第11話 英雄ラーシュ

「エルナさん。私はエルナさんの事を足でまといだなんて思ってないよ。」


「でも、私何も出来なかったし……」


「ううん。あの時、エルナさんは街に助けを呼びに行ってくれたよね。もし私がドラゴンに手も足も出なかったとしたらエルナさんが助けを呼んでくれたおかげで命を拾ったかもしれない。だから、エルナさんがしてくれたことは決して無駄じゃない。私はそう思うな。」



エルナさんの頭に手を伸ばしてゆっくりと撫でる。



「ミズキさん……」



ぎゅっと私の体に擦り寄ってくるエルナさん。少し涙ぐんでるようだった。



「まあまあ!お互い無事だったことだし、お楽しみの報酬の話をしようか!」



ハイダさんのこの発言は正直助かった。しんみりした空気のまま居るのは辛いから。



「報酬ですか?でも、私たちが受けたのは水晶の採掘ですよね。」



エルナさんが言う。私もこれは気になっていた。報酬は任務を受けた者しか貰えないのではないかと。


もしかしたら報酬の話っていうのは水晶採掘の方のことかもしれないから私が勘違いしている可能性も否定できないけど。



「もちろん水晶採掘の報酬もあげるよ。それ以外に特別任務報酬。ドラゴン退治の件ね。ドラゴン退治は危険性が高いからとっとと倒して貰いたかったんだよ。所謂指名手配制度かな。」



ピラッと私の前に一枚の紙を突き出す。内容を確認すると、討伐目標は私が相手したあのドラゴン。報酬額は100万エル。



「高っ……」


「びっくりした?本来、ドラゴンって十人単位とかで倒す生き物なんだよね。それを君はたった一人で倒してしまった。これは異常なことなんだ。」


「そうなんですね。」


「うん。皮膚も鉄並に硬いし、攻撃の威力も高い。セオリーとしては一人が攻撃を防いで他の人が攻撃する。これが確実な倒し方なの。パーティ限定だけどね。」



鉄並に硬い。私が倒したのは楽々と首を落とせたぞ。それこそ、調理の時のお肉以下の強度だった気がする。


ドラゴンの死骸近くに行ってドラゴンの皮膚をつついてみた。一切沈み込むことなく確かに硬い。この刀で斬れたのが不思議なぐらいに。



───もしかしたらこの刀のせい……?



「どうしたのミズキ君。」


「ハイダさん。この剣なんですけど、何か知りませんか?例えば……不思議な力を持っているとか。」


「うーん。私が知ってるのはその剣は英雄と言われている“ラーシュ”って人が使っていた物というぐらいだよ。」


「ラーシュさん。前にも言ってましたね。その人は一体何をした人なんですか?」


「ある昔、種族間戦争ってのが起きてね。その時に敵兵を1000人同時に相手したのがラーシュ。」


「せ、1000人って……」


「格が違うよね。でも彼はそれをやってのけた。結果はなんと、無傷。文字通り一騎当千だね。そして人族はこの戦争に勝利したんだ。彼のおかげで。……ま、ここまでがよく語り継がれる物語だよ。」



千人を相手した剣。そういえばアルさんもこの剣のこと魔剣って言ってたな。千人の血と魂が吸い込まれているんだもん、そうだよね。



「かなり古い話だけどね。本になるぐらいだし、ラーシュはもう故人だから。」


「そうなんですね。どうりで……」


「その剣、何かあったの?」



真剣な眼差しで聞いてくるハイダさん。



「さっきドラゴンの表皮は鉄よりも硬いって言ってましたよね。実際触ってみてその通りだって思ったんですけど、この剣だと簡単に斬れてしまったので。」


「なるほどね。だから不思議な力があるんじゃないかって思ったんだ。でもそんな話は聞いたことないし……気にしすぎじゃないのかなぁ。」


「そうですか……」



腰の刀を少し抜いて刀身を見る。刀身は至って普通の白銀色。特に変わった様子はない。


少しだけ柄に力を込めてみた。すると少しだけ刀身が青緑色に輝く。



「ミズキくん、それ……」


「あ、これですか?稀に戦っている最中に武器がこの色に光る時があるんです。大体は斬撃を当てる直前に。もちろん出ない時もあるんですが。」



一気に表情が変わるハイダさん。そして、私の刀の隣に屈むとそっと鞘に手を当てた。



「は、ハイダさん?」


「ちょっと静かにしててね。」



ハイダさんの手のひらから小さい魔法陣のような物が展開されて刀の鞘の上に留まった。


この行為の意味は全くもって分からないが、何かに納得がいったようだったハイダさんは一度頷くとそっと立ち上がる。



「うん、やっぱりそうだ。」


「やっぱりって……何がですか?」


「ミズキくんのその魔力の色、英雄ラーシュが操っていた魔力の色と全く一緒なんだ。その剣に選ばれた理由がやっとわかったよ。その色の持ち主はね、バリバリの戦闘タイプ。魔法は不得手とされてるんだけど……」


「私が魔法を使えないのはそのせいですね。」


「恐らく。でもやりようによっては魔法を使えるようなるかもしれないから頑張って見たらどうかな。努力は裏切らないって言うしね。」



そう言い私にウインク。そしてそのままドラゴンの近くに歩み寄るとドラゴンの死骸を確認し出す。



「うん。やっぱり指名手配されてたドラゴンに間違いないね。それじゃ、ミズキくんに報酬を渡すねー。」



ハイダさんが手にカードを持って私に近づいてくる。その様子を私は右手で制する。



「ちょ、ちょっと待って下さい。エルナさんにもきちんと分配してくださいね?」


「えっ!?でも倒したのはミズキさんだよ!」



この会話を聞いたエルナさんは慌てて私の所へと駆け寄ってくる。



「だってパーティーの一員だったのに不公平だよ。そんなこと言わずに受け取って欲しいな。」



これは当たり前の提案。一緒にクエストに来たんだ。私だけが良い思いをするなんて絶対にダメ。



「だったら一回全額ミズキくんに渡しちゃうからその後にエルナちゃんに分けてあげてね。その方が色々都合がいいと思うから。」



パチンと再びウインクをするハイダさん。これなら安心。エルナさんへの感謝の分だけ報酬を分配できるから。

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