第48話 縮まった

「じゃあ、帰ろっか。作ったご飯冷めちゃうといけないし。というか、もう冷めちゃってるかも」


「あ……ごめん。俺そこまで気が回らなくて……」


「いいのいいの! それだけ伝えたい気持ちが強かったんだよね。嬉しいよ!」


 俺と夏織ちゃんは公園を後にし、二人の住む家へと向かう。


 初めての告白を終えて。



 難しいことなんか考えられなかった。


 思ってることを、なんとか。


 言葉にして伝わるように。


 口に出して言った。



 そして、夏織ちゃんも応えてくれた。


 ”よろしくお願いします”って……。



 ああ、これは夢か?



 緊張感から一気に解放されてか、なんだかふわふわとする。



 首から上の血液が胴体以下に流れて行った感じ?

 サウナから出て水風呂に入った感じ?


 とにかく、人生初めての告白を終えてちょっと燃え尽きた感じがする。



 告白なんて、成功すると鼻歌交じりにスキップでもしながら帰るものかと思ってたのに。

 めちゃくちゃ体力を使った……。


 夏織ちゃんにかける言葉を探す余力もあまりない。



 情けないと思われるかもしれないけど。

 まあ、初めてだったんだ。許してほしい。


 いや、幸せを感じているのは間違いない!

 そこは本当だ。



 ……けど。

 夏織ちゃんもずっと喋らないな。


 まさか、告白するされるが人生初だったなんてこと、ないだろうに……。


 夏織ちゃんの様子を確認しようとちらりと目だけ動かすと、夏織ちゃんは俺とは逆の方に顔を背けていて顔色を伺えなかった。


 ……どうしてそっちを向いてるんだ?


 気になって顔ごと夏織ちゃんに向けてしばらく歩くも、一向にこちらから夏織ちゃんの顔は見えなかった。


 ……まさか、本当は嫌だったんじゃ。

 ここで断ると俺がいづらくなるからしぶしぶオッケーしたとか?



 何かを得ると、それを失うことがとても恐ろしくなるもので。

 あらゆる角度から、変な想像をしてしまう。


 今の俺もまさにそんな状況だ。


 公園での夏織ちゃんの顔を見ればそんな可能性がないことは容易にわかるのに、どうしても確認したくて夏織ちゃんに声をかけた。


「夏織ちゃん、どうかしたの? さっきからこっち見てくれないけど……」


 声をかけられた夏織ちゃんは、ピクッと体を弾ませた。

 けれどこちらを向くことなく、俺と並んで歩き続けるだけだ。


「もしかして、本当は嫌だったとk」


「それは違う! 本当に嬉しかった! けど、冷静に考えると……私でいいのかな? って」


 俺の言葉を遮りながら、ようやくこっちを向いた夏織ちゃん。

 顔が真っ赤だ。


「私でいいのかなって、どういうこと?」


「だって、私。孝太くんとは十歳も離れてるんだよ? 高校生からしたら、私なんておばさんみたいなものだし……。いいのかなって」


 夏織ちゃんは手で顔を隠しながらそう言った。


 確かに。

 社会人同士なら十歳差カップルもあるだろうけど。


 高校生にして十歳上の人とお付き合いをしてる人なんて、少なくとも俺は聞いたことがない。


 夏織ちゃんが気にするの無理はない……が。


「そんなの、俺は気にしてないよ! 歳は十違うけど、それも含めて俺は夏織ちゃんが好きなんだから。それに——」


 夏織ちゃんの顔を隠している手を掴み、その手をどかして夏織ちゃんの顔を見えるようにして続ける。


「夏織ちゃんすっごく可愛いから、十も離れてるなんて思われないよ」


 夏織ちゃんの顔が一瞬で紅潮を超える。




 ……今俺、ものすごく恥ずかしいこと言ったよな?



 でも、自分でも信じられないくらいすんなり言葉が出た。

 告白を受け入れてくれて、夏織ちゃんを褒めるのに抵抗がなくなったのかな。



「孝太くん、なんか、積極的になった?」


「……なんか、ちょっと浮ついてるのかも。ごめん、嫌だったら気をつけるけど」


 そう言うと、夏織ちゃんの手を握っていた俺の手を、もう一方の夏織ちゃんの手でギュッと握り締められる。


「嫌じゃない! から、謝らないで……ね?」


 首を少し横に倒しながらお願いをする夏織ちゃん。


「〜〜〜っ! もう! 可愛いなあ夏織ちゃんは。わかったよ」


「へへへ、ありがと!」



 ……なんだろ。

 告白という一大イベントを経て、夏織ちゃんとの距離が縮まった気がする。



 ……あれ?

 普通、縮まってから告白するのか?



 まあいいや。



 なにせ。今、最高に幸せなんだから。




「「ただいまー」」



 初夏の夜。

 二人で一緒に、二人暮らす家に帰ってきた。

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