第9話 「異変」


 その日、全世界は謎の異常気象に見舞われた。

 空の色が黒い雲に覆われたのである。


 最初は日本から始まり、数時間も掛からずに広がっていった。


 その雲は、日本上空に突如として出来た裂け目のような所から出てきていた。


 ある人はそこを地獄に通じる門である、と言い、またある人は宇宙人が攻めてきた、と言い、恐れ慄いた。


 しかし、その雲が出終わった後に起こった現象。

 それによって人々は、それが何であるかを確信することになる。





 『プルルルル……プルルルル……』


 「……う…………」


 『プルルルル……プルルルル……』


 「……ん……せっかく人が気持ち良く寝てるってんのに……誰からの電話だ?」


 俺は眠たい目を擦りながら、受話器を取った。


 「はい。何でしょう」

 「……佐藤金融の者ですが」

 「……!!」


 ヤバイ。

 完全に忘れてた。

 河川敷のあの件ですっかり頭から抜けてしまっていた。


 「あの―、おたくに貸した金、そろそろ返して貰っていい?」

 「あ、す、すみません。来月また準備しますんで……」


 マズいな。

 俺の計画では未来予知やらなんやらゲットしてギャンブルで稼ぐ予定だったんだが。

 パワー系能力しか手に入らなかったからなぁ……


 「困るんだけど。6億6550万。今すぐ返して」

 「え!? ろ、6億!?」

 「言ったじゃん……10日で1割って。取り敢えず事務所まで来て。念のため言っとくと、個人情報押さえてるから」

 「は、はい……」


 10日で1割……なんて横暴な利子なんだ!?

 5億借りた俺も悪いが、いくらなんでも滅茶苦茶じゃ……いや、そういえば闇金だったな。

 これは完全に俺が悪い。


 ……取り敢えず行くしかないだろう。


 しかし、今日は妙に空が暗いな。

 いや、どちらかというと黒に近い。

 ……あの雲を見ると、どうしてもあのカプセルの中身の、あのモヤモヤを想像してしまう。

 何故だろう?


 それに空気もだ。

 いつもより重い。

 ……気分が悪くなってくる。


 「し、失礼しま……ッ!!」


 俺は佐藤金融に着き扉を開いた瞬間、中へ引きずりこまれた。

 まるで何かから逃れるように。


 「……す、すみません」

 「おう、来たか。ちょっと上にこい」


 最初に来た時と同じ人だ。

 でも、表情も口調も違う。

 まるで別人だ。


 「で、お前を呼んだ理由だが」

 「す、すみません……」

 「……実は借金についてじゃねぇ。ガチャについてだ」


 ガチャ?

 今、コイツの口から出たような気がするが……

 聞き間違いか?


 男は続ける。


 「5億借りに来たのと、強い魔力を感じてコイツはガチャを回してるって気づいたんだ。中々いねぇからな。そんなヤツ」

 「な、なんでガチャについて知ってるんですか?」


 俺のガチャを回している姿を見ていたのだろうか。

 だとしたら恥ずかしいな結構。


 「……上の奴がどっかでガチャを見つけたんだ。

 それで、能力者集団を作ろうと同じ組の全員に少しだけ引かせたんだよ」

 「あなたも、スキルを使えるんですか?」

 「まぁな」


 やっぱりそんな気はしていたが……他にもガチャが出現していたのか。

 ……だとしたら驚異だな。戦うことになるかもしれない。


 「上の奴って?」

 「やべぇ、ってことだけ言っておく。ガチャに何億使ったのか……」


 流石位の高い奴は違うな。

 何億もの金を動かせるなんて。


 ……しかし、何故この男は『上の奴』じゃ無さそうなのに5億なんて大金を持っていたのだろうか。


 「ただ、一つ条件を呑んでくれれば、全て教えてやらんでもない」

 「な、何ですか? それ」

 「……俺と手を組め」


 え?

 手を組む?

 なんで俺と?


 「何がなんだかわかってない顔だな。テレビを見てみろ」


 男はリモコンを手にとり、テレビの電源を入れた。


 (速報です!! 速報です!! 東京の上空に現れた裂け目から大量のッッゴプッッ――ピーーーー)


 「これが答えだ」

 「な、なんだよこれ……」


 さっき映像に映ってたやつ、アナウンサーの後ろにいたやつ、顔が……顔が、トカゲだった……


 「え、映画かなんかですか? こ、これ」

 「現実だ」

 「こんなの、し、信じられるわけッ!!」


 その言葉を聞いた男はフッと笑みを浮かべる。


 その瞬間。

 ドンッ、といった爆破音と共に、全ての窓ガラスが粉々に吹き飛んだ。

 俺達の座っている椅子のスレスレに破片が降り注ぐ。


 「来たか」

 「な、何……っ?」


 下だ。

 下に化け物がいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る