第13話 食材系のスキル
「エルナさん。これ以上お金で解決しようとするなら私、怒るよ。私は本心でぶつかってきて欲しい。お金さえ出せば私が言うことを聞くって思われるのもなんか癪だしね。」
真っ直ぐに目を見て言う。そして僅かに微笑むと、エルナさんの口から手を離した。
「ごめんなさい……私、焦っちゃってたみたいで……このままだったらミズキさんは独り立ちして私の事なんて忘れちゃうんじゃないかって。」
「私がエルナさんの事を忘れるだなんて……そんなことありえないよ。恩人だし、それに大切な仲間でしょ?」
「ミズキさん……!」
感極まったのか、エルナさんが両腕を広げて私の体に突撃してくる。湯船の中で逃げ場のなかった私は躱す事も不可能で、モロに突撃を食らう。
「ぐえっ……」
「えへへ……ミズキさ〜ん。」
エルナさんが私の胸に顔を擦り付けてくる。若干恥ずかしいが、まあそれもいいだろう。
頭の上に手を置いてそっと撫でる。一瞬だけエルナさんは驚いたような顔をしたが、ニコリと私に微笑んで腕を回した。
▼△▼△
「さあ!どうぞ、沢山食べてね!」
「おお!すごい豪華だね!」
「今日は少し奮発しちゃったんだ!」
待ちに待った一日の楽しみ、ご飯の時間。
テーブルの上には色とりどりのサラダになんと今日はステーキ。
肉厚で濃厚なバターの匂いを放っている。嫌でも胃袋を刺激されて今すぐにでもかぶりつきたい。
パンもまるで焼きたてのように美味しそう。
「有名なお店でバケットを買ってきたんだ!ずっとこのお店のパン食べてみたかったの!」
「そんなに有名なお店なんだ。」
「うん!お店の店主さんが熟成のスキル持ちで絶妙なバランスの味を作り出すんだよね!食材系のスキル持ちって珍しいから高級品なんだ。」
高級品。やっぱりこの世界にもレストランのような飲食店のランクがあるみたいだった。
「食材系のスキルかぁ。他にはどんなのがあるの?」
「食材の重さを図る計量、食材の温度に上げる加熱、逆に下げるのが冷凍。1番料理人に欲しいとされるスキルは食材鑑定。これは、一目でどのランクの食材か判別できるんだ。高級料理店の人はだいたいこのスキルを持ってるよ。」
「へぇー。食材系のスキルだけで結構あるんだね。」
「私もランクは低いけど食材鑑定のスキルを持ってるんだ。」
「食材鑑定に錬金……エルナさんって万能なんだね!」
これならエルナさんが料理上手なのも頷ける。私は普段レストラン並みの食事を食べていたのか。
「いやぁ、万能だなんて……正直スキルって戦闘系なら戦闘系だけで固まってた方がよかったりするんだよね。だからミズキさんの怪力と体術のスキルを両方持ってるのは羨ましいなぁ。」
「肉弾戦メインな気もするけどね……」
「やっぱり魔法が使いたかった?」
私の気持ちを簡単に見透かされる。せっかく魔法の世界に来たのだから魔法のひとつでも使ってみたかったのに。
もし、これからこの街を出るとして一つも魔法を覚えていない私が戦うことになったら。近接攻撃が一切通用しない敵が出たとしたら。
不安要素が全くある訳では無い。私にあるのは尋常じゃない筋力だけ。
「うん。仲間に魔法使いが居れば別なんだけど、このままだと回復魔法すら無いままで戦うしかないから不安要素は多いかな。」
「うーん、私も回復魔法は使えないからなぁ。知り合いにも回復魔法使える人いないし……あ、ご飯冷めちゃうね。先に食べようか!」
「う、うん!いただきます!」
両手を合わせて食事に手を出す。まずはエルナさんが焼いてくれたステーキから。
ナイフで切って口に入れた瞬間、とろけるような歯ごたえであっという間に口でほぐれる。肉の隙間から肉汁が溢れて濃厚だ。これは美味しい。
「お、美味しい……」
「良かった〜!作ったかいがあったよ!」
「ほんとに凄いよエルナさん。私は料理からっきしだから尊敬しちゃうな。」
「褒められるのは慣れてないからなんか恥ずかしいな……」
顔を押さえて顔を真っ赤にする。そんな女性らしい仕草に少しキュンとする。
「パンも食べてみて。私のオススメだよ!」
エルナさんに言われてパンの籠へ手を伸ばした。均等な大きさに輪切りにされたバケットは外側はサクッと中はしっとりしているのが、手触りで分かる。
口へと持っていき一口かじる。すると小麦の味がふわっと口に広がってしっとりではなく、フワッとした食感だった。
「お、美味しい……」
あまりの美味しさにさっきと同じ言葉しか出でこなかった。語彙力が欠乏していて感想がそれしか出てこないのが悔やまれる。
「美味しいでしょ?普段は年に一度しか食べないんだけど、こうして食べられたのもミズキさんのおかげだよ。」
「そっか高級品って言ってたもんね。」
エルナさんお手製なサラダもいつもと同様にとても新鮮でシャキシャキしている。私も料理を覚えようかなと考えるぐらいに、やっぱりエルナさんは料理の天才だ。
エルナさんのお婿さんになる人が羨ましいレベルに。
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