変わっていく日常 編
第一章 皇陵学園 一話「天野苓」
京都府には、幼稚園から高校まで一貫である「
だが、この学園は京都府だけにある訳ではなく、他にも青森県、東京都、愛知県、広島県、宮崎県と、計六校もある大規模校となっている。もはやチェーン店と考えてもいいのかもしれない。
かくいう俺も東京都内にある皇陵学園の生徒である。この施設は主に学年制である。天野家の長男の俺は、落ちこぼれとされていても一応飛び級制度が利用できる。
まあ、手続きなどもあり、何より家族に制度を利用したことがばれると面倒なので、必要な時以外は利用しないことにしている。
そんな俺は今、面倒な中等部進学試験を
本当は前日に入学式のようなものがあったのだが、
顔ぶれは試験に落ちなければ大体同じなので、言ったところで利点がなかった。それに行く気が
姉には文句を言われたが、俺からしたら自由参加なのだし、行ったところで得がないので行く必要も感じられないのだ。
そうこうしているうちに、列の大分前のほうに来ていたようだ。『天野 苓』の文字を探していると、案の定、一番右端にあった。
まあ、俺が今入れるクラスがそこしか無いのだから探さなくてもいいのだが、嫌なことにクラスの振り分けが書かれているのが生徒玄関の目の前なので、さすがに素通りするのは骨が折れる。
そんな取り留めの無い事を考えていると、明らかに俺に向けられた悪意を感じた。
よし。無視だ。こういう事にはかかわりたくない。それに、俺はあんな奴は知らない。……おい、こっちに向かって歩いてくるんじゃない。絶対に話しかけるなよ。
「おい、お前天野家だろ? あの天野家のおぼっちゃま君が何でこんな異端者クラスなんだ? ああ、そぉっかそっか、わぁかっちゃった。
……こいつ。いきなり変顔で独り言を言い始めた。頭大丈夫なのか。周囲の取り巻きも変顔ではやしたてる。脳みそが逝かれてる同士、楽しそうだな。
まあそんな冗談は置いておいてだ。俺は話しかけるなといっただろうに。頭の中で。これだから学園は嫌なんだよ。毎年やられている。もはや俺の中では恒例行事だ。
ここまで来てしまってはさすがに無視できない。が、最後の
その結果。……火に油を注いだみたいだ。まあわざとなんだが。
「お前、俺のこと舐めてんのか? たかが天野家だからって調子に乗ってんじゃねえよ! どう考えても俺のほうが家の位も才能もお前よりも勝ってんだろ!」
「……ははっ」
「ああ?」
……あ、しくじった。くだらなすぎて笑ってしまった。気づいていたのがばれたんだ。穏便に済ませれない。面倒くさい。というか、名家の順位は頻繁に入れ替わるんだよ。
こいつ、こんなことも知らないのか。誰か代わってくれ。俺は喜んで代わるぞ。
ここで戦闘になろうものなら、怪我どころでは済まないだろう。
だからさ、姉さん。俺は来たくないってさ、言ったはずだよな?
初日からこんな奴に絡まれるこっちの気にもなってもらいたい。
全く持って時間の無駄でしかない。ほら、お前たち、まわりを見たほうがいいと思うぞ。
そんなんだから初日から見まわりの教職員に失点されるし友達もできずに引かれるんだよ。
だがまあここまで来て無視するのも流石に気が引ける、仕方がない。返事をしてやるか。
「失礼しました。何か私に用でもあるのでしょうか? 新田家の跡継ぎである康二様」
流石の俺でもよくできていると思うあたりざわりの無い返しだろう。記憶力良くて助かった。なんでこいつの名前なんか覚えてるんだろう。
まあ、これくらいで満足してくれたなら俺としても助かるんだがな。
「おうおう、わかってんじゃないか。まぁ、姉に次期当主の座を奪われてんだからな。そんぐらい自覚してるんだよなぁ!でも、お前の姉も姉だよなぁ? 才能もないクズで! これからの天野家を心配してやるぜぇ? 何だったらオレの下に入るか? だったら天野家はまだマシになるかもしれないぜ? 良い話だろう!」
だんだん話し声がデカくなっていくな。鼓膜が破れるのだが。デカいのは才能じゃなくて態度と図体と声だけか。
いい加減にしてほしい。教室に入りたいのだが。しかし、俺だけではなく姉までもを馬鹿にするのはいただけないな。
あいつには俺の代わりに当主になってもらわなければいけない。少し痛い目を見させたほうがいいのか。
こんな雑魚中の雑魚、どうせ試験でも下のほうだろう。ここで少しこいつが騒いでも、別に
騒がしとくか。
俺はそこで、右腕に
「素晴らしい提案ですが、またの機会にお願いいたします」
そう言って右手を差し出す。だが、相手は右手を差し出さない。つまらないな。作戦が成功しないではないか。
なら。
「ああ、そうだ。
もし気のせいでなかったのであれば、あなたは自分よりも身分の高いものに
このままこの手を取らなければ、次の大会まで、あなたはどうなるのでしょう。楽しみですね」
相手は少し表情を青くしながら、
気が変わった。素直な目的のためではない、ちょっとした
バチバチッ
「いってええぇぇぇ!」
握手をしたとたん、その場に悲鳴が響いた。
大げさな。見ていてあきれるぞ。だがまあ、ざまあない。人一倍の努力家な俺の姉を馬鹿にするからだ。
「静電気ですかね? お大事になさってください。ではまたの機会に」
俺はそれだけ言うと、未だ地面を転がっている康二とその取り巻きを避けて教室に向かっていった。
七分も無駄に時間をロスしたのだから、安いものだろう。
‥‥‥ああ、大事なことを言い忘れていたが、まあいいか。
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