第3話
「それじゃあ、期末テスト記念すべき一教科目は、生物からだ。真面目に授業を受けて、きちんと復習していれば出来るはずだからな。いつも通り、落ち着いてやればいい」
担任の励ましと共に、問題用紙と答案用紙が配布された。
瞳は前の席の人から受け取った問題用紙を、じっくりと見る。
プリントで見覚えのある問題、彼女が考えていた通りだ。
それを確かめると、彼女の口元に自然と笑みが浮かんだ。
「よし。それじゃあ、始め」
合図がされて、一斉にシャープペンシルの走る音が、教室に響く。
彼女も同じように、答案用紙にまずは名前を書こうとして、その手が止まる。
そして、更に笑みを深くさせた。
彼女の視線の先にあったのは、答えを書くスペースの隅にある数字だった。
一、二、三、四、空欄によって書かれている数字はバラバラ。
しかし、全てを合計すれば百になる。
彼女には、それが分かったのだ。
答案用紙から顔を上げて、早苗の後ろ姿を見る。
彼も、すぐに気が付いたはず。
これはもう、四十九点を取ってくださいと言われているようなものだ。
彼女の中で確信に変わって、もう心配することが無くなり、テストに集中し始める。
五十分という時間は、テストに集中していれば、すぐに終わった。
彼女は何度も何度も答案を見返して、自信満々だった。
答案用紙を集めた担任は、次も頑張れと言い残して、教室を出ていく。
担任がいなくなり、十分の休み時間。
次の教科の復習の準備を持って、早苗の席に瞳は近づいた。
「お疲れ様。ねえねえ、どうだった?」
緊張から解放され、上機嫌で話しかける。
「お望みの結果を、プレゼントすることが出来そうだな。何度も確認したから、ばっちりだと思う」
「本当に? それなら安心だね。残りの教科も頑張ろう」
話しかけられた彼は、自信ありげな表情で答えた。
その表情からは、素晴らしい結果が予知できる。
彼女はその答えに満足して、席に戻ろうとした。
しかし考え直すと、彼の隣の席が空いていたので、そこに座った。
「……何だ?」
彼女が戻ると思っていたので、不思議そうに尋ねた。
「ん? 高橋さん、他の教科は勉強していなかったでしょ。ちょっとしか出来ないけど、一緒に勉強しようかなと思って。……迷惑だったかな?」
「か、勝手にしろ」
当たり前のように言うから、彼は面食らってしまう。
その頬は、隠しきれないぐらいに真っ赤に染まっていた。
ぶっきらぼうな返しをしたが、分かりやすいぐらいに挙動がおかしくなる。
それに気が付かないふりをして、彼女は教科書を広げる。
「とりあえず、ここだけ覚えていれば何とかなるから。あと残り五分。詰め込めるだけ、詰め込むよ」
「お、おう」
顔を真っ赤に染めて、照れている早苗。
そんな彼に怯えることなく、勉強を教えている瞳。
まるで、少女漫画でありそうな組み合わせ。
二人がどういった関係なのか、邪推する生徒達は勉強に集中しきれないまま、十分という短い時間を過ごした。
それから休み時間の合間に、二人は他の教科の勉強を行った。
こうして、五日が過ぎテストはようやく終わる。
終わった時には、全員が頭を使い過ぎて疲れ切っていた。
瞳と早苗も例外ではなく、ぐったりと机の上にだらけた格好で座っている。
「今日は、午前中で終わりだから。早く帰れよ。先生達は職員会議があるから、残るのは禁止だぞ。見つかったら、俺が怒られる」
そのまま休憩していたいところだったが、担任に注意されてしまい動かざるを得なくなる。
瞳は、ゆっくりとした動作で帰りの支度をすると、早苗の席に向かう。
そして、クラスメイトがざわめいているのを無視して、話しかけた。
「高橋さん、お疲れ様。さあ、帰ろう」
「おう」
二人共、周りが注目しているのを無視して、並んで帰っていく。
教室からいなくなった後、クラスメイトは一気に噂話に咲かせる。
「ねえねえ、絶対にあの二人付き合っているよね!」
「最近、距離が近いと思ったら、そういうわけだったの」
「正反対な感じに見えて、意外に相性良いのかもね」
「それにしても一緒に帰るなんて、見せつけてくれるよな」
好き勝手に話を膨らませて満足すると、先生に怒られる前に各々帰っていった。
実際は恋人ではなく、とある目的のために一緒にいるだけだと、知る由もなく。
先に教室から出た二人は、勉強会で利用していた図書館に来ていた。
そして前と同じように、隣同士に座って顔を突き合わせる。
図書館の司書は、最近よくある光景を微笑まし気に見守っていた。
青春というのは、とても素晴らしい。
そう考えながら。
「それじゃあ、一応確認してみようか。問題用紙に、どんな答えにしたのか、書いたよね?」
「もちろん。点数の割り当ても、書いておいた」
問題用紙、プリント、教科書、資料集。
他に利用者がいないので、めいっぱい机を活用する。
そして、確認作業を始めた。
まず問題の答えを、プリントなどから見つける。
そこから、早苗の答えが難点になるのか計算するのだ。
その作業は分担して行ったのだが、慣れていないせいで時間がかかった。
しかし、最終的には答えが出た。
「……良かったね! これは、四十九点になったと思う! すごいよ、高橋さん!」
「ま、まあ。当然の結果だ。あとは返却するのを、待つだけだな」
「そうだね。でも、返ってきてからが本番だよ。何のために、ここまで苦労して四十九点を取ったのか、分からなくなっちゃうから」
二人が導き出した答えは、四十九という数字だった。
それが分かり、喜びを分かち合う。
「分かっているって。テストが返ってきた日に、呪文とやらを唱えなければいいんだろう? そんなのは、簡単簡単。やらなくていい方が、楽だ」
「返却された日にも、注意はするからね。あと、その日は出来る限り、一緒にいようね」
「分かった」
四十九点を取れたものだと自信が付けば、ようやく次の段階に入ることが出来る。
広げたものをしまうと、二人は作戦会議を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます