第13話 心は暖かく 後編


 現在、夜の十時半。


 夏織ちゃんと並んでソファーに座り、テレビでバラエティ番組を見ているところだ。


 夏織ちゃんの笑いのツボは俺より浅いらしく、度々フフッと声を漏らして笑っている。


「今のそんなに面白い?」

「えー面白いよー。面白くない? 孝太くんもちょっと笑ってたでしょ」


 俺も夏織ちゃんも笑いながら、冗談交じりに顔を合わせて言葉を交わす。




 ……あれから、特に気まずい雰囲気にもならなかった。

 ”あれ”というのはもちろん、夕食前のハグだ。



 夏織ちゃんは元々俺のことを弟の様にしか思ってないみたいだし、そっちはおかしくない。


 おかしいのは、俺だ。

 普通、初恋の人に抱きつかれたら心臓が破裂するほど高揚しそうなものだが、そうならなかった。


 何故だろう、理由はわからない。

 自分でも不思議なんだ。


「じゃあ温かいうちに食べよう」と夜ご飯を平らげ、片付けをして、それぞれ風呂に入った。

 ちょっとした雑談をしながら。



 不思議なことはまだある。

 夏織ちゃんに抱き締められて頭を撫でられて以来、俺の中から”緊張”が消えたんだ。


 昨日なんか夏織ちゃんを見るだけでドキドキが止まらなかったのに。

 今日は風呂上がりの夏織ちゃんの隣に座っていても「いい匂いがするな」程度で済む。


 昨日は頭に入ってこなかったテレビも、今日は夏織ちゃんと並んで一緒に笑っている。

 コマーシャルになると「このコーヒー持ってる人名前なんだっけ?」なんて気の抜けた話もする。


 ……とてもリラックスしている自分がいる。


 この調子なら、楽しくやっていけるかもしれないな。



 うん。

 今日は朝から色々あったけど、明日からは心から楽しい生活になりそうだ。

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