第16話 プレゼント

勢いよく取られた布の中身はやはり防具だったんだ。ドラゴンの体表の紺色を基調に金属部分はガンメタリック色で私の好みと完全に一致。


刀を振りやすいように以前と同じデザインにしてもらった。左半分を中心に鎧で多い、右腕にはガントレット。ガントレットで気になる点は、手首にドラゴンの目のようなものが付いてること。



「この目って……」


「おっ、気がついたか。この目は特殊な構造になってていてな。街中をごつい鎧で歩くのは大変だろ?だから……言うよりも実際に試着した方が早いか。」



馴れた手つきで私に次々と鎧を装着していく。最後にガントレットをはめられると、ニカッと破顔して満足そうに私の姿を見る。



「サイズは良さそうだな。似合っているぞ。」


「ありがとうございます。」


「じゃ、説明だ。右腕に付いているドラゴンの眼球を押してみてくれ。」



言われた通りにすると私の全身が青緑に輝いた。これは私が武器を振った瞬間の時と同じ色だ。きっとこれは私自身の魔力なんだと思う。


その魔力が全身を包み込んだ感覚と共に、全身に纏っていた鎧がガントレットを残して消滅した。



「ええ!?」


「どうだ。驚いたか!これがうちの工房の最新技術だ。魔力の根源を持ち主の魔力に呼応させて起動する収納術だ。これは魔法適性がなくても鎧だけなら収納できる便利な機能がついているぞ。」


「もう一度押すと?」


「もちろん鎧が展開される。あれだけ傷が少ないドラゴンの体だ。魔力の根源がしっかり残されていた。魔力のは基本的に傷口から失われていく。傷の面積ではなく数で決まるんだが、皮膚のダメージが圧倒的に少なかった。首を落としただけの傷。これが質の良い魔力を保持した理由だな。」



私が勝負を長引かせたくない一心で首を落としたのが逆に功を奏したみたいだ。まさか鎧を作る域までに成長するなんて全く思っていなかったけど。



「あ、そうだ。もうひとつ注文があったな。あれは兄ちゃんが使うのか?」


「いえ、これは彼女に。」



エルナさんの方へと手を向ける。工房長はエルナさんに近づくと笑顔で大きめの包みを差し出した。



「なるほどな、これは彼女へのプレゼントって言うことか!」



ニヤニヤしながら私の胸をどついた。それと全く同時に工房長が私の方を見て目を見開く。



「も、もしかしてあんた女の子か!?」


「はい。」


「わ、悪ぃな。胸なんてどついて。」


「いえ、全く気にしてませんよ。」



心の中で大した胸はありませんので。と付け加えて、なるべく笑顔を心がけて発言したが工房長は何やらバツの悪そうな顔でエルナさんの方を見る。



「エルナさん。これはプレゼント。開けて見て。」


「ぷ、プレゼント?」


「うん。こっそり注文しておいたんだ。気に入ってくれるといいんだけど。」


「ミズキさんがくれたものならなんでも嬉しいよ!どれどれ……」



エルナさんは少々乱雑に包まれた布を開いていく。中身は精巧な作りの美しい剣だ。ドラゴンの甲殻と角をメインに作られているので紺色を基調としている。



「わあ……!綺麗な剣……」



柄を握り、鞘から刀身を引き抜いた。それは息を飲むほど美しい刀身で透き通るような水色をしている。まるで刀身自信が水晶のよう。



「これはドラゴンの角を磨いて剣にしたものだ。ドラゴンの角は魔力伝導が良いから炎剣使いのエルナちゃんにピッタリな剣になってる。」



工房長が説明を付け加える。ドラゴンの角はそんな効果があったんだ。魔法が使えない私にはほとんど関係ないみたいだけど。


「ミズキさんありがとう!私……大切にするね!」



ギュッと鞘に収めた剣を抱きしめる。ここまで喜んでもらえるなんて注文したかいがあるってものだ。



「喜んでもらえて嬉しいよ。普段エルナさんにはお世話になってるからね。そのお礼だよ。」


「ミズキさん……」



私の胸にすがりついてくるエルナさん。本当に嬉しそうな気持ちが表情と動作から伝わってくる。



「じゃ、頼まれた品は以上だな。ここまで質がいい素材で武具が作れて嬉しかったぞ!」



グッとサムズアップして工房の奥に立ち去る工房長。本当にいい仕事をしてくれて私は嬉しい。


工房長を視線で見送ると、ハイダさんが目の前にやってきた。




「それじゃあ、ミズキくん。話があるから着いてきてもらっていいかな?」


「お話ですか?」


「うん。結構重要な話。エルナちゃんもパーティーメンバーとして来てもらうね。」



それを聞いた途端、エルナさんの顔が不思議そうな暗いような判別しにくい表情へと変化した。一体どういう感情なんだろうか。






▼△▼△



私とエルナさんさんはギルドカウンターの奥、応接室のような場所に通された。


中は革張りのソファーとガラスのテーブルが置かれていていかにも高級志向という感じがする。傷つけてはいけないと思い慎重に座るとハイダさんが向かいに座り、口を開いた。



「話っていうのは……ミズキくんにある国から依頼がきたんだ。」

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