第15話 左手に異変

「いい話ってなんですか?」


「それはね、もうすぐ着くよ。」



目の前には昨日訪れた格納庫。ここにはドラゴンの亡骸が収められているはず。


ゆっくりと扉が開かれた。台の上には昨日と同様にドラゴンの亡骸が鎮座している。ドラゴンは迫力があって今にも動き出しそうだ。



「このドラゴンが何か……?」


「ミズキくんにこのドラゴンの素材を受け取って欲しいんだ。」


「素材を受け取ることでなにかメリットがあるんでしょうか。」


「まず、このドラゴンの素材を使って武器や防具を作ってもいい。素材の鮮度がいいから耐久性に優れた武具を作ることができる。そしてもうひとつの選択肢は解体する事でできる素材を売却すること。これだけでも一攫千金を狙うことができるね。」


「防具ですか……あ、そうだ!この前私が着ていたパーカーのことなんですけど……」


「あ、そうだ。その事もあったんだ。」



ハイダさんが手を二回打ち鳴らすと目の前に魔法陣。そこに手を入れて取り出したのは私のパーカーだった。



「コレ、でしょ!」



バサッと広げられたのは新品同然の私のパーカーだった。ほつれや汚れ一つ無い。



「そうです!そうです!良かった〜!」



シャツ一枚だった上に早速羽織る。この生地の安心感と言ったら無い。決して値は張るものでは無いけど私の宝物なんだ。



「すごく大切なものなんだね。」


「はい!」


「そうなんだ。……あれ?」



ハイダさんが訝しげな表情で私の左手を見ている。



「どうかしましたか?」


「ちょっと見せて!」



勢いよく左手をハイダさんの方に引き寄せられる。どうやら私の手の甲に注目しているように見えるけど……



「これ……どうしたの?」



私の手から力を抜いて手の甲が見えるように手の向きを変えられる。私の手に一体何が起きてるんだろう。


促されるままに見ると手の甲には何やらタトゥーのようなものが現れている。もちろん現実世界で私は真面目な学生だったのでそんなものは入れていないが、何故だろう?



「これに心当たりは?」


「ありませんね。」


「初めて見た感じかな。」


「はい。」



うーん。と腕組みをしながら思考するハイダさん。自分でも気になり、タトゥーのようなものを見つめてみると何やら竜の爪に見えるような気がしなくもない。


じっくり観察するとそれは、紺色のような色をしていて僅かな光がゆっくりと点滅している。ということはタトゥーの類では無さそう。



「ハイダさん。あの……このマーク、点滅しているように見えるんです。」


「本当だ。……でも特に体に不調はないんだよね。」


「今のとこは。」


「それじゃあ、少し様子を見てみようか。」


「分かりました。」


「うんうん。じゃ、本題に移ろうか。このドラゴンどうする?」



トントンとペンの先でドラゴンの腕を続くハイダさん。



「おすすめってありますか?」


「私としては、装備品がいいと思うな。ドラゴンの甲殻って衝撃を吸収するものが多いから……魔法障壁持ちのミズキくんにはオススメかな。」


「なるほど……では防具を。それともうひとつ、あるものをお願いしたいのですが……」






▼△▼△



「ミズキさん。お話ってなに?」


「あ、エルナさん。ちょっと私と一緒にギルドに来て欲しいんだけど、大丈夫かな?」


「うん。でもどうして?」


「それはね、来てのお楽しみだよ!」



エルナさんの手を握って歩き出す。エルナさんの顔が若干赤くなったような気がしたのだけど気の所為だろうか。


相変わらず綺麗な街並みを歩いていく。気分はまるで友人と遊んでいるみたい。しばらく歩いていくと目の前には見慣れたギルド。



「ハイダさん!来ました!」


「おっ!ミズキくんいらっしゃい!出来てるよ〜!」


「ありがとうございます。」


「ミズキさん、出来てるって?」


「見たらわかるよ。」



ハイダさんの後を着いて歩く。エルナさんを誘導するように格納庫とは違った場所へと向かう。


たどり着いた先は工房。ここでは武器や防具を作る場所らしい。鉄製の重そうな扉を開くと、かなりの熱が私たちに襲いかかってきた。


いざ工房に入って見ると、中は溶鉱炉や鍛治台など色々な設備が所狭しと並べられていてその数に見合った職人さんが忙しそうに働いている。



「おっ!ハイダさん。なんの御用で?」



立派な髭の中年がハイダさんを見るなり笑顔で近づいてきた。なかなか体格がよく全身が筋肉で覆われている。タンクトップのせいで余計立派な肉体が引き立っていた。



「工房長さんこんにちは。今日は注文のドラゴン武具を取りに来たの。」


「あー、はいはい!立派なドラゴンのですね。あの素材は良かったよー!一体誰が討伐したんですか?」


「ここにいるミズキくんだよ。」



ハイダさんが私の肩をポンと叩く。



「ええ!?その若さでドラゴンを一刀両断か!才能あるねー!……どうだい?うちの専属ハンターにならないか?」



ワッハッハと豪快に笑うと私の肩をバシバシと叩く専属ハンターか……そういう生き方もありかも?


少しだけ心が揺らいでいる間に、奥からガラガラと台車がやってきた。おそらく防具だろうが、中身は白い布で覆われていて判別できない。



「じゃ、布を取るぞ?」

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