第49話 明日からもよろしくね
ただいま夜の十二時を少し過ぎたところ。
あとは寝るだけになって自分の部屋に入る。
今日は自分たちの部屋に戻るのがいつもより少し遅い。
いつもは十一時を過ぎた頃にどちらかが「じゃあ寝ようか」と言い出すけど、今日は私も孝太くんもなかなか言い出さずに二人でソファーに並んでいた。
「ふーーー」
いつも通り、日課の日記をつけようとデスク前の椅子に座る。
「今日、すごく長い一日だったなあ」
日記を開き何を書こうかと、今日の出来事を朝から順に思い出す。
まず、今日も朝練に行くために早起きして、お弁当と朝ごはんを作った。
孝太くんがバスケに誘ってくれたからというものの、これまでの朝の辛さが嘘のようにスッと起きられるようになった。
おかげで一日を有意義に過ごせるようになった、気がする。
そして、問題のバスケ。
昨日は孝太くんのやる気を引き出すために、”今日勝ったほうが勝ち”なんて言ったけど。
私だって負けるつもりはなかったんだけどなあ。
ブランクがあるとあんなに前後に揺さぶられたら筋肉がついていかないよ!
そのおかげで……孝太くんに倒れこんじゃったし。
あれは本当にハプニングだったんだけど。
思ってたよりも孝太くんの懐が大きくって、ちょっと感極まっちゃった。
大きくなったんだなあ、って。
すぐ離れなかったの、変に思われなかったかなあ。
うう、思い出すだけで顔が熱くなる。
加えて、嬉し過ぎて『ずっと待ってた』なんて言っちゃったんだけど……。
ううう恥ずかしい!
この部屋本当に暑いなあ。窓閉まってるんじゃない?
……空いてるや。
私の顔が火照ってるだけか。
会社でも今朝のことを思い出して何度かぼーっとしちゃってたし。
人生で初めて醤油とソースを間違えたし!
あれも恥ずかしかったな……。
けど。
そんな、恥ずかしいことも帳消しにしてくれた。
今日の夜の公園の孝太くんの話。
まさか……。
まさか、本当に私でいいなんて……。
私は……その。孝太くんが大きくなってどんな子になるか気になってたし。
大きくなった孝太くんは相変わらず優しくて気遣いの出来る子で、一緒にいてもなんだか居心地が良くって。
私は、孝太くんがよかったんだけど。
まさか、本当に私でいいなんて!
公園での、孝太くんのまっすぐなあの目。
嘘や誇張なんて一つもない本心だって伝わった。
しかも、”かわいいなあ”だなんて……。
思い出すだけで、また体温が上がっちゃうな。
クーラーつけよっと。
今年初めてつけるクーラーが、机の上の日記のページをめくっていく。
風にめくられて遡っていく日記。
一ヶ月もめくられないうちに、孝太くんのことが書いてあるページがいなくなった。
……そっか。
孝太くんが家に来てからそんなに時間経ってないのね。
めくられたページは薄く、なんだか孝太くんとの関係もか細い気も一瞬する。
いいや、違う!
私と孝太くんは十年以上の付き合いなんだから!
……空白の期間がほとんどだけど。
でもいいの。
今、幸せなんだから。
これから孝太くんと、もっと楽しい時間を過ごすんだ!
じゃ、日記を書いて寝ようかな。
机の上のペン立てからいつものボールペンをとって今日の日付を埋めていると、同じく机に置いていた携帯が振動する。
……こんな夜遅くに誰だろ?
携帯を手に取る。
メッセージの送り主は孝太くんだった。
えっ、今?!
早くなる鼓動を落ち着かせようと、大きく深呼吸をする。
鼓動はすぐに収まるが、なんだかおかしくて一人でクスッと笑ってしまった。
だって、一緒に暮らしてるってのに、メッセージ一つでこんな緊張するなんて、なんだかおかしいよね。
誰もいない部屋で笑いながらチャットを開く。
”——
寝る前にごめんね。
一個だけ確認しときたくて。
——”
確認したいこと?
なんだろな?
私が『聞きたいことってな』まで打ったところで、続けてメッセージが届いたので打かけの文字を全部消す。
”——
俺達、恋人ってことでいいんだよね?
——”
寝る前に確認したいことって、これ?
か、かわいい……。
確かに、恋人ってワードは一回も出してなかったし不安になっちゃったのかな?
孝太くんも十分かわいいなあ。
私はすぐにメッセージを打って送信した。
明日からもよろしくね。孝太くん!
”——
もちろん恋人だよ!
これからもたくさん楽しいことしようね!
おやすみ孝太くん。
大好きだよ
——”
〜 第三章 完 〜
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