第一章 皇陵学園 三話「吉備津大会」

 異端者クラスは一番奥にあるため、日当たりがよく、昼寝には最適だか、一番襲撃を受けやすい。この学校は生徒を大切にするということができないのだろうか。だがまあ異端者クラスの生徒ならばそこら辺の教師よりもよっぽど能力があるので問題はないが。



異端者クラスは極端に人数が少なく、俺を入れて五人しかいない。どいつもこいつも性格が異常な奴ばかりだが、特殊な能力を持つ奴や、才能がある奴が集まっている。この顔ぶれは卒業する以外に代わることはないだろう。




 俺の席は廊下側の一番後ろだが、前に座っている真藤しんどう 瑠香るかは小学3年生ほどの身長なので黒板を見るのに支障はない。ちなみに本人はこのことを気にしているらしいので言ってしまうと痛い目を見る。



 とりあえず、持ってきていたバックを乱雑らんざつにロッカーに突っ込む。この後は、毎年変わらない異端者クラス専門の担任である坂口さかぐち あきらの大まかな高速の説明や授業の詳細を聞き、教材が配られる。しかし、この後が問題で、この学園の毎年恒例である1対1の組手、通称吉備津きびつ大会がある。自分の実力を示すにはいい機会だが、俺としては大会よりも教室に入る前に約束させられた、奴との会話のほうが気になる。



 そうこうしていると、一時間目が始まった。坂口の五月蠅うるさい声のおかげなのか、さして眠くはなかったのだが、あまり必要ではなかったと思う。余計なことばかり話していたからな。まあ大会のところだけ簡単に要約すると、入学の前日に参加を希望する生徒の番号が描かれたクジが引かれ、それにあたった者同士が一対一で戦う方針だ。ちなみに俺たち異端者クラスの生徒は学習方針のために全員強制参加だ。ふざけろよ。教育委員会。




 それから30分ほどたったころに全校収集がかかり、全校生徒が校庭に集まった。これからは自由行動で、参加したくない奴は各自自宅に帰っても大丈夫となっている。全く持って羨ましい限りだ。まあ、俺の場合自宅には最低限帰りたくないので、どこかで時間をつぶして帰ることになるわけだが。



 しかしながら、ほとんどの生徒が校庭に残っている。何せ新一年生の実力が観れるのだ。ちなみにこの恒例行事には選出された二、三年生も出場している。俺たち異端者組の生徒は先ほど担任である××から手加減をするように注意された。



たまに大怪我をさせてしまうからだ。この事については強者が弱者を思いやるという点ではいいと思うが、俺たちにとっては本気も出せない幼稚園生とのお遊びなわけなので、不毛な時間を過ごしているようなものである。別に俺はほかのやつとは違って戦いに執着していたりするわけではないが、手加減をしながら戦いに参加するくらいなら、傍観ぼうかんしたい派なのである。


それに、手加減てかげんといっても、俺は得意な武器を使わせてもらえないし、異能は普段から全くと言っていいほど使わない。それでもし本気を出せといわれても到底無理な話だ。


これは学園での大会だからいいが、本当に妖怪退治をするときは遠くからの奇襲攻撃が向いていると思う。


まあ、遠距離攻撃が得意とはいえ、別に接近戦が苦手なわけではない。だがそれは人間を相手にした場合だ。妖怪の中には自我を持たない特殊なものもいる。そういうやつの行動は〝読めない〟ので嫌いだ。



なんにせよ、こういう大会では遠距離攻撃、とくに狙いを定めなければいけない武器は使いづらい。そのため近距離攻撃用の武器を使うしかないのだ。




 さて、そうこうしているうちに、前の方で固まっていた集団が騒ぎ出した。どうやら始まったようだ。特に面白いものもないのでアイツを探しながら名前が呼ばれるのを待ってみる事にした……が、十分ほど歩いてみてもそれらしき影すら見つからない。何をしているのだか。


「こんなところでなにしてるの?」

聞きなれた声に後ろから呼び止められた。

「そっちこそ何してるんだ姉さん。出場する気はなかったんだろ」


双子の姉の逸華だ。確か前日出場しないといっていた気がするが、どういう心境の変化だろうか。



「別に、出場するわけじゃなくてもここにいる人はいっぱいいるでしょ。それにそこそこの実力者も結構出てるみたいだから、勉強のためにも残ってるの」


しばらく、逸華との他愛のない会話をしていると逸華が唐突に

「あれ? いま名前よばれたよ? 行かないでいいの?」

と言ってきたので、耳を澄ましてみると、生徒の喧騒けんそうまぎれてかすかに校内放送が耳に入った。


「生徒番号1134番! 『天野』対 生徒番号1135番! 『北条』! 場内に上がりなさい!」


そういうことか。面白いことをしてくれるじゃないか。乗ってやろう。ついでにどうやってクジの結果を操作したのかも教えてもらおうじゃないか。そこまで考えて、俺は四〇〇人ほどが見ている校庭の中心へと足を踏み出した。


この戦い、少しは楽しめるかもしれない。



そんな、気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る