第一章 皇陵学園 五話「不毛な時間」

二人で会場から離れた後、各々おのおののクラスに戻り、カバンに今日配られた教材だけを入れ、廊下に出た。するともうすでに廊下には、北条が待っていて、


「ねぇ、時間あるなら一緒に帰らない?」

とぬかす。なるべく家には居たくないし、一人でいても特に面白いこともないので、了承することにした。


「別についてきたければついてくればいいが、方向はおなじなのか?」


「いや僕君の家知らないし。僕も家にかえりたくないからさー。どっか行こうよ」


「お前が俺の家を知っていたら怖いんだが。とりあえず行く当てはあるのか?」

すると、北条はコテンと首をかしげ、少しおちゃらけた感じで返事をした。


「最近流行りのカフェにでも行く? 流石に僕も男二人では行きたくないんだけど。よからぬ誤解を受けたくないし」


「そんなくだらないこと言ってないでさっさと案出せよ」


「じゃあゲームセンターにでも行く?」


校則的に、ゲームセンターに行くのもどうかと思ったが、俺も特に行きたいところもないので、とりあえず行先をゲームセンターにすることにした。



そうこうしているうちに、校門をくぐった俺たちは、なるべく人に声を掛けられないように気配だけ薄くして歩き出した。特に内容のない会話をしながらだらだらと歩いていたが、どうしても歩けば進むもので、30分ほどでゲームセンターについてしまった。


他にやることもないので、ふらふらと中を見渡し、なんとなく目がついたエアーホッケーを二人でやることにする。一人百円ずつ機械に入れると、カウントダウンが始まり、左側にセッティングしてある名前は知らないが打ち合うための円盤が流れ落ちてくる。


お互い地味に真剣にやりながら、どうでもいい会話を繰り返す。


「ねえ、これで勝ったほうがさっきの試合で勝ったことにしない?」


「俺は別にいいが、お前時間は大丈夫なのか?」


「特に両親と仲がいいわけでもないし、僕にあまり興味がないみたいだから別に全然大丈夫だよ。門限もないし」


てっきり蝶よ花よと可愛がられていたと思っていたのだが、そういうわけでもないらしい。その間にお互い10点ずつ点を入れて言っている。今のところは同点だ。


「僕のことはいいとして、君の方は門限とかないの? 名家ならそんなのありそうだけど」


そう言いながらも、北条はしれっと俺の方に点を入れてくる。しかし黙って見ている俺ではなく、返事を返しながらも点を取りに行く。


「あいつらは才能の無い俺になんか興味ないしな。強いて言えば姉が少し心配するくらいのことだ」


「ふーん。お姉さんって、双子のお姉さんのこと? 順位は7位かそこらだったよね?」


よく覚えているな。成績にそこまでこだわる奴には見えないが。なんとなく俺の疑問を察したのか、北条が俺に向けて挑発的にほほ笑む。


「えーとね。僕は大抵一度見たものは覚えられるよ。興味がないことは一日たったら忘れるけど」


いい能力だとはおもうが、駅の名前とか覚えられなさそうだな。宝の持ち腐れというやつか。


まあそんなことより、俺としては通常の中学に入ったほうが普通の人間として暮らせるので才能が有れどこんなふざけた学園に入らなくとも別によかったのではないかと思っていたら、その疑問を表層心理で考えていたようで、返事が返ってきた。油断しているときに思考を読まれると面倒なので、心理結界を張り直しておこうか。


〔ちょっと友達のためにね。それにこの持て余してた霊力や異能を思いっきりぶつけられる相手がほしかったからかな。まあそうしたことによって君みたいな面白いやつとも知り合えたわけだから失敗ではないと思うけれど。〕


〔お前に友達なんていたんだな 同じ学園にいるわけではないんだろ?〕


〔……それはあんまりじゃない? まあ学園にはいないんだけどね。お友達第2号は君で決まりかな。〕


〔もう少しましな友達が欲しかった〕


そんな不毛な会話を続けているうちに、エアーホッケーの決着がついたようだ。


「俺の勝ちみたいだな」


「そうだねぇ。次は絶対に勝つよ。それにしても、僕の友達は変人ばかりだなぁ」


「類は友を呼ぶって言うしな。しかしお前よりは俺のほうがましだと思うぞ。」


そのあとも2時間ほどゲームセンターで時間をつぶし、そのまま帰路についた。途中までは道のりが同じなのでとついてきていたが、高級住宅街に入ってから、しばらくして、


「じゃあ僕はこっちだから。すぐ近くだと思うから、来たかったら遊びに来ていいよ?」


そんな捨て台詞を言って角を曲がっていった。俺もすぐ近くに家があるので、北条の言う通り、意外と家が近いのかもしれない。20時くらいに家の敷居を跨いだ。普段よりほんの少し早いが、別にいいだろう。遅すぎると補導されるしな。


不毛な時間だったが、たまにはこういうのもいいかと思ったのはここだけの話だ。













苓とわかれて、角を曲がったあたりで、僕は ―― に言われたことを思い出し、苓に聞こえるはずもないが、何となくつぶやいた。


「君のほうがよりも断然規格外だとおもうんだけどな。式神がいないのもそれに関係するのかな」



だれが聞いているわけでもなく、言ってはみたが、くらくなってきた夜道にむなしく響くだけだった。

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