第一章 皇陵学園 四話「苓 対 咲也(後編)」

相手は飛んでいった矢を避けようとしたのか、右に大きく跳んだ。しかし、そこで追尾型の矢だと気づいたようで、避けることから、相殺することに変えたようだ。



上手く地雷のない場所に着地して、地面を踏みしめる。


何処から呼び出したのか、相手の両足あたりから、大型の狼の形をしたものが出現した。一見何かとおもったが、式神とよく似た何かの術のようだった。大きく開けたあぎとから威嚇だと思われるうなり声がかすかに聞こえる。次の瞬間、突風が吹き、俺の放った矢が全てりに相殺された。


まさか真正面からすべて消されるとは思っていなかったので、次の一手が一瞬遅れた。その間に相手は地面に仕掛けておいた地雷を全て解除したようだ。


「これで振出しに戻ったね。さっきの矢は何だったのかな? 僕も撃ってみたいからおしえてよ」

コイツは暢気のんきにそんなことをぬかしているが、俺はその間に新たに印を踏む。


この印は相手の足場を崩すために、主に用いられるが、込める霊力を多くすればするほど、突き出てくる岩の高さと強度が上がっていく。霊力の代わりに魔力を少しだけ込める。魔力は霊力よりも強いため、少量でも多くの力を発揮する。


「足元にご注意くださいやがれ!」

5mほどの大岩が相手の半径3m内の地面から突き出てくる。


「言葉がおかしいとおもうんだけど? 日本語勉強しなおしたら?」

奴は動きながらくだらない返事をする。器用な奴だ。しかし、5mもある大岩を軽々と跳び越えたように見えたが、アイツの身体能力はどうなっているのだろう。


それこそ俺が教えてほしい。しかしこの術は素肌の一部が必ず地面に触れていなければ発動しない術なので靴を脱ぐわけにもいかず、両手を地面に押さえつけなければいけない。


そうしている間に、狼の咆哮ほうこうが聞こえ、何かが飛んできた。先ほどの突風から考えると、風に関係する何かだろう。とりあえず5mほど横に跳んでおくか。


すると次の瞬間、俺がいたところの地面がザックリとえぐれていた。当たっていたら人には見せられないようなありさまになっていたぞ。


とりあえず狼が目障りなので、動けない程度に弱らしておくことにする。とりあえず先ほどと同じように、周囲の熱から形成した矢で狙ってみるが、実体がなく、通り抜けてしまう。そこで、異能を使って、狼の存在を、実体があるものへと変換する。


これで思う存分矢があてられるようになった。それを考えている間も、お互いに攻撃の手は緩めないが、残念なことにお互い無傷である。狼を無効化するべく、俺はさっきの20倍ほどの量の矢を形成する。その数約100本。


一部相殺されてしまう可能性が高いので、少し多めに形成した。そして一斉発射させようとしたところで――


「両者即刻戦闘を中止しなさい!」


ちょうど体が温まってきて、楽しくなってきたところなのに、残念ながら中止のアナウンスが入った。二人してアナウンスを流した教師がいるほうをにらみつける……が、素直に矢を四散しさんさせた。


「えー? 楽しくなってきたところなのにー」


「いや、よく見ろ。二重結界がボロボロになってるぞ。さっきのお前の攻撃のせいだろ」


「いやいやぁ、君の矢のせいでしょ?」


「俺の矢はまだ発射する前だったから無効だ。自分の責任を人になすり付けるな」

実際のところ、戦闘に集中していて、二重結界の存在を忘れていたので、お相子だが、とりあえずなすり付けておく。


殺伐とした空気が消え去り、随分気楽に会話をしているが、教師陣はそうとはいかないようで、何やら論議を始めている。

「おまえもしかしたら俺らのクラスに仲間入りか?」


「え、うれしいな! 君と同じクラスなの?」


「俺はまったくもって嬉しくない」


そんな他愛のない話をしながら、ズタボロの会場を能力を使って修繕し、そこから離れた。

北条はびっくりしたような表情を一瞬浮かべたが、なぜか納得したようで、俺についてきた。


会場をあそこまで破壊したつもりはなかったのだが、何事にも集中しすぎるのはよくないな。


おかげで余分な体力を使った。明日は休もうかな……

そんなことを考えながら校庭をあとにした。

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