第3話 俺、姉妹を助ける
街中を歩いていると怒鳴り声が聞こえてくる。
「おい。金をだせよ!」「ははぁ~ん。それともおれたちと遊ばね? お嬢さん」
下卑た笑いの向こうには、二人の女の子がたっていた。その前にはいかにも二人のチンピラがたっているのだ。
赤髪でしなやかな髪を腰まで流している女の子と、ピンク色で肩口に切りそろえた女の子が怯えている。
これは助けるしかないな、そう思い俺は近づく。
「そのへんにしなさい」
「なんだ? 邪魔するのか?」
俺が呼びかけると、モヒカンがこちらを威嚇するようにうなる。
「はは。こいつまだロリじゃねーか。まあ、十年後くらいに味見させてもらうわ」
そう言い残し女の子に向かうモヒカンとアフロ。
「あ。待てよ!」
「そう言われて、待つ奴がいるのか?」
仕方ない。これはあまり使いたくないのだが。
「真実の扉よ、我が命ずる。命の水を対価に在りし日々を現出せよ!」
詠唱を終えると、俺の周囲が光で満ちていく。
身体がめきめきと大きくなっていく。
光が弾けると、そこには
もりもりとした筋肉でできた身体。
「へっ!?」「なんだよそりゃ!」
モヒカンとアフロは驚きの声を上げる。
その隙をついて女の子ふたりは逃げだそうとするが、モヒカンとアフロは邪魔をする。
女の子の一人は三日月のようなアホ毛がある赤い髪の子だ。その隣にはピンク色の長い髪が特徴の女の子だ。
その二人の逃げ道を防ぐようにたつモヒカンとアフロ。
「
流派の違う武道だが、俺にとっては当たり前に使えてしまうのだ。……というより時空覇王流は大黒精霊流の分家でもあるのだから覚えてしまうのだ。
時空を超えた必殺の拳がうなる。
モヒカンを吹っ飛ばし、その勢いでアフロまでも吹っ飛ばす。
「へぎゃーっ!」
情けない声をあげ、壁に叩きつけられるモヒカンとアフロ。
「あ、ありがとうございます!」「ありがと……」
女の子二人は謝礼を述べ、路地裏から日の当たる場所に出てくる。
「わたしはシャーロット=エンジェル」
「ぼくはエミリー=エンジェル」
三日月の赤髪の子がシャーロット。ピンク色の方がエミリーというらしい。それよりも。
「ふたりは姉妹なのか?」
「そうよ」「うん……」
「俺はエヴァ=。よろしくな」
途中で言いかけて止める。
今、「エヴァ=オルコット」と名乗るのは危険すぎる。
そちらに転がっているモヒカンとアフロも、奴隷制度の廃止により、仕事を失った者かもしれない。
実際、廃止されてからも街の治安は悪化し、今まで通り闇市で奴隷を売る話もある。
「エヴァ……?」「確か、この街の領主・オルコット様の次女もそうだったかと」
まあ、わたしには関係ないわね。と続けるシャーロット。
「まあ、そう言ってもらえると助かる」
「それにわたしの知っている子は、女の子のはずだし」
こちらが本当の見た目と認識したのか、彼女はオルコット家と同じ可能性を否定した。
「すごい筋肉……」
とエミリーの方が見てくる。
「ははは。これでも何十年も鍛えてきたからね」
「そうね。鍛えてないとできないわ。その筋肉は」
「ぼくも、……ムキムキになった方がいい……?」
恐らくは、今回のような事態を引き起こさないためにも、という意味合いが込められているのだろう。ちらちらとモヒカンを見ているし。
「それはやめておけ。せっかくの可愛さが台無しになってしまう」
「か、……!?」
なぜか顔をまっ赤にするエミリー。
俺は漢の世界で生きてきたせいか、この手の手合いに関しては勉強が足らないのだ。
「ほう。わたしの妹を……」
含んだ言い方をするシャーロット。三日月のアホ毛がゆれる。
「見る目があるね!」
たはははと笑うシャーロット。
なにが言いたいのだろうか。
「それよりもこれもご縁だ。なにかおごらせてくれ!」
元気よく申し出るシャーロット。
「いや、俺はたまたま通りがかっただけだから」
こんな事情を母に知られたら側頭してしまうだろう。
遠慮もあるが、そっちの方が大きい。
「これでも侯爵家、お礼のひとつもできないなんて思われたくはないわ」
「ぼくも……そう思う」
「そっか。分かった」
あとどれくらいこの格好でいなければいけないのだろう。愛木の姿で。
ちなみに服はパージされているので、スカートがなんとか身を守っている状況だ。
「まずは衣服を買ってきていいかな?」
「もちろんですわ」「もちの、ろん……」
二人の後押しもあり、近くの衣類店で買い物を始める。
「これがいいかしら? 麦わら帽子とあいそう」「こっちの燕尾服がいいんじゃ……」
二人の意見は聞かなかったことにしよう。
自分で黒のズボンとTシャツを購入する。
幸いにもお金はある。
没落貴族とはいえ、今は領主なのだ。それなりの稼ぎはある。
……とはいえ、贅沢をできるほどではないが。
そのため、この愛木礼治になる魔法をする度、衣服をパージしていたのならお金が底をついてしまう。
どうにかして解決しなくてはならない問題でもある。
「それよりもオルコット家は危ないよね」
「うん……このままだとワイアット=リンジーが領主に変わりそう……」
リンジー家。
この辺りでも優秀な領主と言われている。
改革派と保守派に分けるのなら、リンジー家は保守、オルコット家は改革派になっている。
みんな変化を嫌っているので、自然と保守派のリンジー家に票が集まるのだ。
とはいえ、前年の冬ごもりの時に農業改革で実績を上げている。となれば、次なる改革を求める声も大きくなっている。
その実績ありきで今回の奴隷制度の廃止も決まったようなもの。
だが実際に発令してから、領民の暮らし向きは芳しくはない。
「これでいいの? エヴァ」「そうだよ……かっこわるい」
俺がきている服も安物だ。
下手な侯爵家よりもお金がないのだから仕方ない。それにいつ破けるかも分からないのだ。
「これでいい」
「そ、そう。あなたが満足しているのならいいけど」「ね……」
パンッと手を合わせるシャーロット。
「それよりも! 極上のスイーツを食べにいきましょう?」「お礼だから……」
「分かった」
渋々、俺は彼女らの意見にのる。
甘いのは苦手と言い出しづらかったのだ。
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