第20話 夏織の日記 6月×日

 ご飯を食べに行った後、孝太くんともう少しキッチンの掃除をした。


 孝太くん、キッチンを見た時は一瞬固まってたけど、すぐ動き出してくれた。


 なんとか立ち直ったみたいで本当によかった。

 帰ってきた時みたいに、ずっと目が据わってたら私一緒に暮らしていけないもん……。



 今は、それから風呂に入って寝支度をして、ようやく自分の部屋に戻ってきたところだ。


 今日も日課の日記を書くためにデスク前のチェアに座る。


 いやー。

 今日は色々あった。


 大変なことも多かったけど、嬉しさの方が圧勝してるな。


 孝太くん、ご飯作って待っててくれようとしたなんて……。

 優しくて、可愛いところあるんだから。



 ……おかげで、あの時のお母さんの気持ちがやっとわかったよ。



 デスクに置いてある写真たてを手に取る。

 その中からは、若かりし母がいつでも私に笑いかけてくれる。



 懐かしいな。

 私も一人で料理しようとして失敗したことがあるんだよね。

 孝太くんと違って、私は小学生の頃だったけど。


 その時はなんで怒られないのか不思議で仕方なくって、”次頑張ろう”って言われたのが本当に嬉しくって。


 ……今日少しわかった。


 お母さんにはあんな風に見えてたんだね。



 写真に向かって、笑いかえす私。


 それからお母さんと一緒にご飯を作るようになって。

 あ、今はもう結構上達したのよ?

 孝太くんも毎日美味しいって食べてくれてるの。


 ……お母さんにも作ってあげたかったな。



 写真たてをゆっくり机に置く。


 よし、日記書いて寝ようっと。



 ”——

 今日は色々あった一日だった。


 残業の方は思ったより軽くって助かったけど。

 帰ってきて廊下で異臭がした時は本当に焦ったなあ。


 けど、孝太くん無事でよかった。


 孝太くんに何かあれば、朝倉さんに合わせる顔がないし。

 というか私が悲しいし。


 電子レンジは買い換えなきゃいけなくなっちゃったけど。

 ちょうど買い換えどきだったからまだマシかな。


 それに、孝太くんがいつか電子レンジ代、払ってくれるらしい。

 全く、本当に真面目なんだから。


 今度一緒に家電量販店に行こうっと。



 あ、それと!

 休みの日とか部活がない時は一緒に料理してくれるらしい!

 基礎からみっちり仕込まないと。

 まあ、今日の失敗も今頃、『なんであんなわかりきったことを〜』って反省してるだろうけど。

 念のために、ね。

 あー楽しみ!


 以上!

 ——”


 ふう。こんなもんかな。


 今日は孝太くんともっと近づけた気がするし、お母さんの気持ちもちょっとわかったし。


 正直すっごい疲れたけど、得たものもすっごい大きい。

 よね、きっと。


 たまにはこんな日があってもいいのかな。


 じゃあ、お休みなさい。

 お母さん。




〜 第一章 完 〜

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