第25話

 白鷺が、教壇の上で喋っていた。

 俺は、放送室にいって放送を止めるようにお願いした。その場には七菜もいて、どうやら彼女が頼み込んだことであったようだ。七菜は胸をはって「すごい宣伝効果だったでしょう」と言っていた。ちなみに、彼女の隣では三司馬もいた。看板を背負っている異様な姿のはずなのに、なぜか七菜のほうが迫力があった。

 そして、教室に戻ってきたら白鷺が演説をしていた。

 どうして、彼女がここにいるのだろうか。俺に会いにきたのだろうか。理由なんて、それぐらいしか考えつかないのに……どうして彼女は檀上に上がっているのだろうか。津田先輩や豊は、たぶん突然増えたのだろうギャラリーの対応に右往左往していた。

 白鷺は、そんな二人の代わりに壇上にあがったのだろうか。

 俺は、白鷺の話を聞いていた。観客と化した人々と共に、聞いていた。

 最後に、白鷺は俺の方を見た。

 白鷺の唇が、動いたような気がした。


 アスナがやってきたとき、俺たちは疲れ切っていた。

 あれからも客はひっきりなしにやってくるは、白鷺以降の発表はグダグダするはで……とても成功と呼べるようなものではなかった。それでも、俺たちにはやりきったという満足感はあった。

「へー、やっぱりグダグダになったんだ」

 アスナは休んでいる俺たちに、カップケーキを差し入れてくれた。

 ありがたい。

 昼飯をどうするとか決めていなかったから、本当にありがたい。

「これからどうするの?」

 この昼休憩の後に、アスナを発表も増やしてもう二回の発表をする予定だった。だが、午前中で俺たちは疲れ切っている。

 宣伝した手前、予定を変更するわけにもいかない。

 仕方がないので、なんとかやりきるしかないだろう。その前に、俺にはやることが残っているけれども。

「答えはでたの?」

 アスナは、俺にそう尋ねた。

「いや、俺の疑問は解決しなかったよ」

 俺の疑問は高校生に性交渉は早いのか遅いのか。

 その答えは人それぞれで、まったく参考にならなかった。

 つまり、俺たちは自分たちで考え続けなければならないのだ。

「ちょっと抜けるな。俺は行くところがあるから」

 津田先輩たちに、俺はそう告げた。

 豊と津田先輩は、何かを察したかのようににやにやとしていた。

「行ってこい。行ってこい」

「べつに、報告はいらないからね」

 だが、アスナは首をかしげていた。

「どこに行くの?」

「学校裏」と俺は答えた。

 文化祭は、おかしなものだ。いつもの校舎、いつもの教室なのに、まるで異世界に来たみたいに思える。生徒たちがせいいっぱいの飾りつけをして、いつもの教室を楽しく飾り付けをしているからだ。見ていると安っぽい作りだけど、その裏には俺たちが経験したような苦労がいっぱい詰まっているのだろう。

 俺が校舎裏に行こうとしたから、眺めはどんどんと寂しくなる。華やかな客寄せの声も聞こえなくなって、いつもの校舎に戻ってきた気分になった。

 そして、もっとも寂しい場所に彼女はいた。

 白鷺だった。

 絶対に、ここにいると思った。

「零」

 白鷺は、俺に手紙を渡した。

 ハートのシールがついた、白い封筒。

 とても、ありきたりなラブレター。

 俺にとっては、懐かしいものだった。

「零……私は、あなたのことが好きです」

 白鷺は、俺にそう言った。

「最初は、そうじゃなかった。でも、あなたを知れば知るほどに好きになりました」

 白鷺は、深呼吸する。

 その手は、わずかに震えていた。

 緊張しているのだろう。

「私と付き合ってください」

 その言葉をいった、白鷺。

 俺の心は、ずっと前から決まっていた。

「白鷺!」

 俺は、彼女の名前を叫ぶ。

「俺も、大好きだ!!」

 俺の叫びが、俺の想いが、俺の意思が、校舎裏にこだまする。

 誰のものでもない、俺の想いが。

 白鷺は、俺の言葉を聞いて少し驚いたような顔をしていた。けれども、すぐに笑った。小さな花のような、可憐な笑顔だった。

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