あるからね、ミナくんには」

「そうだね。できればこれからはそうするよ」

 頭をポンポンされた。笑顔が憎い。


 終

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