第一章 皇陵学園 四話「苓 対 咲也(前編)」

〔やあやぁたのしそうだね。僕はとても楽しみなんだけど〕


相手はそう言って向こう側から笑顔で歩いてくる。俺も多少は楽しみなので、何かしらで応えてやりたいが、生憎あいにく1人で話す変人扱いは流石の俺もされたくない。どう返そうかと考えていると、再び頭の中に言葉が響いてきた。


〔あ、ごめん。言うの忘れてたけど、僕のテレパシー能力は受信みたいなのもできるから、心の中で話してくれたら念話ができるよ~。あ、あと、そんなに警戒しなくても僕が読めるのは表層心理ひょうそうしんりだけだから、隠し事があっても大丈夫。でも、君が心理結界を解いてくれないと読めないんだけど〕



コイツ……俺の心理結界に気づいてたのか。俺は会話をするために仕方なく、心理結界の術式を解いた。

〔そういうの先に話してくれないか?〕


そう会話しながらもお互いにフィールドの中心部へと歩いて行く。




 戦闘時間は15分。大抵の場合は6から7分の間ですむが、同じ様な実力を兼ね備えた者同士ならば長々と戦闘が続く場合もある。


中央についたあたりで、アナウンスが会場内に響き渡る。

「お互い、十分に能力を出し合い、今後の活動に生かすこと。それでは、これより1134番『天野』と1135番『北条』の合同組手を始める。両者、構え! ‥‥‥始め!」



ゆるゆると構えていた俺と相手は、アナウンスの合図が終わると同時に距離をおく。お互い軽く2mは跳んだだろう。相手の出方を見る為だ。お互いに初めて闘う相手なので迂闊に攻撃ができない。


〔いやぁ、僕たち気が合うかもねっ!〕


そういうと相手は3枚の式神を飛ばして来た。雷を纏っているので足止めかと思われる。



そのすべてを学校で訓練時に使用する刃の潰されている短剣ナイフで切り裂く。

〔攻撃して来ながら言うことがそれか! まずお前と気が合っても俺は嬉しくない!〕


言いながら俺も印を踏む。話に夢中にならずに足元を見たほうがいいと思うぞ。しかし、それを教えてやるほど俺も優しくはない。相手の足元の地面がボコボコと音を立てながら避けていく。15㎝程になるように計算した。脚を引っ掛けるには十分だ。


「うわっと!」


驚いて声が出ている割には、冷静に判断してうまく地雷を避けていく。他にも地雷はあるのだが、俺が印を踏んだ一瞬で仕掛けた者なので気が付かれるとは思ってもいなかった。ついでに火焔かえん系の護符でも放っておくか。

〔ちょっとあんまりだよ! いきなりすぎない?〕


〔それだったらお前の隠しているもう一つの切り札のほうも使ってもらって大丈夫だぞ?〕


先ほど廊下で話したときに使っていた術は、奴の霊力に似せてはいたが、明らかに本質が違う術だった。よって俺は、アイツはまだ何かを隠していると考えたのだ。煽ってはみたが、さぁ乗ってくれるのだろうか。


ビュッッ!


風を切る音と共に俺の耳元を灼熱しゃくねつが通りすぎる。一歩横にズレていなければ耳が飛んでいただろう。学校で発するような術の威力じゃない。


眼鏡がズレそうになったぞ。何らかの拍子に眼鏡が落ちないようにしないとな。


〔おいおいおい、眼鏡が壊れでもしたら戦いが一気につまらなくなるだろう! まず会場を壊すようなことをするな!〕


フィールドの周りには2重に結界が張ってあるのだが、今さっき奴が放った術はそれを軽々と破ってしまうような威力だった。人体が放てるような術ではない。異端者組の奴でも真正面から相殺そうさいできるのは俺と瑠香くらいだろう。危険すぎる。



奴の表情は不自然な影に隠れてよく見えない。まるで後ろに何かが立っているようだ。

〔君が隠しているものを使えって言ったんだろ? 俺が一方的に蹂躙じゅうりんすることになっちゃうよ?〕


ほぉー……よく言う。それに一人称が変わっているがそれが本性か?


姉さんは……人ごみに紛れてよく見えないな。よし、まあ、みられていないんだったら好都合だ。軽く周囲に結界を張った。

リミッターを少しだけ緩めてやろう。



空気中の熱を集めて矢の形の弾幕をいくつも形成していく。目隠しの結界を軽く張ったとはいえ、実力のあるやつだと、霊眼によって見えているかもしれない。まあそんなことは無視して、相手に標準を合わして発射する。


追尾するようになっているため、このままいくと、奴は死ぬだろうが、さてどう動くのだろうか。

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