第一章 皇陵学園 二話「転入生」

 教室に向かう途中の廊下では、多くの生徒がたむろしていた。

毎年変わらないクラスの配置は、靴箱近くからいち組、組、さん組、よん組と来て、一番奥に異端者組がある。



 教室に向かう廊下の途中には入試受験時の成績上位20名の名前が掲載されている。

もちろん俺の名前はない。受かるのがわかっていてこんなところで本気を出すのは阿保アホのすることだ。

無駄な努力だろう。



ちなみに成績1位の生徒は入学式で1年生の生徒代表としてあいさつをすることになっている。そういえば、今年の生徒代表は6年ぶりに名家の御令嬢だったらしい。しかし、名家の出身ならばこの事は大変名誉なことなので、喜ぶ奴もいるのが現実だ。


全く持って理解できない。そして理解したくない。



 チラリと掲示板を横目に見て、今まで見たことのない名前があることに気が付いた。


――北条 咲也――


……男か? 女か? どちらともとれる名前だが、多分男なんだろう。

順位は8位である。名前を見たことがないので転入生だろうが、よくやる。だが、出る杭は打たれる社会だ。気の毒だな。


俺はそこまで考えるとまたクラスに向かって足早あしばやに歩き出した。



騒がしいのは肆組だろうか? ぼそぼそとした話し声の間に、『転入生』というワードが聞こえた。なるほど。転入生のいるクラスか。


どうでもいいと判断して、そそくさと肆組の前を通りすぎようとすると、なぜか一瞬だけ強い視線を感じ、反射的に振り向いた。殺気ではないようだが、振り向かずにはいられないほどの気だった。



周囲のやつらは気づいてないようだ。殺気でもない限り、特定の人間にこれほど強い気をあてるのは余程実力がないとできないだろう。


そんなことを考えていると、笑顔を振り撒く男子生徒と目が合った。人気者の転入生君だ。上も厄介な奴を招き入れた様だ。相手は俺に興味を持った様なので、もしかしたら話しかけられるかもしれない。


しかし、目が合ったのもほんの一瞬。すぐに他の生徒の陰に隠れてしまった。


俺はすぐに興味をなくし、目の前の扉に手をかけようとしたが、聞き覚えの無い声に呼び止められた。

「ねえ、ちょっと君。下の名前、なんていうの?」

俺は、答える価値のない質問だと思い、無視しようとしたが、扉に手を掛けようとしていた右腕をつかまれた。俺は思わず、あ゛? と声を発してにらみつけた。


〔怖いなぁ、そんな顔して睨まないでよ〕

異能の類だろうか。直接頭に言葉が響いてくる。


「いきなり不躾だな。お前に名前を教えるメリットが見つからないんだが? あと普通に話せ」

「えー? つれないなぁー」

そう言って、こいつは俺の腕を離した。あざが残るほどではないが、大分強くつかまれていたようだ。そのあとすぐに教室に入ってもよかったが、それよりも、時間をいてもいいと思うほどに気になったことができたので、振り返って相手と目を合わせる。



「そんなことよりも、お前の異能のことについてだが……」

ここまで俺が言うと、あわてて俺の言葉をさえぎった。こいつが能力を使った感じはしなかったが、まわりにいたやつらの気配が薄くなった。


「これで大丈夫か? ……まあいいや。 で? 何か質問があったようだけど」

最初のほうは何て言ったか聞き取れなかったが、俺には関係ないことのようなので、無視しておこう


おそらく、まわりにいたやつらの気配が薄くなったのは、話を聞かれないように何かしらの仕掛けをしたんだろう。まあ、当然かもしれないな。だいたいの異能持ちは異能を持っていることを明かしていないからな。強い異能を持っていたら異端者クラスに入れられるわけだし。


まあそんなことは置いておいて。

「じゃあ遠慮なく質問させてもらうが、さっき使用した異能は、どんなもので、どこまでの範囲で能力が反映されるか、どんな条件があるのか――」

「ちょ、ちょっと待って! いっぺんに質問されても何にもわかんないから! それに、その質問に答えてほしかったら、僕の質問に答えてよ」


「俺がお前の質問に答えたとして、お前が俺の質問に対して答えを返す保証はない」

「……信用ないなぁ」


出会ったばかりで信用もクソもないだろ。と思ったが、心の中にとどめておくことにした。

「もう今は時間がないから、このあとにある大会のときに待ち合わせて話そうよ」



まったく。嫌なことに騒々そうぞうしい日々が始まりそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る