寝る前の読書

 三題噺


 本、風船、冷酷な殺戮


 ◆◆◆


 お風呂上がり。湊音は寝室に行くと李仁はベッドの上で本を読んでいた。

 本のタイトルは

「冷酷な殺戮」

 おぞましいサスペンス小説としてベストセラーだと李仁から薦められたものの、怖がりな湊音には無理だったようだ。

 それを今は李仁は読んでいる。


「寝る前に読むと寝られなくなるよ」

「平気よ、この手のものはたくさん読んでいるから」

 と微笑む李仁。彼は書店員であったし、今は営業として様々な本に目を通している。


「僕は無理だなぁ」

「大丈夫よ、わたしが手を繋いで寝てあげるから」

「もぉ、僕は子供じゃないよ」

「なによ、いつも気付いたら手を繋いで寝てるくせに」

「そんなことないよぉ~」

「可愛いっ」

 二人はじゃれあう。

「李仁が、キリがつくまで待ってるから続き読んでね。僕も本読むから」

「うん、あと少しで章終わるから……」

 李仁は湊音のおでこにキスをする。湊音はベッド横の机の上に置いてあった本を取り出して読み始める。風船に手紙をくくりつけて名の知らぬ人に拾われ、そこから始まるラブストーリー。

 下手な恋愛ものだが相手は国境を超えて、自分の知らない言語で書かれた手紙を訳し、その相手に想いを馳せる……湊音にはこういう甘い話が合うようだ。


 と、ふと横を見る。

「李仁?」

 さっきまで本を読んでいたはずが、顔に本を載せて寝てしまっていた。

「もぉ、どこまで読んだか分からなくなってるじゃん……」

 とゆっくりと本を顔から離して机の上に置く。


「あれ、この本……僕の読んでる本を書いた人と同じ人だったんだ」

 一方は怖いサスペンス、もう一方は甘いラブストーリー。全くジャンルが違いすぎて出版社も違い、気づかなかったようだ。


「こっちも頑張って読んでみようかな……」

 湊音も本を閉じて机に置いた。そしてそっと李仁に寄り添い、布団をかけた。


「おやすみ、李仁。また明日……」

 と李仁の唇にキスをして眠りについた


 終

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