第11話 心は暖かく 前編
現在午後の七時ごろ。
俺は今、自転車を漕いで夏織ちゃんと住む家に帰っているところだ。
六月中旬ともなると、自転車を漕いでるだけでじんわり汗をかく。
はあ。部活であれだけ汗をかいた後だってのに。
……それにしても今日の部活はいつもよりしんどかったな。
だが、その原因はほぼほぼわかっている。
俺の考える原因は二つ。
一つ目。
単純にエネルギー不足。
まともな朝食と昼食を取れなかったことによるエネルギー不足が主要因であることは間違いない。
朝も昼もパンだけなんて初めてで、午後はお腹が空いて仕方がなかった。
それもこれも、今朝夏織ちゃんが起きてないおかげで、未知との遭遇をしてたり夏織ちゃんに見とれてたからなんだが。
……って俺、下着に執着しすぎか?
こう言う時、普段の会話でぽろっと口に出てこないか不安になる。気をつけねば。
そして二つ目。
昼休みの修斗の独白。
イコール木村さんの旅立ちだ。
部活の練習メニュー自体は変わらないけど、木村さんの声援が修斗に向けられたものだとわかると効果激減だ。
しかも、俺以外の部員はそのことを知らないときた。やるせない。
そして、そのことを隠している修斗と木村さん。恐ろしいぞ。
お。
そうこう考えているうちにアパートが見えてきた。
やっぱり初めての道って行きよりも帰りの方が近く感じるよな。不思議と。
……夏織ちゃん、帰ってきてるかな?
自転車を駐輪場に止めて、自分の暮らす部屋に向かう。
そういえば、うちの父さんはいつも深夜に帰ってくるし、母さんは主婦だから他のサラリーマンの帰宅時間は知らないな。
……と言うか、夏織ちゃんは何の仕事してるんだろう。
そっか。
俺はまだ夏織ちゃんのこと何も知らないんだな。
誰もいないかもしれない家に向かって「ただいまー」といいながら中に入る。
昨日、初めて足を踏み入れた時よりは緊張しないけど、やっぱりまだ少し緊張するな。
……お。廊下の電気がついてるし、夏織ちゃんの靴もある。
夏織ちゃんいるのかな。
とりあえず、自分の部屋に荷物を置いてリビングに入る。
「……あ。ただいま」
「お! おかえり!」
今度はキッチンに夏織ちゃんがいた。
エプロンをして髪を後ろで縛り、お料理モードだ。
何か煮込んでいるようで、部屋中にいい匂いが立ち込めてる。
「夏織ちゃんの方が帰ってくるの早いんだ」
「みたいね。私は定時で上がれたら帰ってくるのは六時過ぎだから。
あ、ご飯まで後三十分くらいかかるからちょっと待ってて」
「それじゃあシャワー借りてもいい? 汗かいちゃって」
「いいよー。ごゆっくり」
左手で鍋をかき混ぜながら、右手をひらひらと振って笑顔で送り出してくれる夏織ちゃん。
家庭的な夏織ちゃんも、素敵です。
「あ、孝太くん」
「?」
「”借りる”じゃなくて、”使う”でいいんだよ。ここは孝太くんのうちでもあるんだから」
リビングから出ようとする俺を引き止めた夏織ちゃんの言葉から、本当に歓迎されてることが再認識できる。
「ありがと! すぐあがって手伝うよ」
「いいのいいの。ごゆっくりー」
……夏織さんの笑顔を見ると、自然と俺も笑顔になるな。
少しにやけながらリビングを出ると、自分の部屋から部屋着をとり脱衣所に向かった。
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