第10話 「化け物」



 「で、どうする? 早く決めろ。俺と手を組んで逃げ続けるか、組んで戦うかだ」

 「た、戦う!? あの化け物と!?」


 間違いなく近づいている。

 で、でも、俺が戦うなんて……


 「……わかった。借金を帳消しにしてやろう。元々組織から奪った金で、俺の金じゃねぇしな」

 「!!」


 再び爆発音。

 建物が小刻みに揺れている。


 自衛隊が爆弾でも使ったのだろうか。


 ……いや、違う。

 爆発音ではない。もっと、もっと重たい物が衝突したような音。


 後ろからだ。

 すぐ後ろの扉から何かが衝突したような音が……


 俺は咄嗟に後ろに振り返る。


 「……来たか」

 「な、何だコイツら……」


 「「「グギャアアァァァァァァ!!!!」」」


 体の形は人間。

 手足はそれぞれ二本。

 だが、全身が緑っぽい鱗で覆われている。

 それに、顔が……トカゲだ。


 ドシドシといった擬音が当てはまる程の体の大きさで、木の床を歪ませながらゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。


 何とかしなければ……


 「お前の力を見せてくれ。5億使ったんだろ? これぐらい易しい筈だ!!」


 《……リザードマン。水魔法が有効です》


 リザードマン、か。

 漫画やゲームで見たことがある。

 しかし、相手が人の形をしているだけで、こんなにも抵抗感が湧くとは。


 「やるんだ!! 早く!!」


 先に殺さなければ、殺されてしまう。


 「くっ……協力するよ。やってやる」


 男はにやりと笑みを浮かべる。


 「……交渉成立だな」


 俺は頬を伝う冷や汗を袖で拭い、リザードマンの目を見つめる。


 「ふぅ……」


 一つ、息を吐く。


 心拍数が上がっている。

 落ちつけ。

 俺ならできる。

 俺は弱くない。

 俺は……リザードマンより、強い。


 俺は重い右腕を上げ、近づいてくる蜥蜴士へ掌を向けた。


 「……」


 リザードマンは手に持つ槍をこちらに構える。


 一瞬の静寂。


 ……いける。


 「『滅雷』ッッ!!」


 右手に最大限の魔力を込め、叫んだ。


 「「「ギジャァァァァァァッッッ!!!!」」」


 リザードマンも、そう声を上げ一歩踏み出し、槍を突き出す。


 「……っ」


 俺の滅雷とリザードマンの槍がぶつかったと思った瞬間。


 「「「パコォォォォォォン!!!!」


 銃声のような音と共に、電気の様なものが部屋中にほとばしった。


 目の前が白の世界になる。

 綺麗な白。

 それ以外、何もない。


 「……どうなった?」


 目が眩む。

 俺は……やれたのだろうか。


 『カランッ』


 槍の落ちる乾いた音。


 恐る恐る、目を開ける。


 それは俺の頬を……掠めていた。


 「……!!」


 消し炭だ。

 蜥蜴士のいた場所に、黒い墨だけが残っている。

 威力が……凄い。


 「あっ!! 闇金の人は!?」


 周りを見渡すと、闇金の人は部屋の壁にもたれ掛かっていた。

 ……傷一つない。


 「これが俺の特殊スキル、『防御壁』だ。魔力を結構使うがな……ウッ!!」

 「大丈夫ですか!!」

 「あと、俺の名前は闇金の人じゃねぇ。佐藤亮平だ。覚えとけ……」

 「さ、佐藤さん……ですか」


 佐藤さんはそのまま気を失ってしまった。

 安全な場所に移しておこう。


 何はともあれ、危機は乗り切った。

 俺は……初めてこの手で命を奪った。

 虫も殺せない俺がだ。


 「だけど……こんな化け物がいるなら、変わらなくてはな」


 俺は妙に冷静だった。

 目の前で化け物を見たせいかもしれない。

 《精神耐性》のせいかもしれない。


 けど、今の現状に適応しないといけない、ということには変わりない。


 「そう言えば、外はどうなってるんだ?」


 俺は何げなく窓の外を見た。

 そして、見たことを後悔した。


 「な、なんだこれ……」


 街中から煙が上がっている。

 逃げ惑う人々。

 至る所に付けられた血痕と、散らばった死体。

 ……そして、様々な姿をした化け物。


 俺は余りの衝撃に後退りをする。


 「と、父さんと母さんは無事か!?」


 俺は両親へ電話を掛けた。


 「もしもし!!」

 「あ、ああ。拓真か。そっちは大丈夫か? ニュースでなんだか凄い事になってるようだが……」


 父親が心配した様子で出る。


 「父さんこそ!! そっちは何ともないのか!?」

 「……『ザザッ』……何て言……『ザザッ』……」

 「と、父さん!?」


 切れた。


 電波塔もやられたのだろう。

 でも、生きていて良かった……

 どうやら父さんの所までは行っていないらしい。

 あくまで影響は今の所東京まで、か。


 「しかし、今はこの状況をどうやって切り抜けるかが最優先だな」


 俺はドアから数匹の化け物が出てくるのを見ながらそう言った。

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