体育倉庫の生首

第1話





 高校の体育倉庫には、たまにボールにまぎれて生首がいる。


 実際に見たという生徒が何人もいて、生徒は一人で体育倉庫の中に入るのを避けていた。

 先生もその怪談を認知しており、極力生徒が入らないように対策を行うぐらい、誰もが知っているものだった。


 誰の首なのか。

 それを知っている者は、いない。

 いつから現れるようになり、何のために現れるのかを知っている者もいない。


 今までに何人もの人間が、解き明かそうとした。

 しかし、そのうちの誰一人として、解き明かすことは出来なかった。



 そして、ここにまた一人。

 謎を解き明かしてやると、意気込む人物がいた。


 彼の名前は、田中涼太。

 二年生で、部活動にミステリー研究会に所属していた。

 だからこそ、その怪談に興味を抱いたわけである。


「先輩。先輩は、気にならないんですか? 怪談なのに、分からないことが多すぎますよね。ね? ね?」


「田中君、部室では静かにするように」


「先輩。もっと優しくしてくださいよ!」


 興味を抱いたはいいが、涼太は一人で調べることの限界が必ずあると考えた。

 そのため、ミステリー研究会の部長である大嶋洋一に声をかける。


 洋一は七三分けの眼鏡で、第一印象は学級委員長をやっているように見える。

性格はクールという言葉が似合い、自分にも他人にも厳しい。


 ミステリー研究会には、他にも何人か部員がいるのだが、涼太が仲良くしているのは洋一だった。

 仲良くしているとはいっても、涼太の一方通行なのだが。

 一応、洋一も付き合ってはいる。


「田中君に優しくする必要性を感じませんので、すみません。……それで、何の話でしたか?」


「先輩! 聞いてくださいよ! 体育倉庫の生首についてです!」


「私の話を聞いていないのは、田中君の方ですね。部室では静かにしないと、、他の人に迷惑がかかります。もう少し、静かに話をしましょうか」


 一つのことに集中すると、周りが見えなくなる涼太。

 一つのことを実行するまでに、色々と考えるので時間がかかる洋一。


 正反対だからこそ、二人は上手くいくのかもしれない。


「……はい、わかりました。あの、先輩と一緒に謎を解き明かしたいです。良かったらですけど、協力してくれませんか?」


「最初から、そう言ってくれれば良かったのです。急にうるさく言われてしまえば、誰でも嫌になります」


「先輩、すみません」


 涼太が大人しく反省をすれば、洋一は今まで読んでいた本から顔を上げて、ようやく視線を合わせた。


「それでは、体育倉庫の生首とやらを探しに行きましょうか」


「はい!」


「静かにしましょうか」


「……ごめんなさい」


 こうして、二人は体育倉庫の生首の謎を解き明かすために、調査を始めることにした。





「……それで、体育倉庫に来たわけですけど。どこに生首はあるのでしょうか?」


「えっ? えーっと確か、ボールにまぎれているそうですけど」


「きちんと知っているわけでは、ないのですか」


「何しろ、色々と謎が多いみたいで」


 先生の目を盗んで、二人は体育倉庫に来ていた。

 鍵はあらかじめ、涼太が細工をしかけていて、開くようにしていたのでスムーズだった。


 十畳ほどの広さなのだが、色々な用具が詰め込まれているので、実際には狭く思えた。

 跳び箱、マット、ネット、点数板など乱雑に置かれているようにみえるが、おそらく考えられて配置されているのだろう。


 その中を二人で進みながら、まずは生首を探し始める。

 バレーボール、バスケットボール、大玉、ドッジボール、ハンドボール、ラグビーボール、さまざまな種類があるので、探すのには骨が折れる。


「生首ぐらいの大きさとなると、大玉は無いですよね。むしろ、その大きさだったら、妖怪とかそういう類になっちゃいますから」


「それはそれで、面白い気もしますが。形から考えて、ラグビーボールも除外した方が良いでしょう」


「はい! それにしても、色々な種類がありますね。こんなにもいっぱいあるとは、思ってもいませんでした」


 しかし二人は文句を言うこともなく、黙々とボールを選別していく。

 流れ作業のように行っていれば、短時間でほとんどのボールを調べ終えた。


「今日は、外れの日ですかね? ここまで探してないのなら、たぶん見つからない気がします」


「まあ、たまにですからね。今日、見つからなかったとはいっても、明日見つからないとは限りません」


「そうですよね。すぐに見つかるなんて、都合のいい話ですよね! 明日も頑張りたいです!」


「……そうですか。それでは、私も付き合いましょう」


 今日は見つからない。


 そう判断すると、二人はボールを最初の位置に戻した。

 そして誰にも入ったことをバレないように、入ってきた時と完全に同じ状態にする。

 元に戻ったのを確認し、その日は体育倉庫を後にした。




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