第24話 組手
エルナが気になるのはもっともだ。でも二人はまさかスキルを削除したなんて思わないだろうな。
「その事なんだけどね、体術のスキルを消してもらった。」
「ええっ!体術消しちゃったの!?」
「うん。思う所があってね。だから二人には迷惑をかけちゃうと思うんだけど……」
この点に関しては本当に申し訳ないと思っている。一つ気になるのは私が体術を削除したことによって通常の戦闘が果たして可能なのだろうか。
もしかしたらこの刀も抜けなくなっている可能性がある。
そっと刀の柄に手を掛けて引き抜いてみた。しかし、心配は杞憂だったみたいでするりと何の抵抗もなく刀は抜けた。
予想していた変化は無い。刀の重量の変化か、もしくは振りにくくなっているかのどちらかだと思ったのだけど。
「体の変化はありませんか。ミズキ。」
「うん。今のところは。」
「ではこのまま組み手をしてみましょうか。」
素手で軽く腰を落として構えるカイサ。流石元軍団長だけあって威圧感が並ではない。きっと素手での訓練もしているのだろう。
刀を納めて私もカイサの真似をして構えてみる。初めて素手で構えたせいなのか、なんだかしっくり来ない。
「まず、軽く打ち込んでみるので好きなように対処してみてくださいね。」
「分かった。よろしく。」
内心ドキドキしながら拳が飛んでくるのを待つ。カイサが軽く振りかぶると本当にゆっくりと拳が飛んできた。その拳を払うように手を動かすと、なんとか防御に成功する。
やっぱり体術を削除した分、対応に若干の遅れが出ているように感じた。でも元々運動神経が悪かった私とは思えないほどにしっかりと動けている。
「この速度なら対処できるみたいですね。次はもう少し早くしてみますね。」
「う、うん。」
カイサが地面を蹴ったその瞬間、凄まじいスピードで拳が顔面に向かって飛んできた。さっきのスピードとは比べ物にならない速度だ。
「くっ……」
顔面に当たる直前でわずかに身を引いて勢いを殺す。しかし、距離が足りなかったのか勢いを殺しきれずにカイサの拳が顔面にクリーンヒット。そのままフラフラと後退してしまった。
「ミズキっ!」
心配そうにエルナが私の元へと駆け寄ってくる。その後ろからカイサが申し訳無さそうな表情をして私の顔を見つめていた。
「すみません。いきなりでしたよね。」
「ううん。大丈夫。私が至らないだけだから。」
殴られた箇所を擦りながら心配そうに私を見つめるカイサ。それよりも顔が若干近い。
「み、ミズキ!一応これ飲んでおく?」
何故か慌てたように懐からポーションの瓶を取り出して左右に振るエルナ。ただ殴られただけなので断ろうとしたところである案が浮かぶ。
「ポーションってどの程度まで傷が治るんだっけ。」
「今私が持っているのは中級ポーションだから……臓器や四肢の欠損が無ければどんな怪我でも治るよ。」
「じゃあ、切り傷程度ならいくらでも治るね。」
「う、うん。ミズキ、一体何をするつもりなの?」
恐る恐るといった表情で私に聞くエルナ。そんなエルナに笑いかけるとカイサの目を見て言う。
「……カイサ、私と剣で戦って欲しい。」
「それは木剣では無く……?」
「うん。真剣で。もちろん嫌だったら断ってくれても構わない。」
私の言葉に少々考え込んだようだったカイサはコクリと頷く。
「わかりました。しかし、念の為危険だと判断したときはエルナに止めてもらいます。お願いできますか?」
「うん、分かった。二人とも怪我には気をつけてね。」
エルナは危険が無い位置まで下がると、私達の動きをじっくりと観察する。きっといつでも止めに入れるようにする為だろう。
そしてカイサは雪花、私は魔剣を腰から抜く。そういえばハイダさんに刀の銘を聞くのを忘れていたな。
「いつでもかかって来て下さい。」
「うん。」
威圧感があるカイサ。この圧力の発生源は真剣で戦っているせいなのかそれとも体術スキルが無いという恐怖のせいか。でも自分から行かないといつまでも成長できない。スキルを捨てると決めたのは自分じゃないか。
地面を蹴り、真正面では無く側面から斬りかかる。下から上へと斬り上げるように。すると流石の反応速度でいとも簡単に受けられてしまった。剣を弾かれてそのまま斬り下ろしが私に向かって襲いかかってくる。
観戦しているエルナさんに一瞬焦りの表情。だが、自分で望んだ以上こんなところで終わるわけにはいかない。さっきのカイサのように剣と剣が交差するように受ける。そして剣を弾き返して胴に向かって斬撃を一撃を入れた。
カイサのことを傷つけないように攻撃を入れる瞬間に刃と峰の向きを入れ替えた。傷はついていないはずだけど……
膝を付いたままカイサが微動だにしない。まさか何処かにダメージを負ってしまったのか。心配になってカイサの顔を下から覗き込む。
「大丈夫?何処か傷つけちゃったかな。」
「い、いえ!大丈夫です!」
カイサは突然後ろに飛のく。若干顔が赤いようだがきっと気のせいだろう。
「そ、それよりもミズキ。本当に体術スキルを削除したのですか?」
「う、うん。ほら。」
胸ポケットに入ったままのギルドカードを見せる。カードにはしっかりと三種類のスキル【怪力】【言語解読】【竜の加護】が記載されていた。
「本当ですね……体術スキル無しであの動き、もしかしたらミズキは元々戦いの才能があるのかもしれませんね。私の動きを一度見ただけでそのまま真似てしまうなんてあんな短時間ではほとんど不可能ですよ。それに私に攻撃を当てる瞬間、刃から峰へと刀の向きを変えましたよね。あれは相当剣の扱いに長けた者で無いと難しいかと……」
「そうなんだ……あれはカイサを傷つけたくなかっただけで技術的なことなんて全然考えて無かったよ……」
「ミズキ……」
感動したかのような視線で私を見るカイサ。
「二人ともすごかったねー!」
観戦していたエルナがこちらにやってくる。何故か急いでいる様子だけどどうしたのか。
「カイサがミズキに剣を振り下ろした時は止めようかと思ったけどその必要は無さそうだったね。」
「止めないでくれてありがとうね。」
思わずエルナの頭を撫でてしまう。エルナは嫌がる素振りは全く見せずに笑顔で私の撫でる手を受け止めていた。なんだか子犬みたい。
女が転生したら百合ハーレムになりました 猫本クロ @nekomoto_kuro
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