第14話

 私は、昔から自分が嫌いだった。

 まず、生まれた家が嫌いだった。兄と姉と小さな姉と私の四兄弟の家に生まれた。私がもらうのは、おさがりばかりだった。新しいものなど一つもない。

そして、ふと近くを見るといつも新しい服を着ている女の子がいた。

その子の名前は、白鷺。

あとで知ったことだが、親は金持ちで白鷺は一人っ子だった。しかも、母親を早くに亡くした白鷺は父親に甘やかされていた。玩具も洋服もいつでも新しいものを与えられて、髪の毛はいつも可愛らしく結われていた。私とは違って、親からたっぷりと愛情を注がれた女の子だった。

私は、女の子――白鷺に近づいた。

白鷺は気弱で、すぐに私になついた。私は白鷺が持っているものが、ただ欲しいだけだった。洋服が、髪飾りが、白鷺が持っているものを私にくれないかと思っていた。けど、白鷺は一つも私に物をくれなかった。

白鷺にとって、私物を上げるというのは友好の証ではないようだった。侮蔑の印であった。だから、白鷺は私に物を渡さなかった。けれども、私にはそれが不服だったのだ。

たとえ白鷺の気持ちを知っていようとも、私にとってはそれが――とても不服だったのだ。だから、中学生になってからは白鷺を捨てた。もう、おさがりには期待せずに自分に正直に生きようと思った。

だから、私は私の理想の人々と友達になった。

 そして、メイクや流行を取り入れてどんどんと理想の自分に近づいていった。けれども、理想の私になるにはお金がかかった。小遣いだけでは、足りない。だから、私は再び白鷺に近づいた。

 白鷺は、予想通りお金を貸してくれなかった。

 白鷺の性格はしっていたから、悲しくもなかった。けれども、私は白鷺を悪人とした。私の良心は痛まなかった。私は、たぶん白鷺が嫌いだったのだ。うじうじしている、親に恵まれているだけの人間だと思っていた。

 けれども、私の思惑通り私の友人たちは白鷺を虐めだした。

 私は、白鷺はすぐに根をあげると思っていた。

 根をあげて、私たちの財布になると思っていた。でも、白鷺は私の自由にはならなかった。それどころか、私のラブレターを使って零先輩と付き合い始めた。

 許せなかった。

 どうして、あの子は好きになってもらえたんだろうか。

 そんな私は、零先輩に「また、あったな」と声をかけてもらえた。私の心は、浮き立った。でも、結局は零先輩は白鷺を選んだ。

「まっ、零はより良い男はたくさんいるぜ」

 零先輩と一緒にいた男性は、私に向かってそう言った。

「勝手に言わないで!」

 私は、叫んだ。

 零先輩みないた人は、もう一生会えないだろう。

 けれども、私のもとに零先輩は来ない。

「……まぁ、人生なんてそんなもんだろ」

 なにかを見透かしたように、零先輩と一緒にいた男性はそう語る。

「私にとって、零先輩一人なの!」

 私は、怒鳴った。

 零先輩と一緒にいたもう一人の男は、「津田先輩!」と心配したように私に話しかけていた男に呼びかけた。どうやら、彼は津田というらしい。

「だったら、自分を磨いていかないとな」

 津田は、笑っていた。

「そうすれば……零先輩は私を好きになってくれるの?」

「分からない。ただ、チャンスがあれば挑めるだろ」

 まるで自分にはチャンスすらない、と言いたげであった。

 私は、いつか零先輩が振り向くような人間になれるのだろうか。

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