第22話 竜の加護
「そういえばカイサのスキルってなにがあるの?」
話の流れのついでに聞いてみる。パーティメンバーとしても知っておくべきだと思ったから。
「私は、風魔法・水魔法・感知の3種類です。」
「感知ってどんなスキルなの?」
私も気になっていたことを聞いてくれるエルナさん。感知か……私が知っている範囲、と言ってもゲームや漫画の知識だけど、確かに遠くの敵の気配を察知するようなものだった気がする。
「感知はですね。簡単に言えば敵の場所を把握する能力になります。スキルの熟練度が上がれば、建物の中の敵も感知が可能になるはずなのですが……今の私は野外の敵しか感知出来ません。」
だから城内の戦闘になったときにカイサは敵に気がつかないで反応が遅れたのか。
「へえー、冒険の時に役立ちそうなスキルだね。モンスターの不意打ちに強そう。」
「ええ。知性の持っていない生物なら容易に感知出来ます。野生の生き物は殺気に満ち溢れていますから。……ところでミズキのスキルはどのようなものがあるのですか?」
「私のスキルは……」
説明するために改めてギルドカードを胸ポケットから取り出すと、スキル一覧の項目を確認した。その中にはいつも通り、怪力、言語解読、体術の三種類が刻まれていたが、その他にもう一つ。
新たなスキルが刻まれていた。その名は【竜の加護】。どんなスキルかは検討もつかない。
「これは一体……」
「どうしたの?」
考え込んでいる私のことを心配したのか、エルナが私の方へと近寄ってくる。
「いや……スキルの項目が増えててね……」
「どれどれ……【竜の加護】?」
「うん。全然どんなスキルか検討もつかないけど……」
「ギルドカードのスキルの名前に触れてご覧。それでスキルの詳細が表示されるはずだよ。」
後ろからハイダさんが声をかけてくる。ギルドカードにはそんな機能もあったのか。
言われた通りにスキル名をタップしてみる。すると、ゲームでよくあるシステムウィンドウのようなものが浮き出てきてスキルの詳細な情報が表示されていた。
【竜の加護】
・本人が視認した攻撃魔法を無効化させる。
・攻撃に微弱ながら本人の意思に関係無く爆裂魔法が付与される。
・なお、このスキルは討伐した竜の力に依存する。
なんかとんでもないスキルのような気がする。ドラゴンスレイヤーの特典ってやつかな。デメリットは手の甲あたりにずっと刺青のようなものがあることぐらいか。
「なかなかすごい能力だね……」
いつの間にやら隣からハイダさんが覗き込んでいたみたいで声がする。
「私も冒険者を見始めてから長いけど、このスキルを実際に見るのは初めてだよ。かなり古い文献で残っているのを読んだきりだね。」
「爆裂魔法か……全然気が付かなかった。」
「確かにミズキの戦闘を拝見させて頂きましたが、攻撃を受けた敵に多少の衝撃があったように感じました。」
隠密向きでは無さそうだ。攻撃時に爆発音が毎回してしまえば、複数の敵を相手にした時絶対に気が付かれてしまう。
「便利な機能だけど、敵が多い時に不意打ちしにくそうだね。一体は倒せても残りの敵に気が付かれそうだ。」
「でもミズキのスピードなら敵が沢山居ても一瞬で倒せそうだね。」
「確かにミズキのスピードでしたら苦戦はしなさそうですね。斬撃のキレも素晴らしいので。」
カイサのような手練の人にここまで褒められるとむず痒い。自分の実力が自分で理解出来ていないからあまり自覚がないけど。
「一度手合わせを願いたいぐらいです。」
「手合わせか……確か訓練所があったよね。」
「うん!ギルドに入っている人ならいつでも使ってくれて構わないよ。」
「それじゃあ、私も戦いのいろはを是非教えてもらいたいし、行こうか。」
カイサと私は訓練場の真ん中に向かい合って立っていた。お互い武器を構えて。でも、構えている武器はいつもの刀では無く、木剣だ。
お互い傷つけないように相談した結果、木剣を使って戦うことになったわけだけど……
なんせ戦い慣れているカイサの方が構え方に隙が存在しない。対して私はどうやって構えたらいいのか分かっていないため、適当に構えている。
しかし、問題は私が持っている武器。一言で言うなら
―――軽い!軽すぎる!
初めてここに来たときも木剣を持たせてもらったことがあったけど、今回の軽さは段違い。きっと竜の加護が付いたせいなんだろうか。
「ミズキ。どうかしましたか?」
「うーん、やっぱり軽すぎるなあ。」
「ミズキは怪力スキルを持っているのましたね。それならこの木剣でも木の枝ほどに感じてしまうかもしれないです。」
「うん。そうなんだ。だからもしかしたらいつも以上に上手く戦えないかも。」
木剣を上下させながら答える。やっぱり軽い。向こうの世界にあったおもちゃのプラスチックの剣を振っているみたいだ。
「ミズキは戦闘の勘が鋭いので、どんな武器の扱いでも上手く行くかもしれません。一度立ち合ってみましょう。合図をお願いしてもいいですか?」
「うん。分かった。」
エルナが片手を上げる。
「それじゃあ、行くよ!始めっ!」
エルナさんが上げた手を振り下ろしながら言う。それと同時にカイサが私に向かって襲いかかってきた。左上からの斬りおろし。それを受け止めるように片手で剣を振り上げた。
驚いたことにいとも簡単に剣を弾き返すことが出来た。これは体術スキルのお陰なのかな。
表情に一瞬焦りが見えたここで畳み掛ける。まるで自分の体ではないかのように、スムーズに自動的に体が動く。むしろ私は一切、身体を動かしていないに等しい。自分では無い誰かが身体を動かしているみたいだ。
カイサの事をまたたく間に圧倒してしまった。カイサはと言うと、驚いたような顔で私のことを見ていた。
「す、すごいですよ!ミズキ!」
私の方へと駆け寄ってくる。しかし、私はこの結果に納得いっていなかった。これは私自身の力では無い。
「ねえ、体術スキルって自分の意思とは関係なしに身体が動くものなのかな?」
「確か……使用者のスキルレベルに依存すると聞いたことがあります。レベルが高ければ高い程、反応速度が全く変わってくるとか……」
「スキルレベルか……」
胸のポケットに入れていたギルドカードを取り出した。スキルの項目をタッチして見てみると、
怪力【Level:5】
体術【Level:10】
言語解読【Level:7】
竜の加護【Level:?】
となっていた。
竜の加護はなんとなくレベルが無いことは頷けるが、他のレベルは一体どういう基準になっているのだろうか。そもそもレベルは何処までが最大なのだろう。
「レベルって最大でいくつかわかる?」
「レベルは最大で十まで上がります。十まで上がった物は人並み外れた力手に入れられるのだとか。」
「な、なるほどね。」
これで合点が行った。私がおかしいぐらいに動けるのは体術スキルがレベル十だからだったのか。
「でもレベル十になるにはかなりの鍛錬が必要みたいですが……才能があるものでも最低十年程はかかると言われています。」
十年……私はこの世界に来たばっかりだというのにこのレベルか。なんだか一生懸命この世界で生まれた人たちが築き上げてきた経験と鍛錬を何もせずに手に入れてしまったことになる。
なんか卑怯な真似をしているような気持ちにいっぱいになってしまう。確かにこのスキルのお陰で助かった部分もあるけど……よし、決めた。
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