第23話 ミズキの決断

「ねぇ、二人とも。聞きたいことがあるんだ。」


「なに?」


「なんですか?」



二人とも私の目の前にやってくる。今から私は重大な決心を二人に言おうと思っている。



「あのね、スキルって削除出来たりしないかな。」


「削除!?」


「できると言うことは聞いたことがありますけど、確か回数制限があった気がします。」



驚くエルナと冷静に答えてくれるカイサ。



「詳しくはきっとハイダさんに聞いてみたらわかると思うよ!」



確かにこういった悩みは受付のハイダさんの方が絶対に詳しいだろう。それじゃあ早速ハイダさんに聞いてみようかな。二人には訓練場で待ってもらってハイダさんのところへと向かうことにしよう。






「えー!何言ってるの!?ミズキくん!」



ハイダさんにスキルを削除出来ないかと打算した所、物凄く驚かれてしまった。まあ、それもそうか……



「せっかく体術のレベル最大なのに……もったいないよ?」


「いえ……このスキルは元々私のものでは無いですし……」


「え?どういう事?」



そうか、こんなことを言ってもハイダさんは混乱してしまうのか。かと言って私が元々この世界の住人では無く、別世界の人間だと言っても絶対に信用してもらえないだろう。



――どうしたものか……



「もしかしてミズキくんのスキルって他人に譲渡されたものだったりするのかな。」


「譲渡……ですか?」


「そうそう。譲渡っていうのはね……簡単に言うと、自分のスキルをそのままのレベルで他人に受け渡すことを言うんだ。使用例としては自分が武術の道場の師範だったとするね。そして師範の人の余命が近づいている。そんな時に自分が最も信頼している、弟子に自分の流派のスキルを譲渡するんだ。するとその極められた流派は廃れること無く引き継がれていくってわけ。」


「なるほど……流派のスキルレベルをそのままに継承されていくと。」


「そういう事!ミズキくんはキルドにも入っていなかったし、戦いの経験も無かったよね。だからその説が濃厚かなって思ったんだ。でもそれなら尚更もったいないよ。もしかしたら体術スキルが無くなってしまうことで戦闘がまともに出来なくなるかもしれない。怪力だけだと難しいかもね。それでもいいの?」


「はい。他人の力を使って強くなるなんて卑怯な真似はしたくないんです。」


「……分かった。ミズキくんの決意は本物だね。」



座っていた椅子から立ち上がると、色々な道具が並べられた棚の中から金属の小さい杖のような物と、小さな小瓶を私の目の前のテーブルに置いた。



「本当はこういう措置を取らないんだけど……ミズキくん。右手出して?」



言われたとおりに右手をテーブルの上に置いた。するとハイダさんは金属の杖で私の手の甲をコンコンと叩いた。その瞬間、淡い金色の光が私の手から現れて金属の杖の先に留まる。


そのまま杖の先を小瓶に入れて三度振る。光が小瓶の中に吸収されたかと思うと、小瓶の栓をして中をかき混ぜるように小瓶を振った。何やら不思議な光景だ。現実世界では絶対にお目にかかれない。



「はい、おしまい。これでミズキくんの体術スキルは完全に失われたよ。」


「ありがとうございます。」



礼を言ってこの場から立ち去ろうとすると、ガシッとハイダさんに腕を掴まれてその場に留められた。



「待って!」


「なんでしょうか。」


「まだ、説明は終わってないよ。この小瓶についてね。」



説明を聞くべく再びハイダさんの向かいに座る。



「この小瓶はただの小瓶じゃない。今現在、この小瓶にはミズキくんから吸い取った体術スキルが入っている。」


「どういう事ですか?」


「えっとね、この小瓶にはスキルを保存できる機能があるんだけど。スキルが保存された状態の小瓶の中身を飲み込むとスキルが自分に戻ってくるんだ。」



飲み込むって言っても中身は光だ。どうやって飲み込むのだろうかと思っていると、小瓶の中身が青緑色の液体に変化していた。これは私が攻撃を出す時に灯る光と全く同じ色。



「なるほど……」


「うん。ミズキくんもし、今後この体術に頼らなくてはいけない状況に陥ったときはすぐに私に言ってね。」



パチンとウインクを私に向けてくるハイダさん。本当にハイダさんにはお世話になりっぱなしだな。



「おっ……ハイダ。ようやくそれを使う気になったのか?」



通りすがりのギルド職員が、小瓶を見つめて言う。もしかして大切なものだったのかな。



「ええ、この子ならいいかなって。」


「ようやくお気に入りの子を見つけたんだな。良かった。」


「あ、あの!一体どういうことですか?」



気になって職員に聞いてみる。



「あー、ハイダのこれは結構貴重な魔道具なんだよ。今まで全然使ってこなかったんだけどな。」


「貴重なって……そんな物を私に……」


「いいの、いいの。私、ミズキくんのこと大好きだからね。」



ニコッと私に眩しい笑顔を向けてくる。大好きと言われるとむず痒い気がするけど、悪い気はしないな。



「私もハイダさんの事は大好きですよ。」



そう答えて笑顔を返す。その瞬間、何故かハイダさんの顔が若干赤くなったような気がした。






訓練場で待機してもらっている二人の元へ急いで向かう。扉を開けると、何やら金属音。まるで剣と剣がぶつかるような音がする。


そっと扉を開けるとなんとエルナとカイサが訓練中だった。しかも刃が付いた真剣で。どうやら私が戻ってきたことに気がついていないのか、めったに見ることの無い引き締まった表情でお互いの技術を磨きあっている。


カイサは洗礼されて整った動きで。エルナは見た目に反して荒々しいが、熟練された動きでカイサを追い詰めていく。


忘れていたけど、エルナはギルドの戦士として長いキャリアがあるんだった。このくらいの戦闘能力は当たり前か。



「ただいま。二人とも。」



訓練中の二人に声を掛ける。するとお互いに攻撃の手を止めて私の元へと走ってきた。



「二人とも凄かったね。惚れ惚れしちゃったよ。」


「ううん。全然まだまだだよ。カイサの剣技に圧倒されちゃったしね。さすが、軍団長だよね。」


「いえ、私はまだまだです。エルナは熟練の戦士の風格があります。私の隙を見つけた瞬間の対応には目を張るものがありました。」



カイサの素直な反応に少々照れた様子を見せたエルナ。



「そう言われちゃうと照れるね……そうだ、ミズキ。結局スキルのことはどうなったの?」

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