第8話 「滅龍の咆哮」
「やっぱり……このガチャは誰かのスキルか魔術なのだろうか」
その張り紙には、手書きで短い文が書かれていた。
『伝えたいことがある。今、これを見ている君たちにだ。
近く、君たちの世界が我々の世界と繋がってしまうことになる。
その時、君たちの世界が崩壊するのを防いで欲しいのだ。余り多くのことを伝えられなくてすまない。
「ガチャ」という形であるのも「能力との契約」をしているからなんだ。許してくれ』
意味がわからん。
君たちの世界?
我々の世界?
能力との契約?
何がなんだかさっぱりだ。
「しかし、ガチャを回せなくなったのは衝撃だな……」
ガチャは俺の生活の一部になりかけていた。
いや、それ以上かもしれない。
呼吸だ。
正に呼吸のように引いていた。
それがいきなり引けなくなったとしたら。
間違いなく、何らかの影響はある。
現に、俺の心にはまるで穴でも空いているかのようになっている。
「観察者さん。このガチャを鑑定してくれ」
《……一般に使用されているガチャ台ですが、構成する魔力が弱まっているため、20時間後に消滅するでしょう》
ダメか……
まぁ、半分に減った時からそんな気はしていたが、予想はしていても、それが現実になると結構受けきれないものなんだな。
「まぁ、魔力が使えるっていうことは、使う相手ができるってことだ。魔術の練習でもしておこう」
俺は外に出て、近くの河川敷へ向かった。
そういえば、透明化とかのスキルはないのだろうか。
魔術とかを見られるのは少々マズいんだがな……
《出てくる魔術を異次元収納でしまえば、透明化はできませんがバレずに済みますよ》
なるほど。
そんな使い方もできるのか。
「あっ」
俺の感覚が正常に戻っている。
5億借りた時……操術人形を誰かに見られてもいいと思っていた。見られてもいいからガチャを引きたいと思っていた。
偶然平日の昼間だから良かったものの。
だが、今は。
ちゃんと周りの目を気にすることができている。
「案外、ガチャが無くなって良かったかもしれないな」
俺は河川敷へ降り、『異次元収納』を使った。
目の前の空間が、捻じ曲がるように見える。
「これが……異次元収納か」
歪んだように見えるが、近くに来なければ気付かれない筈だ。
でも、万が一の時に備えて人のいない所へ移動しておこう。
「よし、それじゃあ先ずは『水龍の咆哮』から……あ、無くなったんだった。『滅龍の咆哮・水』? 代わりにこれを使ってみるか」
俺は異次元収納の咆哮へ手を向けた。
「『滅龍の咆哮』!!」
それは、一瞬だった。
「「「ドゴォォォォォォォォオン!!!!」」」
強烈な風圧で周りの地面が抉られ、吹き飛ぶ。
それと同時に、複数の水の巨大な柱が複数周囲に浮かびあがる。
そして、手の向けている方向へ、物凄い勢いで放たれた。
「な、なんだこの威力は!!」
耳が轟音でジンジンする。
それに、凄まじい暴風だ。
ちょっとでも気を抜くと飛ばされてしまう。
《注意。異次元収納の容量に近づいています。スキルを終了してください》
俺はスキルを止める方法は知らなかったが、当てずっぽうで手に流れる「電気のような何か」を止めた。
だが、時既に遅し。
気づいた時には、俺を中心にして半径50メートル程の地面が丸裸になっていた。
俺は、スキルを使えたという喜びより、ある感情が始めに出てきた。
「と、とんでもないことをしてしまった」
周りにもし人がいれば。
もし、異次元収納を使っていなければ。
考えたくない。
「……帰ろう」
俺はそれから普通の生活を送った。
あれから河川敷には行ってないが、何やらミステリーサークルなどと騒がれているらしい。
俺がやったとは言わないでおこう。
どうせ信じて貰えないだろうからな。
――それから一ヶ月経ったある日、「それ」は唐突に起こった。
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