第12話 ハプニング
「それじゃ、ミズキくん。カード出して。」
「はい。」
ハイダさんが私のギルドカードに自分のギルドカードをぶつける。すると鈴がなったような軽い音がして私のギルドカードにエルがチャージされた。
その額は110万エル。聞いていた額とは10万ほど差がある。
「内訳はドラゴン討伐の分と水晶の分で合計110万エル。これで報酬受け渡しが完了したよ。お金は好きに使ってね。」
「ありがとうございます。」
「それとちょっとお話があるから明日の午後にでもギルドに来てね。」
「分かりました。では、失礼します。」
深くお辞儀をして格納庫を去る。後ろからエルナさんもそっと着いてきた。でもなんか浮かない様子。
雰囲気を変えるために報酬の受け渡しでもやっておこうかな。
「そうだ。エルナさんに報酬を渡さないとね。ギルドカード出してもらってもいいかな。」
「う、うん。」
頭の中で60万エルを想像しながらカードをぶつける。その後、私のカードの残高を見てみると残額は50万エルとなっていた。受渡し成功だ。
「ちょ、ちょっと!ミズキさん!」
私が胸ポケットにギルドカードをしまい込んだ直後、金額を見たようであったエルナさんが物凄いスピードで私の元へと駆け寄ってくる。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ!こんなに分け前貰えないよ!?」
「だって、エルナさんには色々お世話になってるし。このお金でさ、剣を新調したらどうかな。」
「お世話って私は何もしてないし……」
「いいから貰っておいてよ。これは感謝の気持ちだから。ね。」
エルナさんの頭を撫でながら同じ目線に屈む。一瞬だけ目が合ったが、顔を赤くしてすぐに逸らされてしまった。
「分かった。このお金は好きに使わせてもらう。覚悟しておいてね……?」
何やら不穏なセリフを残して。
▼△▼△
「ふぃ〜」
熱いお湯に浸かり息を吐きながら体を弛緩させる。こっちの世界でもお風呂は気持ちいいものだ。
ドラゴンを退治した時の報酬で色々な生活雑貨を手に入れて私の気分は最高だった。あんまりエルナさんにも迷惑はかけられないし、そのうちここを出ていこうかなと思っている。
エルナさんの家は確かに居心地は最高だけど。私なりのケジメをつけたいから。
湯船の中で体をぐっと伸ばしてストレッチ。だいぶ疲れが溜まっているはずだから、少しは体をいたわらないと。
首を回していると、斜め後ろぐらいから首に向かって冷気を感じた。疑問に思い後ろを振り返るとそこには全裸のエルナさんが目をまん丸にして私の方を見ている。
「ご、ごめん!お邪魔してます! 」
慌てて頭を下げる。しかし、エルナさんの口から出た言葉は予想もしないものだった。
「ミズキさんって女性の方だったんですか!?」
すっかり敬語に戻ってしまっている。
そういえば、ハイダさんが『正直な話、最初私は貴女のこと男の人と勘違いしていたんだ。身長も高いし、声も低い。』とか言ってたっけ。
ということは私は恩人をずっと騙したいたみたいだ。なんて失礼なことをしてしまったのだろう。
「う、うん。……幻滅させちゃったかな。」
「い、いえ!女性でもミズキさんのことは大好きですから!」
「あ、ありがとう?あと、敬語に戻ってるよ。」
「あ……!で、でも逆に安心したかも。」
「安心……?」
「うん、寂しい時は寄り添うことができるし。それに同性同士なら一緒にお風呂入っても問題ないしね!」
なんか今、衝撃的な言葉を聞いた気がしたけど気の所為だろうか。
いや、気の所為じゃなかった。今まで入口にいたエルナさんが浴室の中へ入ってきていた。
「ちょ、ちょっと!エルナさん!?」
「お邪魔しまーす。」
確かに浴槽は二人ほどが入れるスペースがあるにしても流石にこれは恥ずかしい。
そっと湯船に入るエルナさん。私の体が大きいせいか、若干だが体の当たる部位があって気が気じゃない。
「え、エルナさん!私上がるよ!」
私が慌てて湯船から立ち上がろうとした時、ガシッと右腕をエルナさんに掴まれて半ば強制的に湯船に引き戻された。
「ちょっと待って……」
真剣な眼差しに私は大人しく言うことを聞いて湯船へと体を沈める。
その瞬間、エルナさんから抱きしめられた。
「ミズキさん……私ね、ミズキさんがこの家を出ていこうとしていること分かってるんだ。」
「え……?」
一言も口に出さなかったのになぜわかったのだろう。
「なんでわかったのかって顔してるね。そりゃ分かるよ。ミズキさんが私に遠慮してることぐらい。」
「遠慮なんて……」
「だからね、私は決めたんだ。ミズキさんに貰った報酬。それを使うことにしたの。」
話が全く見えてこない。私が譲渡した金額は60万エル。これを一体何に……?
「何に使うつもりなの。」
「私はこの60万エルでミズキさんを雇わせてもらいます。」
「雇う……?」
「そう。この国にはそういう制度が存在するの。護衛雇用制度。私が提示した金額で仮に雇われる本人が納得したなら、それで交渉は成立するんだ。」
「それなら話は早いよ。私はエルナさんに雇われる気はないからね。」
切り捨てるように言う。
なぜなら、私は友達と認めた人間にお金のやり取りはしたくないから。さっきのはパーティー上のやり取りであって、雇用関係にはない。
雇用関係を築いてしまえば何となく、友達に戻ることは難しいと個人的に思ったから。
「やっぱり、金額に不満があったかな。それなら……」
何となく言おうとしていることは分かる。増額するつもりなのだろう。
私はその言葉を遮るように左手で口を塞いだ。
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